ザイオン国立公園で勘違いして、人生が180度変わった話
プロフィールにゆるトレイルを歩くのが好き、みたいに書いているけれど、元々運動が大の苦手だ。学生時代の体育の授業や体育祭が本当に大嫌いで仕方がなかった。雨降らないかな、中止にならないかな、といつも願っていた。そんな私が、どうして歩く様になったのか、随分と昔の記憶を辿ってみたいと思う。(いまだに歩くと言っても、ゆるゆるなんだけど……)
※写真はエンジェルス・ランディング・ポイント「天使が舞い降りる場所」からのザイオン渓谷。
新卒で入った会社を辞めた
大学卒業後、某旅行会社へ就職をし、東北の片田舎から東京へやって来た。東北の支店が良く人事にもかけあったけれど、配属されたのはまさかの池袋の店舗。大学まで東北で過ごしてしまったので、今更東京へ、なんてことは全然考えていなかった。ばたばたと引越をし、東京での生活が始まった。
慣れない仕事、溜まっていく仕事、全てにスローペースの私は月200時間近い残業をしながら、仕事を始めた。今だったら一発アウトだけど、あの頃の旅行会社はブラックもブラックだったと思う。営業時間は来店、電話のお客様の対応をし、営業時間後(店舗閉店後)に、その日の処理を行う日々。終電に乗れず、カラオケBOXで朝を迎えたことも多々あり…… 。まぁその分、旅行業の基礎はばっちり叩き込まれ、いまだにこの業界で働いているのだから、分からないところである。
しかし、そんな生活も精神的、身体的にもつらく、1年半で早々にギブアップ。もう旅行会社でなんか働かないっ、と思い、最後の傷心旅行へアメリカへ旅立ったのでした。
グランドサークルキャンプ旅への参加
ご存知の通りグランドサークルは、アメリカ西武のユタ州とアリゾナ州の境になる8つの国立公園と16の国定公園が含まれるエリアのことだ。仕事に疲れた私は、アメリカのでっかい自然に癒してもらおうと、色々ツアーを探していた。そしてちょうど見つけたのが、グランドサークルをキャンプで回る現地発着のツアーで、出発は退職の5日後。ラスベガスの集合ホテルに寝袋だけ持って行けば、テントとマット、キャンプに必要な道具は現地で用意してあると言う。行ってみたかったグランドキャニオンやモニュメントバレーもコースに入っていた為、このツアーを申し込み、退職と共にアメリカへ旅立った。
この時点で、自分が販売していた日本の旅行会社主催のツアーと同様に、国立公園はさっくり散策する位かな、と思い込んでいた。トレイルを歩く、と言う発想はあまり私の中にはなく、そもそもトレイルって何?位の感覚だったと思う。山歩きの格好なんてのも持っていなくて、あくまでも持っていた中で動きやすいであろうジャージ類(今なら恥ずかしくて、隠れたい)を持って行った。それよりも、アメリカの大自然に癒してもらいたい、この気持ちが強かったと思う。
集合初日の朝、ラスベガスのホテルロビーにはアメリカ人のツアーリーダーと、日本から来たツアーメンバーが待っていた。挨拶も早々に、大きなスーパーマーケット(何で海外のスーパーってあんなにテンションが上がるんだろう)で大量の食材とビールを買い込み、バンに乗り込み、初日の目的地ザイオン国立公園へ向けて出発をした。
エンジェルス・ランディングを登ると言う選択
ザイオンのキャンプ場到着後、みんなで野菜やハムやチーズを豪快に乗せるサンドウィッチを作り昼食となった。そこでリーダーから、午後からはエンジェルス・ランディングを歩きに行こう、と提案があった。エンジェルス・ランディングとは、バージン川の対岸に立つ独立峰で、頂上は「天使が舞い降りる場所」と言われるほど、素晴らしいザイオン渓谷の絶景が見渡せる。往復3時間位かな、川もあるし歩かない人は休んでいてもいいよ、途中で疲れたら戻ってもいいよ、自由だよ、そんな説明だった。しかし、歩かないと言う選択をするメンバーは誰もおらず、右も左も分からないまま、私はみんなに付いてエンジェルス・ランディングを歩き出した。
茶色の岩肌と緑の木々、合間を流れるバージン川、それはこれまで見たことのない風景だ。トレイル前半は、スイッチバックの登り坂が続く。そこをゆっくり、ゆっくり、私は最後尾を、自分の足で歩いて行く。はっとする風景が続き、これまで歩いたことなんてない私でも、何とか進んで行くことが出来た。後半は細い尾根を歩くことになるのだが、日本ならばまず立ち入り禁止の、1m幅位の尾根の両端は400mの断崖になっており、落ちたら生還出来る高さではない。鎖場も登りながら、「天使が舞い降りる場所」を目指す。足は重いし、高さも怖い、だけどその土地の空気が歩かせている様な感覚の中、なんとか頂上まで辿り着いた。
やれば出来るんじゃない?!の勘違いが出発点に
我が家の本棚にある「地球の歩き方 アメリカの国立公園」には、エンジェルス・ランディングが、距離:往復8.7km 所要:往復4-5時間 トレイルレベル:上級 そんな風に書かれている。あれ、これ初心者の全然運動して来なかった人間が登っちゃだめな所じゃん、出発前に見ていたら、そう感じていたと思う。
「天使が舞い降りる場所」に立った瞬間、目の前に開けたザイオン渓谷に、言葉が出なかった。普段歩いていないから、足下はフラフラだし、とっても疲れているはずなんだけど、そんなことよりも、目の前の世界にただただ浸ることしか出来ない。それと同時に、あれ、私ここまで登れたじゃん、え、もしかしたらやれば出来る子?そんな一瞬の勘違いが頭をよぎった。クライマーズ・ハイだ。驚くほどの達成感が、私を充していた。
その後のツアーでは、ブライスキャニオンもモニュメントバレーもグランドキャニオンも、歩きまくった。もちろん筋肉痛もあるし、足も痛いけど、やれば出来ることを体感した私は、歩き続けたのだ。これは、自分のペースで歩かせてくれたリーダーのおかげもあったと思う。早く、とか、急いで、とか、体育の授業でずっと言われ続けて来た私は、トレイルで急かされることもなく、自分のペースで歩くと言うことがとても新鮮で、続けることが出来たのだ。これまで、私は運動は出来ない、と思い込み色々なことを無意識に避けていたかもしれない。やれば出来るかもしれないから、とりあえずやってみよう。ザイオンで歩かなければ、きっとこのマインドにはならなかったかもしれない。
帰国後、再就職をした私は、これまで以上に、色々な旅の形を模索し始めた。自給自足キャンプに参加したり、イルカと泳ぎに行ったり、グランドサークルキャンプ旅の会社へ再転職したり、ラオスに住んだりするのは、それはまた、別のお話。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?