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超年下男子に恋をする㉗(正統派推しの王子よりポンコツ男子が恋しくて)

 登場人物はさらに増える。
 厨房でバイトしているリョウくん。
 大学二年で彼と同じだけど、彼は留年してるので、彼より一つ年下だ。

 私は厨房に入ることもあったので、リョウとは一緒に働いたこともある。

 リョウはすごくいい子で、彼とちがって人間ができている。

 ちなみに私が厨房の人手不足で裏に入った時、ホールの彼の賄いを私が作ったことがある。半額払えば従業員も店に出すものと同じものが食べられる。

 私はお米が大好きな彼のためにメニューにあるライスロールを作った。一つはスタンダード、もう一つは私のオリジナルで。本来の価格無視のスペシャルトッピングだった。

 彼はスペシャルはいまいちだったようで、「普通のがよかった」と言ってきた。まあ、良くも悪くも正直だ。

 それでなくともこの頃になると私の差し入れに対しても食べてやってる感がすごかった。
 逆に一人暮らしのリョウは、たまに私が簡単なものを差し入れすると、すごく喜ぶ上に、なんと、お返しに手作りのプリンを作ってきたりする。

 私は彼からお返しなんてもらったことは一度もない。
 慣れてくるともう「ありがとう」や「ごちそうさま」すら言わなくなって、「食べてるところ見られるのやだ」と餌付け動画の撮影さえ禁止してくるようになった。

 「リョウを推しにしていればよかったのに」と19歳女子バイトのミワにも言われるぐらいだったけど、アホな子ほど可愛いというか、こればかりは私の趣味嗜好がポンコツ男子なだけに仕方ない。

 そのリョウと彼が急接近したのは、ある事件がきっかけだった。

 ある時、リョウが厨房の隅でなぜか泣いていた。

 普段は穏やかで感情の起伏も激しくないのに突然泣いているからびっくりした。

 後からわかったことだけど、社員に理不尽に絡まれて、怒りが頂点に達していたらしい。普段怒ることなどないリョウは、自分の感情コントロールができず、涙が止まらないという事態になってしまったとのこと。

 その社員はポンコツな彼に対してもあたりがきつく、人の嫌味や冷淡さにも鈍感で他人の悪口など言わない彼が「あの人やだ! 目が怖い!」と私に言ってきたぐらいだ。

 私には態度がいい社員なので、そんな面があるのは知らなかった。

 この時も、私や他の人が見ていないところで、リョウに絡んでいたらしい。

 その時は何があったかわからなかったけど、何かあったのは明白だし、心配になったので、

「バイトの後、ごちそうするからご飯食べに行かない?」

と誘った。

 リョウは一人暮らしだったし、そんな状態で家に帰っても嫌だろうと思った。案の定リョウも誰かに話を聞いてもらいたい心境だったらしく、即決で「行きます」と言った。

 私はその日も彼と一緒に帰る予定だったし、彼もいた方がいいんじゃないかと思って誘った。

 いつもなら「お母さんもごはん作ってるし突然の約束は困る」と言いそうなところだったけど、

「この前リョウと仲良くなりかけたって言ってたじゃん。もう友だちじゃん。友だちならこういうときは話聞いてやるもんだよ」

そう言うと、「えーっ」と言いながらもついてきた。

 そう、彼はバイト先に同じ年頃の男の子がいないというのをいつも残念そうにしていたが、最近リョウと話せたそうだ。リョウは厨房なので、一緒に仕事をするわけではない。それでも休憩時間か何かに話したと嬉しそうに言っていた。

 これは二人が仲良くなるいいチャンスとも思ったし、リョウにしても、彼がいた方が気が楽だろうと思った。

 もうこうなるとほんとオカンだ。

「二人とも仲良くしなさいねー」

みたいな感じ。

 彼は以前バイトが嫌で飛びかけたことがある。

 でも戻ってきてくれた。

 私は彼が戻ってきたとき、次に辞める時には、楽しい思い出を作って辞めてほしいなと思った。だからバイト先に友だちがいれば、もっと楽しいんじゃないかと思っていた。

 でもどちらもおとなしいタイプなので、なかなか仲良くなる接点もなく、結局この時のように私が間に入らなければ、友だちになることもなかった。

 私たちはバイト後いつものハンバーグレストランに行った。

 私は車だから飲めないけど、リョウには気晴らしのお酒でも飲ませてやりたかったので、彼にも付き合うよう言った。

 私に言われるがまま、彼は一番大きなジョッキのビールを頼んだ。

 リョウはこの時にはもうだいぶ感情が安定していたようで、彼とふつうに楽しそうに話していた。

 ビールを飲んで彼は酔った様子。

 この時私が彼のとなりで、リョウが向かい。
 相変わらず夫婦漫才みたいな私たちの様子をニコニコしながら見ている。
 彼はあいかわらずアホなことばかり言っていたし、結局リョウの話を聞くという感じではなかったけれど、気がまぎれたようでよかった。

 それにしても。

 なんで私にとって彼は特別なんだろう。

 彼とリョウは年が変わらないけれど、私にとってリョウは弟か甥っ子みたいな感じ。

 周りの女子に「彼氏にするなら絶対リョウにしなさい」と言うぐらい、温厚で穏やかで、何より話がまともにできる。

 本当にミワが言うようにリョウを推しにしていれば、彼に対して一喜一憂するみたいなことなんてなかったし、ただ「リョウいいよねー」とそれこそみんなに勧めて推すことができたはず。

 でも私は、結局リョウのビールまで奪って飲んですっかり酔って眠そうにしているどうしようもない彼が好きで、誰とも一緒に推したくなんかない、私だけが彼を好きでいたいと思う。

 この日から、リョウと彼は仲良くなるし、リョウがいることで私も彼を誘いやすくなった。

 そう、彼はだんだん私と二人でごはんに行かなくなっていた。

 そもそもマッサージのあたりからなんかおかしい。

 お母さんとは何でも話す彼のことだから、もしかしたら夜中のマッサージの話もとっくにしたのかもしれない。

 早く家に帰ってこいの圧が前よりすごくなった。

 そのくせこの日、リョウと三人の時には、彼はそれほど帰る時間を気にしてなかったようにも見えたし、やっぱり私と二人というのがダメなんじゃないかと思った。

 完全に私を拒絶するわけでもないくせに二人きりは避ける。

 いつも理由に出すのは「お母さんが……」「門限が……」。

 じゃ、もしお母さんがいなければ、二人きりでいてくれた?

 きっと彼自身答えは出せない。

「周りがなんて言おうと僕らがいいんだからいいんですよ!」

 私が彼を連れまわすことを友達に犯罪者扱いされたという話の時に彼はこう言ってくれた。

 でも「周り」の中にはお母さんは含まれない。

 彼にとってお母さんが言うことは何よりも絶対なのだから。

 

 

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