超年下男子に恋をする㊳（クリスマスケーキを分け合って）

　クリスマス当日の夜も私たちは一緒にいた。
　正確に言うと、クリスマスの日も彼はバイトで、私は車で迎えに行ったのだ。

　その日は残業だったのか、彼はなかなか店から出てこなかった。

　彼とその日ラストが一緒の古参のパートさんはいつも旦那さんが迎えに来る。そしてよく若い子たちを送ったりしている。私のように。だからもしかしたら彼も声をかけられてるかもしれない。

　私が迎えに来ているのは秘密。
　だから終電も間に合わなくなるような時間に送ってくれるという申し出を彼が断る理由もない。そのパートの人が送らなくても社員の誰かが送るだろう。押し切られて帰っちゃうかもなんてぼんやり思っていた。

　すると彼から連絡が来た。

　そのあと彼が走ってきた。

「ごめんなさい！本当にごめんなさい！」

彼は息を切らしながら謝った。

「送ってくって誰かに言われなかった？」

私が聞くと、

「僕、そう言われること考えて、親が迎えに来るって言ったんですよ」

彼はどこか得意げだった。

　いつのまにこんな嘘がつけるようになったんだろう。前は簡単に私が迎えに来てると言っちゃう子だったのに。

「帰っちゃったかと思った」

私が言うと、

「そんなわけないじゃないですか！約束してるんだから！」

と彼はムキになる。

「あ、それよりケーキもらったんですよ。一緒に食べましょう」

　ケーキ作りの得意なパートさんがみんなに作ったものらしい。

「僕二つもらってきたんで」

「じゃ、あそこ行こうか」

　そう言って、イブに見たイルミネーションのある教会の前、また車を停めた。

　ケーキは二種類。

「どっちがいいですか？　好きな方食べていいですよ」

　どっちも食べたい……。どちらも選べない私はこう言った。

「半分づつ食べようよ」

「えー、なんでですか？」

「女子同士ならそうするんだよー。どっちも絶対おいしいよ！」

「……まあ、いいですよ」

そう言って彼は私にフォークをくれた。

　ケーキは一つの容器に入っているので、二人でその容器を持って顔を近づけて一緒に食べた。

　彼は少し外の様子を気にしていた。
　人に見られたら恥ずかしいんだろうか。
　まあ、やってることは誰がどう見ても、クリスマスに仲良く一つのケーキを分け合って食べるカップルだ。

　そしてこの日はすでにバイト上がりが遅いのに、いつもなら門限を気にする彼が私のために時間を作ってくれている。

　でも、相当疲れてるみたいで

「なんか目乾くんだけど」

と、もはや家にいるような感じの甘えた口調で言ってくる。

「とりなよ、コンタクト」

　そんなやりとりをしながら、私たちは何となく一緒にいた。

　特に会話が弾むでもなく、かといって沈黙が苦痛なわけでもなく、ただ何となく横にいた。

　そして、待たせたお詫びなのか用意していたのかわからないけど、彼は私に箱に入ったアーモンドチョコレートをくれた。

　知ってるのかどうかわからないけど、私の好きなものだった。

「ありがとう、うれしい」

そう言うと、

「僕の方が、昨日ワインもらっちゃって。お母さんもびっくりしてました」

と言ってきた。

　そんな高いものではないんだけれど…。

　そしてやはり昨日お母さんはクリスマスの料理を作って待ってたらしい。

　いつものクリスマスなら早く帰ってきて家でご飯も食べる息子が、帰りが遅い上に何か食べてて、迎えに来た女にワインまでもらってくるというのは、お母さんとしては異常事態だったのかもしれない。

　そもそも門限が厳しくなったのは深夜の車内マッサージの後あたり。

　最近お母さんがうるさいとか、お母さんに対して煩わしさを感じているかのような発言が増えたのもこの頃から。

　母親にしてみたら、息子に魔の手が迫っていると感じとったのかもしれない。

　でも実際私たちがしていることといえば、二人でケーキを分け合ったり、クリスマスソングを聴きながらイルミネーションを眺めたり、チョコをプレゼントされてよ喜んだり、中学生みたいなことばかり。

　ただそれだけなのに、私はお母さんから警戒されたり、店の人から隠れたりしなければならないのだろうか。

　もしも私が二十歳ぐらいなら、私たちは人目もはばからずケーキをつつき合う可愛いカップルになれたんだろうか。

　まるで初恋のような気持ちを味わっていても、年が離れてるというだけで、年甲斐もないとか節操がないとか、挙げ句の果てには犯罪者扱いされてしまわなければならないのか。

　男はいくつになっても若い子が好きで、それを堂々と言っても、不倫でも、付き合っても結婚しても、世間は男の性と片づける。異常者とまでは言われない。

　私は彼が好きなのに、ただ愛おしくて好きなのに、それでも隠して蓋をして恥ずべきだけの恋なのか。

　それでもこの日のクリスマスの思い出は、私にとっては永遠の彼がくれた大切な時間。だからこのクリスマスソングを聞くたびに、この日のことを私はきっと思い出す。

　二人で食べたほろ苦くて甘いケーキの思い出と共に。