超年下男子に恋をする㊷(本気の想いが募るほど彼は好きだと言わなくなった)
リョウのうちでの鍋パーティー。
彼は一人暮らしのリョウの部屋を隅から隅まで眺めながら
「いいなぁ、一人暮らし」
と心底羨ましそうにつぶやいた。
あれだけ実家が最高と言っていたのに、ずいぶん変わったものだと思った。
リョウの部屋の狭いキッチンは並んで立つのも難しかったけど、彼に手伝わせながら鍋の準備をした。
案の定彼はほとんど何もできなくて、結局ほとんどリョウと私で作った。
この日は泊まりの予定はなく、私は車でお酒は飲めない。
ミワのバイト終わりまで3人。私が話題を振らなければ特に話すこともなく、3人で黙々と鍋を食べていた。
そもそも彼はあまり友達もいないし、何を話していいかもわからない様子。でも私が以前西さんのお別れ会に焼き鳥屋に誘ったことがきっかけで、彼とリョウは一緒にスノボに行くほど仲良くなった。
一度はバイトが嫌になり飛びかけた彼だから、少しでも楽しい思い出ができればいいなと思ってしたこと。「いいお友達ができてよかった」と思うのも母心みたいなものなんだろうか。
そしてミワのバイト上がり。
私が車で迎えないかなければならないけれど彼に一緒に来て欲しかった。
結局3人で行くことになって、ミワを迎えて2回目の鍋。
その準備をしているとき、何の話の流れからかわからないけど、
「彼女なら、ほら(山田さん)どうですか?」
とミワが私の背中を指して言っていた。
彼は無言。
どんな表情かもわからないけど、きっといつもの困ったような顔。
「ないですね」とはっきり言われるよりはいいけれど、結局私は彼の恋愛対象外なのだ。でも頭はバグって彼女ヅラ。
だからゲームを始めた時も、ゲームのカードを利用して「目を見て好きと言う」とか「ウインクする」とかやらせようとしていた、
でも彼はミワやリョウには平然とやるのに私にだけは絶対やらない。やっても本当に嫌々かほんの一瞬。
ミワやリョウまで協力しだして、彼に好きって言わせようとしてたけど、彼は「い、や、です!」と意地でも言わない。
まるで最初にフラれた飲み会の時みたいだ。
『彼女にしてなんて言ってない。都合よく扱えばいいじゃん』
と酔って絡むと彼が怒った。
『僕もうフッてますよね!』と。
一気に酔いも覚めたんだった。
彼は遊びの恋など到底できない。そして私も実は無理。
そうやってフッたと言いながらも、その後、彼との距離はどんどん縮まって、もしかしたらもしかしたらと期待だけが膨らみ、私の想いが募るほど、彼は冗談でも「好きです」とはもう言わなくなった。
せめてゲームぐらいではと思うのに、彼は絶対に言わない。
そのうち若者たちが夜中のハイテンションになったのとは真逆に私は寝落ち。
もともと徹夜ができないタイプ。
うつらうつらしながら覚えてるのは、
「山田さんもう寝てるから」
と彼がすぐ気づいたことと、私の前にある飲み物やカードを彼がきちんと片付けてるところ。
ほんといつもこうだった。バイトでもどちらかが窮地に陥るとどちらかが必ずしっかりして相手をフォローする。
一度私が
『フォローしといたけど気をつけてよ』
と言った時
『僕だって、あなたのためにどれだけしてるか!』
と怒ったことがあった。
後から知ったけど、私が彼のミスをいち早く発見してフォローしてたように、彼も見えないところでずいぶんかばってくれていた。
私は他の子にミスをするように思われてないけど、なぜか彼は私が危うい時はすぐ気づく。そして私がそうしてたように彼もまたミスをかぶったりもしてくれた。
『私のことよく見てるよね』
と言ったこともある。
『そうですか?たまたまですよ』
とそっけなく返事するけど、そういう時は照れや気まずさをごまかしているだけだということは知っている。
この時も、うとうとしながら「お茶飲みたい」とつぶやいたけど、聞き取っていたのは彼だけで、いつのまにか私の前には温かいウーロン茶のマグカップが置かれていた。
もう一度意識が戻った時、突然ウーロン茶があるから、まるで魔法みたいだった。
前にもこんなことがあった。
私がメンタル絶不調な上にクレームにやられて電話の前でしゃがみ込んでいた時も、さりげなく温かいお茶を目の前に置いてくれたのも彼だった。
「あれ?このお茶どうしたの?」
とまだゲームで熱戦中のミワに聞くと「え?」とお茶があることすら気づいてない。リョウが彼が電子レンジで温めていたということを教えてくれた。
「ありがとね」
と私が言っても彼は「いえ」とそっけない。
昔飼ってた犬に似ている。
普段は私がかまいすぎるので嫌がって寄ってこないけど、私が酔い潰れた時や弱ってる時、気づけば隣で添い寝している。どうやら私を守ってたらしい。そして目を覚ますと、何事もなかったかのようにその場から立ち去る。
さすが犬男子。目をそらすところまで同じ。
そして朝になってしまった。
徹夜するつもりはなかった。
リョウも午前に講義があるし、3時までには解散予定だった。「まあ覚悟はしていました」とリョウは言うけど、さすがに仮眠は必要。
私はお茶を飲むとみんなに帰宅を促した。
さすがに私も眠い。飲んでないとはいえ、徹夜明けの運転はきつい。
そこで私は彼に甘える。
「眠気覚ましに好きだって言ってよ」
「絶対嫌です!」
「じゃ、送らないからね」
「いいですよ、別に」
「どうせ送ると思ってるくせに」
本当にずるい。
嘘でもいいのに。前みたいにふざけてでもいいのに。前はみんなの前で「大好きです」と言ったりもしていたのに。
私が本気になればなるほど彼は「好きです」と言わない。
言われても言われなくても私は傷つく。
どうせ傷つけるなら、「大好きです」とか「僕がそばにいますよ」とか前みたいに笑顔で言ってほしい。
困った顔より笑った顔を記憶したい。
でももうこの頃の彼を思い出すと、何か悩んでいるような困惑顔ばかりが目に浮かぶ。
そして私もどんどん心身のバランスを崩していった。