社寺検分のすゝめ -高野山・金剛峯寺-
引き続き高野山探訪のお話です。
前回「壇上伽藍」の終わり、次は徳川家霊台と奥の院だよと書きましたが
金剛峯寺忘れていました。
というわけで今回は金剛峯寺と、前回の壇上伽藍に入りそびれた塔頭寺院さんたちのご紹介です。
高野山は山全体が境内です。
本堂が前回ご紹介で熱く語ってしまった金堂でして、
その他にいくつもの塔頭があるわけです。
「塔頭とはなんぞや」な方にどう言おうと思い調べてみたら
「本寺の境内にある小寺。わきでら」とありました。
「わきでら」です。
「本堂に寄り添って建てた小院」という言い方も素敵です。
そんな塔頭の彫刻群の中から、イチオシをささっと並べていきます。
准胝堂
明治年間に再建されたお堂だそうで、虹梁上の龍の装飾感がまさしく。
もはや構造材ではない代わりに、非常にのびやかなスタイルの龍です。
不動堂
建築年代不明ながら鎌倉時代後期と推定される、
平安寝殿造気分の不動堂です。
頭貫上に配置される蟇股が確かに古いデザイン。
むかしむかしの蟇股は、こうしたシンメトリーな唐草が多い。
いかんせん明治の修理で新しめに見えてしまいますが、ふむふむ。
愛染堂
この飛龍さんもかなりアクロバティックな彫りです。
鱗の平面的な並びが面白い。
雲を横に広がらせて一応蟇股の体をとっているところも可愛らしいです。
飛龍は「鳥タイプか魚タイプか」に着目すると楽しみやすい霊獣です。
足があったりなかったり、鱗だったり羽だったり、ヒレがあったりなかったり。
飛龍・応龍・翼龍・シャチなど、自分の中で分類するとこれまた楽しい。
この愛染堂の飛龍は魚寄りですねー。
大会堂
弘化4年(1847年)再建の大会堂。
妻と外部頭貫上に蟇股がとりついています。
その中でもイチオシがこちらの獅子さん。
獅子自体はたてがみがふわっとしていて可愛らしいなぁと思うのですが
注目はその手前、
右手に向かい大胆に飛び出したる土坡。
あんまりにも飛び出しすぎて、最初「波しぶき?」と思いました。
でも手前に笹の彫刻があるので、まぁ土坡(岩)なのでしょう。
獅子さんもびっくりした顔です。
東塔
装飾彫刻のない単色塗装の建物になると、途端に撮影枚数が減ります。
好きな人は単色塗装の塗り分けや屋根の勾配をムフムフするのですが…
ただあれですね、高野山を大門からふらふら巡ってきて、
単色塗装の赤色もけっこうばらけた仕様だなと感じましたね。
高野山はこの色だ!みたいな縛りがないのだなという確認ができました。
ちと画像ではわかりづらいと思いますが(しかも晴天で色が撮りづらい)
左上が東塔、右上が大門、左下が根本大塔、右下が中門です。
上の2つはやや渋め赤色(暗い青みがちの赤)で
下の2つは明るい黄みの赤色です。
赤色塗装と一口に言いましても、その顔料が何種類もあり
色味で事前にテスト、打ち合わせがあります。
大門は「丹土」と呼ばれる弁柄で、紫みの茶色がかった赤色。
(丹土はわかりやすいので目視ですが間違いないかと。平等院もそれです)
東塔は弁柄ベース、根本大塔と中門は鉛丹ベースかと思われます。
弁柄・鉛丹がメイン顔料で、その中でも更に製法で種類があり、さらにそれを混色したりするので、赤色塗装舐めることなかれです。
単色塗装畑の人とかは、恐らく社寺見てこれで楽しんでる。
ちなみにここまで社寺研究の方々とは一切言葉を交わさずであります。
おのおの自分の胸中で楽しんでいる。よきかな。
さて次は金剛峯寺ですが、そちらへ向かう途中、紅葉が非常に見事でした。
