20190915_俳樂會ヘッダー

【新春俳樂會】結果及び選評

0.ご挨拶

皆さまごきげんよう。芙蓉セツ子と申します。
つい先日新年が明けたと思いましたら、早いもので1月も半ばになりましたわね。お正月は様々な行事が続きますから、殊のほか時の過ぎるのが早く感ぜられますわ。

さて、先週末に開催させて頂きました【新春俳樂會】と銘を打った句会なのですけれども、無事に一連の行事が終了致しましたのでこちらにて結果をご報告させていただきたく存じます。
年末年始の何かと忙しくなりがちな中、ご参加頂きました皆様におかれましてはまことにありがとう存じます。

それでは、まず今回の総合結果と投句並びに結果の一覧から参りましょう。

1.全体の結果

【新春俳樂會(第十七回】 投句者数 9名 選句者数8名 投句総数 31句
【兼題】季語『七種』 漢字「明」 題材〔初夢で一句〕
【席題】季語『喰積』 季語『初句会』

017回発表用


【一席(12点)】膵臓の奥まで初明りを呑む     芙蓉セツ子
【ニ席(10点)】背表紙のととのひ七日粥の音    芙蓉セツ子
【ニ席(10点)】てんてん手毬手がそれて虫食いの淵 綿井びょう
【三席(  8点)】初明かりそつと瞼に仕舞ひ置く   芙蓉セツ子
【入選(  6点)】詩心に筆の馴染まぬ初句会     とみた環
【入選(  6点)】喰積や真白き箸の触るるとき    芙蓉セツ子
【佳作(  5点)】ポラリスめいて御鏡の仄明し    綿井びょう
【佳作(  5点)】あたらしき体欲るらむ獏枕     とみた環
【佳作(  5点)】鉛筆の音の温みや初句会      芙蓉セツ子

※発表文のため敬称略とさせていただきます。

重ねまして、ご参加頂きました皆様まことにありがとう存じました。

2.芙蓉セツ子選

さて、ここからはわたくしが今回選句で採らせて頂きました句をご紹介して参りたく存じます。今回は事前題の〔初夢の内容で一句〕から始まりまして他にも新年の行事を主にお題にしてみたのですけれども、どちらかと申しますと「難易度が高かった」という感想が多かったように存じますわ。

そんな中それぞれに光る句をお寄せいただきましたので、その内の幾つかを紹介して参りたく存じます。

【天】ポラリスめいて御鏡の仄明し 綿井びょうさま
ポラリスは一年中同じ場所にある北極星のことですから特に冬のものという訳ではないのですけれども、故にある種特別な存在感のある星ですわよね。それが鏡餅の鎮座する新春の日常と良い取り合わせになっているように存じますわ。
冬の季語としてはオリオンや冬北斗などがありますけれども、御鏡の質感、あるいは夜遅く居間を通った時の平生とは異なるものが鎮座している感覚が伝わってくるように存じましたわ。

【地】薄墨の眉いとしかる初明り とみた環さま
こちらは格調の高さと申しますか、古典的な趣のある句ですわよね。素直に風雅な一句として受け取りましたわ。
余談ですけれども、新年の初明りの瞬間にきっちりお化粧しているのはなんとなく似合わしくない気がいたしますわね。如何かしら。本当はさり気ない朝化粧のほうが難しいですけれども――。

【人】諍いののちの七種粥となり 村蛙さま
せめて松の内くらいは争い事もなくというのが人情ですけれども、この句は反対に「諍いの後」と「七種粥」を合わせているのが面白かったですわ。
食卓の微妙な空気感と新年の行事が持つ空気感が混ざり合っておりまして、外から眺めてみたときに妙な可笑しみがあるように存じます。

【福】喰積の見馴れぬものを突きをり とみた環さま
風習で頂くものってなんだか良く分からない食べ物があったりしますわよね。好奇心で箸をつけてみるのですけれども二度目はもう――、という感じの食材があったりしますわ。縁起物なので仕方ないのですけれども――。
段々と見慣れぬものにも飽きてまいりますので、この句はまだ元日の好奇心と新鮮な空気が食卓に残っている感じがいたしますわね。

【禄】短篇のオムニバスなる初夢よ 村蛙さま

今回「初夢の内容」ということでお題を出させて頂いたのですけれども、夢は存外まとまりのない短編の場面転換で泡沫のように次々と消えていってしまいますわよね。
お題の意図としてはその内容で(あるいは夢の中で!)一句詠めればというところだったのですけれども、実際やってみますと可成り難易度の高い作業でして、体感としてはこの句の感覚が飾らない感想という気が致しました。

【寿】ボードゲームまだ果てぬまま初明 村蛙さま
大晦日から元旦というのはなんとなく起きていても許される雰囲気がありますわよね。遊びながら夜明かしをするというのはその中でも幸せな光景ではないかしら。
それも一人ではない遊びが終わりきらぬまま新年の朝を迎えるというのが、安穏とした中に余韻がありまして良い景ですわ。

