4ハウスの月 ー目の前の現状をあるがまま受け取るー
こんにちは、変化球ホロスコープリーディングへようこそ。このアカウントでは初心者が占星術を勉強する際の「なんでそう解釈するの?」という疑問点を元に、王道とは少し違うホロスコープの読み方について深掘りしていこうと思います。
3回目は4ハウスに位置する月について解説しようと思います。前回の記事に引き続き、本記事では心理占星術を元に考察していきます。前回の『4ハウスの太陽』を読んでいない方は、ぜひそちらもご覧ください。
太陽の片割れとしての月
4ハウスの月の具体的な象意を見ていく前に、前回説明した太陽と月の関係性について解説します。
そもそも占星術において、天体が二つずつ組になっているのはご存知でしょうか。一般的には太陽と月、金星と火星、木星と土星がそれぞれ反対の意味を持つものとされています。女性性と男性性、陰と陽、偶数と奇数、天と地など、天体は現実世界のあらゆる側面を二分化し象徴するのです。太陽が現実世界の夫を表し、月が妻を表すという解釈は有名ですね。
太陽と月のペアの場合、太陽が意識や自我を表し、月が無意識や本能を象徴すると言われます。一見正反対に聞こえますが、両者は全く異なる存在ではありません。元は一つの存在だったのです。
私たちが赤ん坊として生まれてきた瞬間には意識と無意識という概念がなく、心的機能の強弱に差はあれど、両者は一体化し混ざり合った状態でした。しかし成長するにつれ両親や家族から受け入れられなかったり、表現を抑圧されたりした機能の一部は十分な発達を遂げることができなくなります。心的機能の優劣にどんどん差が出てくるのです。誰だって自分の劣った部分や未熟な心の側面を直視したくはありません。個人は未発達な心的機能を無意識の中に閉じ込めることで、その存在をことあるごとに意識する必要がなくなるのです。
しかし男女が交わることで新しい命が生まれるように、最終的には無意識と自我を一体化することが必要です。それは私たちが社会で生きていく中で勝手に作り出した幻影であり、そもそも生まれた時には未分化な状態だったからです。実際のホロスコープリーディングにおいて二つはことあるごとに比較され反対の事柄を示すとされますが、実際は一つの心を違った側面から見ているにすぎません。太陽は命あるものの成長を促し、社会において独立した自我を確立できるよう導きます。月は本能に身を任せ他者との一体化を図り、母親の子宮へと戻るよう促します。真反対のことを言っているように聞こえますが、どちらも生命力という全体性の一部なのです。ですので実際にホロスコープを読む際も、本人がどんな状況下で安心を感じ(月)、溜めたエネルギーをどういう方向に使っていけばいいのか(太陽)、セットで考えるとその人の理想の行動パターンが見えてきます。
月の象意
月の象徴する事柄についても簡単に触れておきます。潮の満ち引きは月の引力によって起きますし、女性の月経リズムも月の公転周期とほぼ同じです。古代の人々は月の力が自然サイクルのあらゆる側面に影響することを観察から知っていました。占星術においても月は肉体の基本構造、サイクル、健康状態、五感を表すとされます。自然との密接な関係による本能的欲求、個人的な習性、無意識を司り、より原始的な部分に働きかけます。月は太陽の光を受けることでしか輝けないことから、受動的であり、動物的であり、感覚的です。太陽がより社会的で自主的、独立的であることと比較すると、月はその奥深くにある生物としての習性や感覚的な敏感さ、他者と一体化し個を溶解する力を表します。仕事おわりに意識から解放され、リラックスしている状態などで月の影響を垣間見ることができるでしょう。
月は幼少期の体験とも深く関わっています。これは大人と比べて意識と無意識の分離が少なく、乳幼児が無意識の影響をより直接的に受け取っていると考えられるからです。大人よりも動物的な存在に近いと言えるでしょう。
また月は太陽の対となる存在であり、太陽が長い時間をかけて達成する目標を示す一方、月は日常的な事柄、何も考えずにできる習慣、子供の頃に習った技能などを表します。私たちが日本語の構造についていちいち意識することなく使えるのは、幼少期に膨大な時間をかけて慣れ親しんできたからです。箸を半ば無意識に使えたり、考え事をしながらトイレに行けるのも、子供の頃に失敗を繰り返しながら体に定着するまで覚えたからです。意識せずとも出来る習慣は月に表されます。しかしこれは当たり前に出来る事柄であり、自主的な達成意欲とはあまり関係がありません。「トイレに行けるようになろう」「箸を使えるようになろう」と子供の頃に意識的に努力した人は少ないと思います。幼少期の習い事もそうですが、月の年齢領域の0から7歳において自分で自分の行動を選択することはとても難しいです。大体が親に強制されながら嫌々取り組むか、良くても親が選んだ環境の中で意欲的に取り組むかのどちらかでしょう。太陽はその点自発的に挑む事柄を指しますが、月はあくまで受け身であると考えましょう。
