『"It"と呼ばれた子』の、心の傷と一緒に幸せになる言葉②~憎しみとゆるし
憎しみは地球を滅ぼしますが、ゆるしは宇宙を救います。
もし、この地球の中で憎しみが連鎖すれば、世界大戦さえ起きかねません。
憎しみとはそのくらい恐ろしいものです。
この地球には、世界中の人が発する憎しみを受け止めるポケットのようなものがあります。
そのポケットに憎しみが入りきらなくなって、ポケットが爆発したとき、この地球上のどこかで戦争や災害が起こります。
憎しみは太古から存在しています。
ある家族にとっては、先祖から受け継がれるものはDNAだけではありません。憎しみも受け継がれます。
親から子へと受け継がれる憎しみは、その流れを誰かが止めなければ、これから生まれる子ども、そのまた子ども、そしてその子ども・・・と延々と連鎖していきます。
その流れを止める責任は、私たちひとりひとりにあります。
もし私たちがその責任を放棄するならば、憎しみは人類の歴史の終わりまでこの地球上で転がり続けるでしょう。
外野に飛んだ球は、誰かが捕りにいかなければなりません。そうでなければランナーはアウトにならず、相手に点が入り続け、私たちは攻撃することができません。
そろそろ私たちは憎しみからの攻撃をスリーアウトチェンジで終わらせ、幸福の攻撃に移ろうではありませんか。
そういった意味で、憎しみの連鎖を止めた人は、ゴールデングラブ賞を10個あげてもいいくらいの価値があります。
では、憎しみの攻撃をどうやって止めるのか。
憎しみを受け止めるためのグローブは、すでに私たちに与えられています。
それは「ゆるし」です。
ゆるすことができる人は、地球と私たちの幸福を守る守備職人。源田壮亮以上の存在です。人類にとって、これほどたまらん存在はないでしょう。
そんなステキすぎる人間の代表が、「"It"と呼ばれた子」デイヴ・ペルザーさんです。
このひとつ前の文章でも紹介しましたが、デイヴ・ペルザーさんはカリフォルニア州の歴史上最悪と言われた虐待を生き延びた人です。
彼がすばらしいのは、壮絶すぎる虐待を受けた経験を、人生をよりよく生きるための知恵に昇華させているところです。
前回に続いて、デイヴの著書『"Itと呼ばれた子 指南編 許す勇気を生きる力に変えて』(ヴィレッジブックス 2003年)から、みなさんのために言葉を紹介したいと思います。
今回のテーマは「憎しみとゆるし」です。
これ以上ないほどひどい仕打ちを受けたデイヴのような人でも、憎しみに支配されず、「ゆるす」ことで心を自由にすることができたという事実。
その事実から勇気をもらいたいと思います。
憎しみに取り憑かれた母親の末路
これは、デイヴが大人になってから母親に会いに行ったときの様子です。
この文章を引用したのは、長い間憎しみを抱き続けていると、身体にどのような悪影響があるのかということを示すためです。
凄まじい怒りが湧いて、全身の筋肉が硬直し、頭に血が上って血管がはちきれそうになり、呼吸もロクにできないという体験をしたことはありますか?
