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何もかもが嫌になってファミレスに行った日

数年前のある日に私は仕事も恋愛もうまくいかなくて、とてもむしゃくしゃしていた。そんな日に限って母と些細なことから喧嘩するはめになるのだ。もちろんただの私の八つ当たりから始まっていることだ。

だけどこの日はかなり言い争いがヒートアップしてしまった。そして母は最終的にこんな言葉を使ったのだ。

「そんなに嫌なら家を出て行くのがいいんじゃない?」

私はそうじゃなくても自分が嫌でたまらなくなっている状態だった。だからもう消えるつもりで家を飛び出した。消えるつもりといっても単なる家出という状態でしかないけど。


私は大人になるまで家出というものをしたことがなかった。反抗期もあったかというと微妙な感じでたまにつんけんと突っかかることはあっても、この時期は特にひどかったということがない。

単に学生の頃は自分で使えるくらいのお金を持っていなかったということも関係しているのかもしれない。

だから実はこれが初めての家出のようなものだった。大人になってから家出するなんてどうなんだろうと自分でも思うけど、私は不思議な高揚感を覚えていた。これから何をしよう。

お金ならけっこう持っているし、ネットカフェに泊まって一日中映画を見たり漫画を読んだりするのもいいかもと思った。とりあえず電車に乗って街に向かう。


まずは腹ごしらえをしようかと駅の近くにあったファミレスに入った。

午前中でオープンしたばっかりだったこともあって客入りはあまりなかった。それでもぽつぽつとモーニングメニューを食べている人はいた。おいしそうなサンドイッチを横目で見てはお腹が鳴った。恥ずかしい。

どうせならと子供のころはあまりなかった比較的新しいメニューを頼んでみた。デミグラスソースがかかったタイプのオムライスだ。これが一度でいいから食べてみたかった。

ちょっと悪いことをしているような気持ちになっていたこともあって、とてもおいしかったし楽しかった。


するとお昼時が近づいてきたこともあってか、子供連れのお母さんが少し離れた席に座った。女の子を連れていて大体幼稚園の年中といったところだろうか。なんとなく目が行ってしまう。

その女の子は頼んだお子様ランチを自分で食べたいようだけど、うまく食べられなくて口元からハンバーグのソースを垂らしてしまった。すかさずお母さんがそれを拭ってあげている。

「ほら、口に入れすぎるからそうなるの」
「はーい」

そんなことを言いつつ、女の子は気が散ったのか今度はフォークに刺していたフライドポテトを落としてしまった。お母さんは怒るわけではなく、注意するのみだ。そして店員さんに謝っている。


私はこの光景を見たことがあった。正しくは女の子の側だったことがあったのだ。なんだか泣きそうになってきた。客観的に見ればそれが当たり前じゃなかったことに気付く。

子供が人前でよくないことをしてすぐに怒鳴る親がいる。子供が何をしていても放っておく親もいる。そんな家族連れをお昼時に外出した時にはよく見てきた。

こういう辛抱強く子供に付き合う親もいたのだということを思い出してはっとした。私の家出はなんと二時間程度で終わってしまった。無性に母に会いたくなった。


「ただいま」
「あら。おかえり」

母は何でもない顔で迎えてくれた。それがまたあのファミレスでの子供連れのお母さんのことを私に思い出させる。

お母さんってどうしてこんなに強いんだろう。子供が何か悪いことをしているのにまた受け入れてくれる。それはきっと私がもっと小さいことからずっと行われてきたことで。本当は当たり前なんかじゃなくて。

そんなことをごちゃごちゃ考えていた。


「ほら、寒いから入りなさい」
「お母さん、ごめんね」
「…いいのよ」

おそらくこれは本音じゃないと思う。母だって傷ついていないわけがない。だけどそう答えられるのはすごいと思った。

私はその後仕事の悩みなど話せる範囲のことを母に聞いてもらった。母はアドバイスはしなかったけど、最後まで聞いてくれてほっとした。こんがらがっていた頭がすっきりした気がした。

最初から八つ当たりなどせずにこうすれば良かったんだと思った。


もし何かあった時に「あの時ちゃんと謝っていれば」になりたくない。誰だってそうなる可能性があるのだ。だから喧嘩したらすぐに仲直りしておくに限ると思う。

あの時の子供連れのお母さんには本当に感謝している。

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ちょこ
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