月は太陽系の10天体で一番公転周期が速く、毎夜形を変えその様相は定まることがありません。その移ろいやすい性格から、ホロスコープ上で関わる天体やサインの特性をありのまま表現する媒介としての役割も果たします。位置する場所によって性格が大きく変わるのです。これはやはり乳幼児を想像してみれば分かりやすいでしょう。幼少期は両親や身近な大人の言動を観察し、見よう見まねで自らの行動に取り入れます。月は生まれたばかりの子供の特徴と非常によく似ているのです。
占星術において上記で挙げた事柄は『女性性』と呼ばれます。これは現実的な女性を指しているわけではありません。繊細な感情や感覚、一体化、共感能力などは昔から女性が体現すると言われていますが、女性性は男性の中にも潜在します。それを表現するかしないかという問題なだけなのです。確かに男性が社会的な抑圧からこれらの特性を表現することは比較的難しく、多くの場合、女性の方が月のエネルギーを有効活用していることが多いです。そうなると男性が身近な女性に自分の月を投影することは必然となります。月が現実の妻や女性の恋人を示すとされるのも頷けますね。これは前回説明した男性性の太陽と同じ原理です。
4ハウスと月
前置きが長くなりましたが、ここから本題に入ります。月は蟹座の支配星であり4ハウスは蟹座と関連性が強いことから、このハウスの月はその特徴をのびのびと表現できる傾向にあります。言ってみれば月の領域にある月。この配置の意味することは『目の前の現状をあるがまま受け取る』です。
以下では具体的なポイントを押さえていきますが、これはあくまで4ハウスの月を単体で見た時の解釈であり、別の天体とアスペクトを形成している場合や位置するサインによっても細かい意味が変わってきますのでご注意ください。
差し出された家、価値観
「望んで生まれてきたわけじゃない」というドラマの台詞は、ある意味的を射た言葉です。子宮に生命が宿る原因を作ったのは私たちの母親と父親であり、私たち自身ではないからです。どの両親の元に生まれるか、どういった教育環境で育つか、遺伝的に受け継がれる才能や容姿はどういったものか、という誕生に付随するあらゆる条件も同様で、私たちが自由に選ぶことはできません。始まりとは自由なものではなく、我々はあくまで用意されていた環境に飛び込むことしかできないのです。
初回の概要で4ハウスは生まれ育った環境、家庭、両親、根底にある価値観などを表すと説明しました。これらはつまり、一生の始めに用意されていた環境だと言えます。環境や両親は言わずもがな、根底にある価値観でさえも幼少期の経験に大きく影響されているからです。私たちは生まれてくる際に、4ハウスが示す環境に飛び込むしかありませんでした。そして用意されていたものをどう受け取るかは、位置する天体やハウスによって違ってきます。
月はありのままを受け止め、受容し、一体化する天体です。4ハウスに月が位置する場合、用意された家庭環境、両親の価値観などをそのまま受け取ることができたと解釈できます。この配置の人にとって幼少期は子供らしさを十分に表現できる時間でした。そのため自分の中の無邪気な側面と上手く付き合うことができるでしょう。両親、特に母親の影響を十二分に受けていることが多く、家族の価値観や好みをそっくりそのまま自分のものとして考える傾向があります。しかしそれは必ずしも悪いことではありません。そもそも月は太陽とは違い、他者と自分を分けたり目標に向かって邁進したりする天体ではないからです。月の本質はあくまで受動。目の前の現状をそっくりそのまま取り入れるだけであり、既成概念に疑問を投げかけることはしません。
この配置の人は家庭や家族をエネルギーの供給源として考え、家族という集団の一部になることで安心感を覚えます。幼少期の本能的習性や家庭環境を知らず知らずのうちに再現し、新しい家に持ち込むでしょう。本人にとってはそれが居心地のいい環境を作る上で大切なことですが、必ずしも配偶者や同居人の賛同が得られるとは限らず、反対された場合大きなストレスを感じるかもしれません。そもそも4ハウスは生家としての家族を表し、配偶者や同居人は示しません。相手の好みに無理に合わせた家づくりは心身ともに負担になるので、場合によっては生活環境を分けるなどの工夫が必要です。
安らぎとしての家
月は自我が意識的に働いていない状態で強く作用するため、4ハウスに月がある場合は何より家や帰る場所を自然体でいられる環境に整えなくてはなりません。この配置の人にとって家庭とはのびのびできる場所でなくてはならず、反対に家に仕事を持ち込んだり、事務所を作ったりと言ったことはあまりお勧めできません。これは4ハウスに限った話ではありませんが、月が位置する事柄は仕事でうまく活用しようと思わない方がいいです。プライベートを表す月を金銭を得るための道具としてしまうと、公と私が逆転してしまい健康悪化につながる場合があります。特に4ハウスの月はプライベートをプラベートして扱うという意味ですので、社会生活と個人的空間をしっかり分けると良いでしょう。逆に言うと、帰る場所さえ守っていれば外でいくらでもアグレッシブに行動できる人です。
無意識を無意識として受け取る