以上が今回の芙蓉セツ子選でございました。

3.全体的な感想

さて、今回の【新春俳樂會】は新年のご挨拶を兼ねつつ、わたくしの一度してみたかった「夢と俳句」をお題に取り入れてみた句会となりましたわ。

「夢」と申しますと、古来より荘子さまの『胡蝶の夢』でしたり、あるいは漱石さまの『夢十夜』でしたりと、様々に文学のモティーフあるいは、より直接的な文学の題材として用いられてきたものですけれども、それでは果たして「俳句」という短詩形を夢の中で考えてみたらどうなるのだろう、というのが今回の出発地であり目的地でもありましたわ。

結果としましては、「夢の中で俳句を詠むこと」あるいは「夢の内容を覚えておいて俳句にすること」は可成り難易度が高いということが分かったのですけれども、他方でおそらく夢でないとまず作り出せないような句もあるような感がありましたわ。

例えば今回、二席でした次の句はその代表ではないかしら。
【ニ席(10点)】てんてん手毬手がそれて虫食いの淵 綿井びょう

この句は季語が「手毬」(新年)でして「虫食いの穴にうっかり入り込んだら終りが見えない深さ、というような夢でした。」という初夢の内容だったそうなのですけれども、なかなか覚醒した意識下では出てこない句という気がいたしますわ。
(妙に不気味な質感の句だったのでわたくしは選に取らなかったと申しますか取れなかったのですけれども――、夢の内容を見ますと然りという気が致しました)

この題材は、普通の句会形式ではなくって、夢の内容を持ち合って語り合いながら鑑賞するのが面白いかもしれませんわね。中々他の方の夢を覗くという経験はありませんもの。

ということで、難しい題材なのですけれども、「夢と俳句」はまた個人的に試行錯誤して挑戦してみたいですわ。

4.拙作付録

今回わたくしは7句を出してみたのですけれども、先述の〔初夢で一句〕のお題の2句が全く振るわず、「夢を題材に俳句を作る」ことの難しさを実感いたしましたわ。

膵臓の奥まで初明りを呑む
この句は「初明り」を望むときの空気感をどう表現すれば良いかということで、なんと申しましょうか体の奥底まで淑気が浸透していくような感覚を出したくて作ってみたものですわ。
なぜ膵臓かと申しますと、心臓や肝臓だとなんだか生々しい赤黒い響きがありまして、そういった意味であまり実体的な想像の及ばない膵臓に致しました。

背表紙のととのひ七日粥の音これは
七種と申しますとなんとなくお正月の「内」と「外」の境界線のような感覚がありますわ。そこで本棚と申しますか、一旦背筋を正して実体でも心象でも良いのですけれども、きちんと整った頃に七草粥を頂きたいということで背表紙としてみましたわ。
背表紙の整った本棚、見ているとなんとなくうっとり致しますわよね。
わたくしだけかしら――?

初明かりそつと瞼に仕舞ひ置く
これも季語「初明り」の句なのですけれども、前掲の「膵臓」の句よりもより直接的に詠んでみました。やや古色な響きがあるように存じますわ。
わたくし実は朝が大変弱くって初日の出を見たことがありませんので、完全に想像の世界の句ですわね。すぐ眠くなってしまうのでおそらく生涯見ないと思いますわ――。

喰積や真白き箸の触るるとき
お正月になりますとお箸を祝箸に変えるかと思うのですけれども、それを詠んだ句になりますわ。そのままですので特に意味はないのですけれども、新しきものに真新しきものが触れる瞬間の新年が始まる感覚ですわね。

鉛筆の音の温みや初句会
意外と初句会の句、詠む機会が多い割に中々浮かんでこないですわね。類句になりやすい気がいたしますわ。この句もあまり捻っていないので先例ありそうな気も致しますけれども――。
句意としましては、新年に皆さまと集まれた事という、その些細な光景の中に改めて温みを感じるということで詠んでみましたわ。
ですので、鉛筆の音という特別でない景を詠み込んでみました。

乗初や御召列車の重き窓
これはわたくしが見た夢の内容を俳句の形にしてみたものの一つなのですけれども、なぜ新年の夢に御料車が出てきたのかわたくし自身もよく分かりませんわ。苦し紛れに「乗初」という新年の季語を持ってきましたけれども、この句を単体で見てもなんのことだかという気は致しますわね――。

七色に匂ふ泉や避寒宿
この句も夢の内容を俳句にしてみたもので、夢で温泉に入っておりましたのよね。その湯船に色々な種類がありまして(唐辛子風呂が真っ赤だったのは覚えております)その景を句にしてみましたわ。
最近、旅行に行く夢をよく見るのですけれども、なにかそういった欲求があるのかしら――。


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芙蓉セツ子
平素よりご支援頂きまして誠にありがとう存じます。賜りましたご支援は今後の文芸活動に活用させて頂きたく存じます。