何だかよくわからないながらも「紅葉をいかに綺麗に撮るか合戦」が勃発。
ふと我に帰った時にはAさんはカメラのバッテリーが切れました。
(寒いとカメラの充電切れやすい)
可哀想に…と皆に同情されながらも、気を落とさずスマホで検分。便利。
私はスマホという2番手がいないので、気を引き締めて枚数制限です。
金剛峯寺
金剛峯寺はさすがに人がたくさん。
まだまだ回りたいところがあるので足早に外部のみ見て回ります。
お出迎えはこちらの表門の角柱上にのっかっている彫刻。
木鼻ならば柱に差し込まれていないと、なので木鼻ではない。
むむむ…と眺めます。
しかもなんの霊獣かわかりづらい。
脚は「単蹄(割れていない蹄)」で、蛇腹で、ギザギザ眉とあごひげ、でもたてがみはカール状で…
なんぞや、と気になりながら急ぎ門をくぐり他の撮影に。
必殺、「帰宅後に考える戦法」です。
結論、「麒麟」だと思います。
ツノが見て取れないところ、
麒麟でイメージするスリムさがあまりないところ、
蹄の形など、気になる点はありますが…
よくよく見たらば下半身にポコポコ丸い盛り上がりがあります。
これが霊獣の体毛表現「風車紋」であることから、麒麟に認定しておきます。
「龍馬?」とも思いましたが、ならば体に龍の鱗が欲しいところ。
金剛峯寺の麒麟さんは丸こく愛嬌がある感じなのか、と思い歩を進めると
その後スリムな麒麟にも出くわしました。
金剛峯寺の大玄関にはぐるりと彫刻が配されていました。
社寺彫刻では王道の組み合わせ「虎に梅」です。
しかし、今はたと気付きましたが、どういう意味を持たせた組み合わせなのか知りません。
むーん…としばらく考え、またの宿題にします。
大玄関の木鼻も霊獣です。
獅子と毬の類例考察をしたい衝動が起こってきましたが、ひとまず置いといて。
金剛峯寺での「あら素敵」ポイントは花狭間でした。
そんな大玄関をざっくり見まして、最後に正門。
こちらの門もシンプルながら虹梁上に彫刻があるやい、と思って近付いていったのですが、彫刻よりも気になったのがこちら。
この取り付き方、結構珍しく面白い。
「社寺 門 金具」で画像検索して頂くとわかりやすいかと思いますが、
この密度で取り付くならば、もうちっとシンプルな金具が多いです。
乳金具みたいな円形のものや、小ぶりのもの。
シンプル金具ではなく錺金具なら錺金具で、逆にもう少し華やかにと言いますか…なんだか不思議でした。
下から2段目、左端から2つ目の六葉金具は、金具周りに「円形の金具痕」があったり。
六葉でなく円形だったんだろうか、しかもココだけ…などなど、謎。
閂がある側の面も見たかったのですが、覗いてもイマイチわからず。
社寺研の面々の好奇心をかなり煽った扉でした。
上部の雲の「蟇股風」な感じが、先の愛染堂の飛龍彫刻とおんなじです。
建物全体の再建年数では愛染堂1848年に対し、こちら正門が1862年とされているので、倣ったのか時代の気分か。
さてさて、帰るのに3時間弱と思えば5時には帰路に着きたいところです。
というより日が短くなって検分は4時頃までが限度でしょう。
まだ徳川家霊台と奥の院が残っている…
色々と後ろ髪ひかれるものはありますが、いそいそと奥に進みます。
次回で最後、「高野山・徳川家霊台と奥の院」はまた後日に。
最後までお読みいただきありがとうございます。
また次回の投稿で。
おまけ
楽しみのままに書いていることばかりですが、何かしら響きました時や励ましなどのサポート、ありがたく頂戴しております。いただいたご縁を大切、よりよい創作・交流にはげんでまいります(*’∀’)