月は無意識的な思考や感覚を表し、一方で4ハウスも個人の無意識や潜在意識と関係しているので、自分の中の影の側面を感覚的に受け取るという意味に捉えられます。この意味は4ハウスの太陽と比較してみると分かりやすいです。
4ハウスが無意識や潜在意識を表すとき、このハウスに位置する太陽は自分の奥底に眠る部分を意識的な方法で視覚化し、社会の中で確立しようと試みます。外部との摩擦を恐れず邁進し、自分の内に溜め込むよりは常に表現することに主軸を置いているため、職業的に活用しやすいのは月より太陽の方でしょう。俳優や女優、アーティストなどが分かりやすいです。
しかし一方で日常的に心の奥底に捨て置かれた非顕在的な無意識を、目に見える形にするという行為は、多少なりともその実態を歪曲するリスクに繋がります。感情を言語化する際にすでにある言葉にしか当てはめることができないため、完全な意味で表現することができないのと同じです。無意識とは人間関係において表現を抑制され続けてきた劣等機能ですので、その存在を顕在化し認めるのはただでさえ難しいのです。それは非常に苦痛を伴うものであり、しばしば自分に都合のいいように解釈したり、目を背けたりするかもしれません。またその気がなくとも、人が導き出した答えに何となく当てはめることで満足するに終わるかもしれません。いずれにせよどこかで妥協した時、自己実現を断念したということなので言いようのない不安や罪悪感に見舞われることになるのがこの配置の特徴です。
一方4ハウスの月はどうでしょうか?上記でお話しした通り、この二つは類似性が非常に高いです。自分の中にある無意識や価値観を鋭い嗅覚で本能的に嗅ぎ分けます。月は感情を肉体で受け止めるという風にも捉えられるので、身体の健康状態や変化を通じてこれらを察知する場合もあります。いずれにせよ繊細な感覚を有し、自分の劣った側面や無視しているはずの影の存在をふとした瞬間に垣間見ることがあるかもしれません。言ってみれば自分の気持ちに敏感な分、他人のこともよく観察しているでしょう。表の顔に騙されず、相手が気を抜いた瞬間に見せる素の表情を見逃しません。私的に使う月なので太陽よりものびのびと向き合うことができますが、その分外部からは見えにくいです。自分の持つ価値観を意識化して対処する、幼い頃に形成されたバイアスに疑問を投げかけ刷新する、といったことが太陽に比べて苦手であり、知らず知らずのうちに自分の先入観に足を取られているケースがあります。土星とのアスペクト、太陽とのハードアスペクトなどがある場合は自分の内面がおざなりになることで、より顕著になります。
疑問点
4ハウスの月に関しての解釈は以上ですが、個人的に気になっていることについてお話しします。
月は乳幼児と見立てることもでき、4ハウスの月は自分の中に無意識の子供がいると解釈することもできます。この考え方は心理学用語のインナーチャイルドに似ていますが、この配置の人が全員アダルトチルドレンかというとそうではないと思います。アダルトチルドレンとは簡単に言えば幼少期の心的トラウマを引きずり、生きていく上で何らかの支障がある人たちのことです。しかしこれは上記の説明と矛盾しています。4ハウスの月は自分の生育環境を比較的すんなりと受け入れられたと以前お話ししました。(これはもちろん他の天体とのアスペクトによっても変わってきますが。)というのも月は理解できるかできないかではなく、目の前の状況をただ受け入れるという心の働きに関係しているからです。しかし考えてみれば、
幼少期に自分の置かれている環境について客観的視点を持ち理解するという行為は限りなく難易度が高いです。4ハウスに月以外の惑星が入っていたとしても、それは同じことでしょう。生まれたばかりの子は大体が月の性質を強く表現しているので、4ハウスの月は概して幼児期の子供の特徴全般を表すとも見て取れます。この解釈が個人的特性とどのように関わってくるかは謎であり、そもそもこのような見方をしていいのかも分かりません。しかし特定の個人の中に人類の子供としての存在が内包されているという発想は大変興味深いです。いずれにせよホロスコープリーディングに適用するにはまだまだ不確定要素が多すぎるので、今後の研究課題にしようと思います。
まとめ
<4ハウスの月のキーワード>
・幼少期の家庭環境を安心の基準とする。
・両親の価値観に大きく影響される。
・個人の無意識や価値観を感覚的に受け入れ、理解する。
・感情を肉体を通して受け取る。
<関連する職種>
小説家、詩人、絵本作家、インテリアルコーディネーター、主婦・主夫、アロマセラピスト、マッサージ師、など。
月が示す事柄を仕事に使うのはあまりおすすめできませんが、仕事にするとすれば自然体でいられるよう制約が少なく、自由な勤務スタイルのものがいいでしょう。また上記に挙げている芸術系の職業は多かれ少なかれ自己表現を求められるため、必ずしも月を有効活用できるとは限りません。
参考文献
リズ・グリーン 占星学 青土社,1994
神谷充彦 月の占星術技法体全 説話社,2022
初心者が最初に巡り会いたい「深楽しい」西洋占星術講座 https://lani.co.jp/horoscope-32211