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【第十六回俳樂會】結果及び選評
0.ご挨拶
皆様ごきげんよう芙蓉セツ子と申します。
暦の上では仲冬『大雪(たいせつ)』に入りまして、街角でも北風が首元に触れていく今日このごろですけれども如何お過ごしでしょうか。
さて、先週末に催させて頂きました句会【第十六回俳樂會】につきまして、一連の行事が無事終了いたしましたので改めてこちらにて結果をご報告させていただきたく存じますわ。
まずは今回の総合結果と投句並びに結果の一覧から参りましょう。
【第十六回俳樂會】 投句者数 9名 選句者数 9名 投句総数 45句
【兼題】 季語『狸』『狐火』『竈猫』
【一席(12点)】ふくよかな儘に祖母逝く竃猫 とみた環
【二席(10点)】狐火や瓦斯燈消ゆる香の静か 芙蓉セツ子
【二席(10点)】竈猫ぺたりと今日を残しをり 芙蓉セツ子
【三席( 9点)】狐火や高尾太夫の下駄の音 芙蓉セツ子
【入選( 8点)】子狸のそろりと覗く垣根かな 芙蓉セツ子
【佳作( 7点)】あめつちのあい窄まりぬ竈猫 綿井びょう
【佳作( 7点)】国道に古名ありけり狸の夜 とみた環
【佳作( 6点)】狐火や親しき顔の麾く 金田あわ
※発表文のため敬称略とさせていただきます。
ご参加頂きました皆さま、まことにありがとう存じました。
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1.芙蓉セツ子 選
さて、ここからはわたくしが今回選句で採らせて頂きました句をご紹介して参りたく存じますわ。
【天】ふくよかな儘に祖母逝く竃猫 とみた環さま
日常の中にある非日常が見事に一つの景として溶け込んでいるように感じました。内容としては「死」が題材ではあるのですけれども、全体としては天寿を全うしたようなどこか穏やかな雰囲気の中に、日常生活の象徴として竈猫が鎮座しているようで暖かな気持ちになれる一句のように感じましたわ。
【地】国道に古名ありけり狸の夜 とみた環さま
「狸」の季語から何を連想するのかということなのですけれども、なんだか納得しやすい情景の句ではないかしら。人間の世界のすぐ隣に狸の世界がいかにも広がっていそうな気がいたしますわ。
【人】狐火鋭し番犬の餌の空なれば 綿井びょうさま
重心が頭にある倒置法の句ですけれども、終止形の「鋭し」で一度切れて余韻になっておりますから単調な説明にならず、面白みのある読後感が生まれているように存じますわ。
【福】狐火や親しき顔の麾く 金田あわさま
「麾く(さしまねく)」は手招きをするという意ですけれども、果たして親しき顔の人物は本当にその人なのでしょうか「狐火」という言葉が付与されるだけで幻想小説と申しますかどこか怪しげな雰囲気が漂ってまいります。
【禄】人知れぬ苦労もあろう竈猫 金田あわさま
「竈猫」と申しますと緩い景色が浮かんでまいりますけれども、それを敢えて労ってみるという句ですわね。実際の所はどうなのでしょう。イエネコに苦労はあるのかしら。
【寿】狐火の忽ち消えて帰る闇 金田あわさま
取り合わせではない「狐火」の句としては最も素直な景かと存じます。どちらかと申しますと「狐火」を詠むのではなく「闇」のほうに主眼が置かれているのが面白いですわね。帰ってきた闇のほうに意識が残っていくのです。
以上が今回の芙蓉セツ子選でございました。
2.全体的な感想
今回はもふもふ尽くしの「もふもふ句会」ということで、果たしてどのように季語を捉えていくのかという点に頭を悩ます回だったように存じますわ。
特に「狐火」となりますとこれは幻想の世界でして純粋な寫生を用いることが出来ませんから、今まで俳樂會でお出ししました季語のお題とは少し異なる難しさがあったかもしれません。
元々は今回も今まで通りの方式でお題を出そうと思っていたのですけれども、あまりに寒い日が続いていた頃で温みが恋しくなりまして、そこで「もふもふ」などと書いておりましたら、だんだんと「もふもふ」と書くことが楽しくなってしまいこのような「もふもふ句会」になってしまいました。
そんな師走の慌ただしく少々気の迷いが生じる中、多数のご投句並びに沢山の選評も賜りまして、まことにありがとう存じました。
次回は今まで通りの方式にて放送時の当日兼題も含めつつ進行できればと考えておりますので、また次の句会にてお会いできましたら幸甚に存じます。ごきげんよろしゅう。
俳樂會主宰 芙蓉セツ子
3.拙作
狐火や瓦斯燈消ゆる香の静か
「狐火」の兼題ですとそれ自体を寫生句で詠むわけには参りませんので必然的に何かを合わせる必要がありますわね。そこでまず頭に浮かんだのが瓦斯燈でした。
けれども「火」から「燈」というのが連想としては近い位置の言葉ですので、下五を少し引っかかるような表現にしてみましたわ。具体的には、嗅覚を聴覚で捉えるという五感が捻れた形にしてありますわ。
狐火や高尾太夫の下駄の音
前掲の「瓦斯燈」の句が着想としてはやや近すぎるのではないかということで、もう一つ少し考えてみたのがこちらの句になりますわ。遊郭の光と陰の感覚を「狐火」の季語と取り合わせにしてみたものですので特に高尾太夫である必要は無いのですけれども、二代目高尾太夫の句「君はいま駒形あたり時鳥」がまことに好きなので彼女を題材にしてみました。
子狸のそろりと覗く垣根かな
狸の寫眞をじっと眺めていたのですけれども、冬毛のもふもふしている姿が可愛らしかったのでそれを表現してみたくて「そろり」という柔らかい文字を用いてみましたわ。文字としても響きとしても優しい言葉ですわよね。
竈猫ぺたりと今日を残しをり
この句も子狸と同様に「ぺたり」という表現を使ってみたかったという句ですわね。推敲前は小道具として暦を登場させていたのですけれども、これくらい緩いほうが竈猫の描写には却って良いのではないかと思いました。
なだらかな感じの余韻になったのではないかしら。
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