笛吹き山伏しのおはなし
わたしが奄美に移住して最初に住んだ家では、
毎日夕方になると、下手なたて笛の音がきこえてきました。
近所の小学生がたて笛の練習をしているのでしょう。
毎日同じ時間に練習するなんて真面目だなあ〜と感心していました。
先生に特訓させられてるのかな?
まだ下手だけど、どんなメロディーをひこうとしてるのかな?と
上手くなるのを楽しみにしていましたが、
何日経っても上手くなりません。
そのうち、あれ?学校あるはずだよね、、、
こんなに毎日帰るの早いのかな、、、と気がつき、
だんだん不気味になってきました。
間もなく、気に入った家がみつかって、
その集落を出ることになりました。
そして、引っ越した先でも、
また、あの笛音が聞こえるのです!
この集落には子どもはいません。
これは、もしや、笛吹き山伏の妖怪に
呪われてしまったのかもしれないと、
怖くなってきました。
ある日、近所のおっこばぁと一緒にいると時に
笛の音が聞こえてきました。
おっこばぁに聞けば、正体がわかるかもしれない。
「これこれ!この笛の音なんの音?」ときくと
おっこばぁは、「なんも聞こえん!なに?」といいます。
鳥肌が立ちました。
なんと。
わたしにだけ聞こえるということか!
いよいよわたしが笛吹き山伏に呪われていることが
確信的になってきました。
もしも、呪われている場合、
どうしたら良いのかわからないけれど、
とにかく、悪いものじゃないかもしれないから、
笛吹き山伏が棲んでいそうな山に向かって
安心の祈りを捧げることにしました。
そんな祈りの日々を過ごしていたある日、
自然に詳しいお兄さんに山散策に連れて行ってもらいました。
その時、また!
あの笛の音が聞こえたのです!!
笛吹き山伏はどこまでも
ついてくるのです!!
怖くなったわたしは、
お兄さんに、これ、聞えますか!?
とおそるおそる尋ねてみました。
すると、お兄さんは、
「ああーこれはね、、、」と
なんと!同じ音が聞こえているようです!
お兄さんは、
「これはね、おもしろいでしょ〜
ズアカアオバトの鳴き声なんだよ〜」と
さわやかに教えてくれたのです!
え!?ハト!?
「ズアカアオバトはね、
全身緑色だけど、台湾に頭が赤い亜種がいて、
それが名前の由来になってるんだよ」
と、豆知識まで。
ああーもう、
気が抜けた。
あの祈りの日々はなんだったのか。
ハトだったのか!
わたしはハトに踊らされていたのか!
ハトだと思えないこの鳴き声はなんなのか!
呪いの笛吹き山伏の正体は、
ズアカアオバトだったのです。
そして、おっこばぁは耳が遠かったのです。
ハトがこの鳴き声をだしていると思うと、
なんだか間抜けな音に聞こえて来て
ほのぼのしてきます。
*
このところ毎日のように、
ズアカアオバトカップルが、
まだ赤くなりきらない我が家の桑の実を食べにきます。
木の下まで行っても人間に気がつかず
夢中になって食べてるし、
人間がそばにいることに気がついた途端に
びっくり仰天してバサバサ飛んでくし。
なんだかいちいち間抜けなので、
最近我が家では、
ズアカアホバトとも呼ばれています。
桑の実はまだ熟してもいないし、
人間も食べるのを楽しみにしてるので、
あんまりたくさん食べないで欲しいんですけど。
ふやよみ
あおきさとみ