私の、ぜいたく時間

実家の母から届いた荷物に、新聞紙に包まれたさつまいもが一本入っていた。もとから送って欲しいと頼んでおいたものだけではダンボールの隅に隙間ができたから、さつまいもを差したんだそう。地味な根菜だけどあると便利で、菓子だけでなく、いっちょまえにご飯のおかずにもなる。なんて良い子!でも私はいつもふかし芋にしてしまう。マヨネーズか、あるいはバターで食べるのが好きで、この日届いたさつまいもも、やはりいつものように食べようと考えていた。

さつまいもが届いた数日後、夫が夕方から出かける事になった。その日は、待ち望んだ小説の続編2冊が発売される日でもあった。ひとりで退屈だし、そんな6時間もスマホゲームする程遊びたいゲームも無い。テレビも観ないし、友人を誘って食事に行くなんてこともしない。それなら本を読んだらいいじゃない。一人分の夕食をこしらえるのも億劫なので、本を読みながらさつまいもかじればいいじゃない。決めた。

夫が出かける少し前に、炊飯器で芋を炊きはじめた。しっとりねっとり仕上がるから、いつもこうしている。内釜に芋を入れ水をひたひたになるまで注いだら「おかゆモード」で炊飯を開始する。約60分かかる。その間、夫を送り出して洗い物をし、このあとの読書に備え部屋を整えた。

炭酸水を作り、お湯を沸かしてポットを満たした。ココアにはとむぎ茶、日本茶、紅茶、なんでもある。大きなお気に入りのマグを出した。ひざ掛け毛布を二枚と、ふかふか座布団を傍らに置いた。時にはゴロンとして読み、寒ければ毛布をかけてそのままうたた寝してもいい。アレクサにプレイリストをかけてもらったら最後にホットカーペットのスイッチを入れる。毛布がホコホコに暖まって、本が無ければ瞬殺で夢の中へ行ける。

そうしているうちに60分が経ち、芋が出来上がった。ねっとりしっとりと美味しそうに加熱された芋を取り出して、熱々のうちに一つずつラップに包んだ。こうすると芋が乾かず冷めてもしっとりが続いて美味しい。粗熱が取れたら一口大に切って皿に盛る。ホイップクリームを絞り、少しのシナモンを振りかけミントを飾ったら立派!だが、そういう事はしない(笑)。マヨネーズを絞った小鉢を芋の皿とともにリビングのテーブルへ運んだ。

舞台は整った。

この芋をつまみに読み始めた。小さな音量でかけているジャズピアノが心地よかった。芋も最高に美味しく、だけど芋だけでは足りず(笑)、極細ポッキーも取り出した。昼に作って残しておいた「かしわめしのおにぎり」もつまんで、座布団を枕に横になったり、毛布をかけたりゴソゴソしながら物語は終盤に差し掛かった。

小説は、最後の一行に至るまでジェットコースターに乗っているような展開だった。結末は予想通りだったけど、この展開は読めなかったから、なんと書いたらいいかわからない気持ちで本を閉じた。

本を閉じて、座布団に倒れ込む。何箇所かで泣いて、意味不明な箇所があったことも思い出しながら作中の人物の事を考え始めた。この時間も読書の一部で、あの人はこうだったんじゃないか、だからあの人はこう言ってたのか、待って?じゃあアレは?などと考えるのもたのしい。一度じゃ物語を消化しきれないから、時間をかけて二周、三周と読むことになるだろう。

ふかし芋を食べながら本を読んだ―たった数文字で済む出来事が、私にとったらぜいたく時間になった。ありがたい。

ああ、楽しかった。

#一駅ぶんのおどろき

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