超年下男子に恋をする⑳(ただ純粋に恋しても年の差で犯罪者扱い)
私たちは恋人じゃない。
でもバイトのみんなとご飯を食べに行く時はいつも彼の隣は私。
バイト帰りに誰かを家まで送る時も彼は隣で助手席だった。
彼はもう私におごられるのも当たり前、送り迎えにも慣れていて、私がバイトがない日でも彼に会いたくて迎えにいった。
相変わらずの失言王子で、私が注意することも多かったけど、
「でも山田さんならなんでも許してくれる気がして」
と甘えるように言われると、確かに何でも許してしまった。
私はダブルワークだったので、それほどバイトのシフトに入れないのだけど、人手不足だったので、彼を餌にされてよく店から呼ばれていた。
ある時、急なシフト変更で、どうしても出てほしい日があると言われた時があった。
「彼が出るなら私も出ますよ」
と冗談半分で言ったら、店長たちがその時休みだった彼に電話。
彼は友達と泊まりで遊びに行ってるところだったらしい。
シフトを作る社員の
「山田さん、おまえがいたらシフト入ってくれるって。おまえ出るよな?」
と言う会話から、さらに別の社員が
「おまえ山田さん好きだよな?」
と言うと、
『え、そこに山田さんいるんですか?』
と彼は確認したあと
『山田さーん、大好きです!』
とみんなの前で言った。
後から聞くと、この時は、友達とクワガタを取りに出かけて、泊まりとは知らず、前日寝てないところで車中泊となり、頭が朦朧としていたいう。
その時とったクワガタの写真や友達の写真を私に嬉しそうに見せた彼。
(まあ、本当に私のことは大好きなんだろうな。でもそれはお母さん…?)
付き合ってるわけではないけど、私も彼もお互いにとって家族以外で一番身近な異性だったと思う。仲が良かったのは間違いない。
ただ私たちの関係は年齢の差で叩かれる。
いくら私が本気で彼に恋をしていると言っても、同級生は笑うだけ。
笑うならまだいい。
子供がいる友人たちは、子どもの母親として、私を非難する。
特に高校時代から仲が良くて家族ぐるみで付き合っている同級生の反応がひどかった。
彼女は早く結婚したので、息子が彼と同じぐらい。旦那さんまで私のことを犯罪者扱いで、夫婦そろって私を非難。
「可愛いと思った幼女に道で声かけて車に乗せて連れ回す変態オヤジと一緒」
とまで言われた、
そのことを彼に言うと
「それはちがいますよ! 僕ら知らない関係じゃないし、それに他人が何と言おうと僕がそう思ってないんだから!」
少し怒ってそう言った。
そう言ってくれたのに…。
彼のお母さんまで、私を警戒し始めると、彼の態度も一変する。
まず迎えに来なくていいと言い出した。
お母さんに
「あんたバイトで交通費もらってるのに送り迎えなんてしてもらったらダメでしょ」
と言われたらしい。
でもこれはおかしい。
私が送り迎えしなくても、彼は自転車で通っていて、交通機関を使わないから同じこと。
お母さんは「そのバイトの人にも迷惑かかるでしょ」と言ったらしいけど
正直私はこういう言い方は嫌い。
「私はいいけど他の人が何て言うか」とか「あんたが困るのよ」とか、自分の意見だと直接言わずに他人のせいにするのはずるいと思う。
でも彼が大好きなお母さんを批難なんてできない。
それに、きっと、世間一般で考えれば、私の方がおかしいのだ。
ほとんどの人に理解されないから、ただの推しだとごまかすようにしていた。
人が人を好きになる気持ちは誰もが同じと思うし、いくつになっても恋する気持ちは宝物だと思うのに、「いい年して」とか「特殊な性癖」とか変態か犯罪者扱い。
ただ一つ、はっきり言えるのは、私は彼だから好きになった。
バイト先には若い男ならいくらでもいる。でもその中で今まで誰一人好きになったことはなかった。
彼と一緒にいる時間が好きだった。隣にいるだけで心地よくて、ストレスが多い飲食店バイトで、お客さんに怒鳴られても、理不尽なクレームつけられても、彼がいるだけで癒された。
「癒し、癒しって何ですか!」
となぜか怒る彼だったけど、心が落ち着く、優しくなれる、居心地がいいというのは「癒し」以外言いようがない。
多くを望まなければ、私たちはただ仲良くいられた。
愛しすぎなければ、求めなければ、壊れることもなかった。
ほらね、年なんて関係ない。
いくつになっても余裕で冷静でなんていられないし、うまくやれない、それが恋。
恋は生殖機能とだけ結びつくわけじゃないはずだ。
子どもが生めない年になっても、きっと女は恋をする。
その恋は生産性がないから無駄? じゃあ、男同士は? 女同士は?
古代ギリシャではバイセクシャルがスタンダード。女の身分が低かった時代は男同士の恋愛だって当たり前、プラトニックラブのの語源のプラトンだって恋愛対象は男。一夫一婦制だって近代になってからのこと。
その時代の束の間の時間の常識的価値観で、私は非常識とされ、現代では変態で犯罪者扱い。
常識的で世間体をやたら気にするお母さんの言うことが絶対な彼にとっても、やはり私の恋心なんて非常識でしかないんだろう。
そう思っていた。
「僕らがいいんだからそれでいいでしょ!」
明るく言ってくれたあの時の彼が本当の彼だと思いたい。
でもだんだんお母さんの言葉がそのまま彼の言葉になっていく。
彼はまだ自分が確立していない。
まだ二十歳。
実家暮らしで、マザコンで、生まれたてのような幼さ。
でもそんな今の彼に恋をした。
恋するのに、理由も条件も年齢も、本当は何も関係ない。
たとえ変態と呼ばれても、犯罪者扱いされても、私は彼が大好きだ。
この気持ちは偽れない。