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超年下男子に恋をする⑦(無断欠勤で逃げた彼。初めて気づいた気持ち)

 前回の深夜の二人きりの食事のあと、今度は前回直前で行けなくなった新入社員の夕夏もいっしょに深夜カフェに行こうという話になった。

 でも彼は直前でLINEでドタキャン。

 私は理由もなく断るのは失礼だなんて、年寄り風吹かせて彼をやんわり注意。本当は楽しみにしてたのに行けなくなったからおもしろくないだけで、大人げなかった。

 でも彼が理由を言わなかったのは、私のためでもあった。

 どうやらお母さんに外出を反対されたらしい。
 私は、自分と一緒にいてこの前帰りが遅くなったことで彼が怒られてしまったことを知り、それはもう必死に謝った。ちょっと重すぎたかもしれない。

 その直後、彼はバイトを無断欠勤。

 まさか彼がとんだ???

  店長は彼と仲がいい私にどうしたのか聞いてくる。でも店長からの連絡はもちろん私からの連絡にも応じない。いつまでたってもLINEが既読にならない。

『どうしたの? 何か事故にでもあった? みんな心配してるよ。誰も怒ったりしてないから、私にだけでも連絡ちょうだい』 

 そんなことを書いたようにも思う。

 まるで逃亡中の犯人への説得みたいだ。

 でもある意味的外れでもない。

 彼は逃げたのだ。

 バイト先の店はコロナ下でも利益重視で、人件費削減で人を減らしながらも売り上げのために従業員に無理を強いていた。
 あまりにもつらいバイトなので社員も含め入れ替わりが激しい。
 みんなが無理をするから、当然他人にも無理を強いるし、パートは学生に当たり散らす。仕事もろくに教えてもらえない、休憩もなかなか入れない、そんな過酷な環境下で働く学生たちがかわいそうで、私はよくフォローしていた。

 そしてこれは私も知らなかったことだが、私がいる日といない日で、社員の彼への扱いが異なり、あたりがきついこともあったらしい。私がいない日に限って彼は大きなミスをやらかしたりもした。ただでさえ忙しい店で、新人にミスをするなというのは相当なプレッシャー、ラスト作業要員の彼の負担もさぞや大きかったことだろう。

 やっと連絡がついた彼は、ただただ私に謝っていた。

 私はもうこのまま彼に会えなくなるんじゃないかと思った。

 一応店長には若い子たちがどれだけのストレス環境下でがんばってるかを訴え、もし彼が戻ってきても怒らないでやってほしいと頼んだ。

 でも戻ってこないんじゃないかなぁと思った。

 だけど彼は戻ってきた。

 着替えた後、私の顔を見て気まずそうな顔をした彼に、私が言った言葉は

「おかえり、よく戻ってきてくれたね」

 彼は「ごめんなさい」とただ一言。
 その顔を見たら「いいんだよー、つらかったねぇ」と言ってやりたいところだったけど、ここは先輩として一言。

「つらいなら辞めてもいいよ。でも無断欠勤はダメ。社会人になっても信用に関わることだよ」

「ごめんなさい」

「……もういいよ。戻ってきてくれてありがとう」

 本当はそれだけ言いたかった。

 彼の話によると、無断欠勤をした日、自転車通勤の彼は、一応バイトには来たらしいが、従業員入り口の前で足が止まり、どうしても入れなくて、そのまま自転車で河原まで疾走。

 おなかがすいてそのまま帰宅。
 バイトさぼったことをお母さんは責めることなく、ただ晩ごはんを用意してくれたらしい。

 彼はとてもわかりやすいから、どれだけ彼がつらい思いをしていたかは、見てすぐにわかったんだろう。

 寝たら忘れる単純さもあるとはいえ、本当によく戻ってきてくれたと思う。勇気があるなぁと思った。それと責任感。それも家庭のしっかりしたしつけの元に培ったものだろうか。でもそれだけじゃない。彼本来の素直さや人のよさみたいのもある気がする。

 その後、私はもうほとんどと言っていいぐらい彼とシフトが一緒。
 すでに保護者扱い。
 私は彼が少しでも仕事が楽にこなせるように自分が教えられる限りのことは教え、彼はますますがんばるようになった。

 それにしても驚いたのは、いつのまにか自分の中で彼がかけがえのない存在になっていたということ。

 バイトなんてそれこそ入れ代わり立ち代わりで仲良くしてい子が辞めることもしょっちゅう。いちいち気にすることもなかった。

 でも彼が無断欠勤したあの日、私は仕事もろくにできないぐらい動揺していた。LINEの既読がつかないか、返事がこないか、何度も何度も携帯をチェックしにいった。

 そして戻ってきてくれて、本当にうれしかった。

 私にとって彼の代わりなんていない。
 誰よりも特別な存在だと、この時はっきりと思った。

 

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