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超年下男子に恋をする㉕(月の浪漫より指相撲)

昔の日本人には直接愛を伝える習慣はなく、日本の文豪、夏目漱石は「I love you」を「月が綺麗ですね」と翻訳したらしい。

「月が綺麗ですね」は愛の告白。

「死んでもいいわ」は告白OKの返事。

「でも青くはありません」これは拒絶。

青い月は滅多に見られないものだから。

ある時、バイト後、月が綺麗な夜だった。

その日は満月。

私は彼にこう言った。

「月が綺麗だね」

そう言って、それは告白の意味だよと教えるつもりでいたけれど、彼の答えは

「ぼやけて見えない!僕今日コンタクトしてないんですよ!」

ムードも何もあったもんじゃない。

「眼鏡すればいいじゃん」

げんなりして言った。

彼も私もコンタクトと眼鏡を併用している。でもお互い眼鏡はあまり好きじゃなくてバイトの時はいつもコンタクト。

でも彼はコンタクトを忘れて眼鏡にしてきた時があった。

「眼鏡なんだね」

「時間なくて」

「眼鏡もいいね」

それからだったかもしれない。

彼は眼鏡で働くことも多くなった。

でも帰りに車で送る時は眼鏡じゃない。

見えすぎるから嫌だと言う。

夜なのに何が見えるというのか。

実際月さえ見えないじゃないか。

彼はいつもいつも私の目を見ようとはしない。

「ねえねえ、10秒私の目を見てよ」

「なんでですか?」

「いいから、いいから」

10秒目を見ると恋に落ちるというのを試してみたかった。

「いやですよ」

最初はそう言ったけど

「あれあれ?見れないんだ?」

と言うと

「見れますよ!」

とムキになる。

そして10秒カウントして

「はい、10秒!」

まるで我慢大会だ。

そうでもしないと私を見ようとはしない彼とは対照的に私は彼を見つめ続ける。

例えば洗い物をしている彼をずっと隣で見ていたりする。

「サボってないで仕事してくださいよ!」

こう言われても

「私すでに3倍ぐらい働いてるじゃん!疲れたの!だから癒しタイムが必要なの!」

と言い返す。

「癒し癒しってなんなんですか、もう!」

そう言われても、癒やされるものは仕方ない。彼のそばにいるだけで、甘い感情が湧いてくる。

でも前はよく一緒に洗い物をしていたのに、彼は私が隣に立つと警戒するのか体を離すようになった。

ひどかったのは、一度後ろに飛び退いて、私との間隔を離したこと。

そこまで近かったわけでもない。

それに一緒にレジに入ってる時は自然と距離も近くなる。その時は彼は気にしてなくて、私の方が近すぎて離れることもある。

だから何気ない仕事の合間の突然の飛び退きに驚いた。

彼にはいつも理由が必要。

付き合ってもないのに近すぎる距離は、彼にとっては戸惑いでしかない。

でも私は彼に近づきたいし、私にも近づいてほしい。

そこで私が考えたのが指相撲。

帰りの車内で指相撲をしようよと声をかけた。

「よし!勝負だ!」

こういうゲームの感じだと彼ものってくる。しかも手加減なし。

私も負けたくないので

「あ、お母さん指が助けに来た! 『うちのお父さんに何するの!』」

なんて人差し指を使ったりする。

「ずるいですよ!反則だ!」

彼も力技をかけてくる。

ほとんど押し倒さんばかりの勢い。

こっちが攻撃から逃れようとすると、どんどん距離をつめてくる。

結局私が負けたけれど、その時は本当に距離が近かった。バランス崩してしがみつきそうになるぐらい。

それぐらい近くても平気なくせに、あの飛び退きが未だ謎。

ちなみに指相撲の正式ルールではひじを脇につけるものらしく、もしそうしてたらさらに距離は近くて密着できたかもしれない。

意外にこれ、合コンとかでオススメかも!

結局彼が相手だと、綺麗な月を眺めて洒落た言葉を言おうとするより、指相撲で幼稚に盛り上がる方がぐっと距離が近くなる。

私と彼の関係はいつもこうだった。

子どもじみてて無邪気なものだ。

私にとって彼は青く冴えた月じゃなく、ほっこりした黄色いまるいお月さま。

「月がやさしいね」

彼を想って見上げる月にはそんな言葉がよく似合う。











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