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おまえは何様なんだよ

ぎっちょなの?と言われた。

久しぶりに「ぎっちょ」なんて聞いたものだから、私の頭の中は一度空白になった。なんのことは無い、左利きなのかどうかを聞きたかっただけなのだ。この、名前も関係もよく知らない親戚は。

火葬場で祖母が焼かれている間、食事の時間があった。なんか趣味悪いよな、と毎回思うけど、時間を持て余すばかりだもんな。

私は人見知りだし、親戚は大抵人の話なんて聞いてない人達ばかりなので黙って食事をしていた。隣のよく知らない親戚が「ぎっちょなの?」と聞いてくるので私の沈黙は破られたのだが。

私は生まれた時は純粋な左利きだったのだが、途中でいくつか右利きに直された。それでも箸は教える方も難しいからと諦められて、左利きのままだ。だから初めて一緒に食事をする時は必ず聞かれる。でも、その時だって「ぎっちょ」なんて言われたことなかった。

うっすらと、左利きをバカにする言葉なのだということは聞いたことがあった。でも実際に左利きをバカにされたことは今まで無かった。むしろ「器用だね」と言われるぐらいで。生まれつき左利きの人が左手を使ってるのが"器用"なわけないのに、そう言うのはまだまだ理解が足りていないと思うが…あれ、もしかしてこれ遠回しにバカにされてたのか?いやいや……

兎にも角にも、ぎっちょなんていままで言われたことがなかったので驚いた。相手の表情は微笑みという感じで、嫌味ったらしいと言えなくもない……みたいな微妙な微笑み。

その場では「食べる時だけなんですよ。他はほとんど右になりました」とだけ伝えた。相手は「へー」って感じで特に何もない。
大体みんなこの反応なんだけど、左利きであることになにを求めてるんだ?左利きなのは見ればわかると思うんだけど、なんでみんな聞くんだ?ていうかみんなそんな手を見てるの?怖……
その後は知らない親戚のよく分からない自慢話に適当に相槌を打った。

葬儀から数日経ってふとこの「ぎっちょ」と言われた事を思い出してモヤモヤしてる。
私の世代よりも前の世代の方が「ぎっちょ」という言葉が囃し立てるように使われていたのをよく知っているはずなのに、敢えてそんな表現を使ってきたのは喧嘩を売ってたんじゃないか?と思って。
敢えてぎっちょって言う必要、あったか?左利きなの?で十分じゃないか?

無性にムカついてきて、「なんでぎっちょって言うんですか?」とバカのフリして聞いてやればよかった、と思ったりした。
ただただ無難に笑顔で応じてしまった事が悔しい。笑顔の無駄遣い。
ああクソ、腹が立つ。なんなんだ。なんでこっちはおばあちゃんが死んで悲しくて、両親のことだって心配で頭いっぱいなのに、なんであんな知らない親戚に無駄な悪意を向けられなきゃならなかったんだ、と怒りでいっぱいになる。
いや、悪意があったと断言は出来ないんだけど……でも、引っかかる。

左利きなだけでバカにされるとか、ほんとに訳わかんないよな。左利きだからなんなんだよ。バカみたい。そういうことが昔からずっとあって、そのバカさ加減にようやく気付いてきたけど、まだまだこの世にはアホらしい差別がたくさんあるな。私もきっとまだまだ無自覚のそういう意識があるかもしれない。
自分のアホに気付ける人間になりたいな。




サムネイルはネモフィラ。
クソみたいな記憶は綺麗な花で消してやりましょうね。青くて綺麗だったな。(語彙なし感想)

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