そのような状態が何年も続いたとしたら・・・老化を早める活性酸素が大量に生じ、筋肉が硬直しているので老廃物を追い出す代謝も弱まり、呼吸がしにくいため酸素が脳をはじめ全身に十分に行きわたらなくなることは間違いありません。
身体の生理について専門的に学んできた経験や、実際にこのような状態に近くなってしまった人を見てきたことから、間違いなくそうなると言うことができます。
このように、憎しみによって心だけでなく身体も蝕まれてしまったデイヴのお母さん。実は彼女もまた、DNAと一緒に受け継がれてきた憎しみの被害者だったのです。
デイヴの母親の激しい怒りと恨みが伝わってきます。
だからといって虐待をしていいなんてことは絶対にありませんが、彼女もまた憎しみの被害者だったとするならば、ちょっとだけ同情する心が生まれてきます。
この人にとって、母親から受けた傷に対処する方法は、自分の息子を虐待することでした。
本当に、それしかなかったのでしょうか。
そんな姿を見て、デイヴには小さな「悟り」が訪れました。
「決して母と同じ道は歩むまい」。それが、この対面によってデイヴが得た結論でした。
憎むことは、なんと無益なことなんだろう。デイヴがこの結論に至ったのは、憎むことで憎しみを解消することはできないという、かつてブッダが弟子たちに語った真理に気がついたからに他なりません。
では、人の心身を蝕み破壊してしまう憎しみの虜にならないように、私たちはどうしたらよいのか。
それにはまず、デイヴと同じように、憎しみが恐ろしいものであることに気づくことです。
そして、憎しみを捨て、「ゆるす」ということです。
憎しみにかられて怒っても、何も得る物はない
デイヴがティーンエイジャーと話すとき、よく"力説"することがあるそうです。
それは
ということ。
怒ったままベッドに入るなんて、気分が悪いですよね(私の場合は布団です)。
「寝れば忘れる」ということも確かにあると思いますが、実は怒ったまま眠りにつくのはとても危険なことなのです。
なぜかというと、寝ている間に「怒り」が潜在意識に入ってしまうからです。
怒りが潜在意識に入ってしまうと、自分では気づいていないけど、常に「怒りたい」という状態になってしまいます。
ネットで炎上に加担する人も、会社へクレームを入れる人も、やたらめったら非難をしてくる人も、すべてその根源には「怒りたい」という欲求があります。
「怒りたい」と思っている人にとって、不倫など問題を起こした人は格好のえじきです。
だって、「正義」の名のもとに自分の怒りを正当化して、それを好き放題に発散できるのですから。
世の中には、そうやって怒りの虜になって、今か今かと怒ることができる機会を待っている人がいます。
そんな人と、誰が友達になりたいですかね・・・。
潜在意識に怒りが入ってしまうと、心身が常に怒りの火種がくすぶっているような状態になるので、もちろん健康にもよくありません。
愛されないし健康にもよくない。潜在意識に怒りを入れてしまうというのは、そんな状態になる第一歩です。
自分に質問をするということは、思考や感情から自分自身を引き離し、冷静になるためにとても有効なスキルです。
そして「自分はいったい誰を傷つけているんだろう? この怒りや恨みは、結局誰を滅ぼすんだろう?」。この質問の答えは・・・
もちろん「自分」ですよね。
だから何としても、寝る前には一度深呼吸して心を落ち着かせ、楽しいことを考えましょう。
そうすれば、潜在意識に「楽しい」という気分を染み込ませ、起きている間にも楽しいことが引き寄せられるようになります。
そうは言っても、どうしてもゆるせないことがあったり、ゆるせない人がいて、怒りや恨みを抱いてしまう気持ちもわかります。
怒りや恨みを静めるのはなかなか大変で、時間がかかることもよくわかります。
そんなときには、自分を否定する必要はありません。怒りに駆られて衝動的な行動をしてしまうことだけは避けないといけませんが、まずは怒りや恨みの気持ちを持つ自分を認め、ゆるしてあげましょう。
1年前にあったムカつく出来事も、ムリヤリ思い出そうとしなければ忘れてしまっていると思います。このことからもわかるように、怒りというのは時間が経ったり気分を他の物に向ければ勝手に静まっていくものです。
あなたの怒りは、どれくらいの時間をかければ静まるでしょうか?何かを食べたら静まりますか?ひとりでカラオケに行って大声で歌えば静まりますか?
怒りを持ち続けるのは健康にも美容にも悪いですから、なるべく早くいい気分になるために、自分の心が静かになる場所や行動、いい気分に変えるためのスイッチを、いくつか持っておくとよいでしょう。
憎しみは無益です。また、憎しみから出る行動、例えば、自分にイヤなことをした親を困らせるために、公共の場所で暴れて物を壊すとか、悪い奴らとつるんで盗んだバイクで走り出すとか、マンションのベランダから飛び降りるとか、そういった行動をすることも無益です。
いや、無益どころか、物を壊された人から憎しみの目で見られますし、警察から逃げる途中で人生を棒に振るような大けがをするかもしれません。ベランダが高い階にあれば、大けがではすまないかもしれません。
悲しいことですが、そうなってからやっと後悔して自分の行動の結果に気づく人もいます。でもそれでは後の祭りです。
どんなにムカつくことがあっても、イヤなことがあっても、人生は続きます。自暴自棄になっても幸せにはなれません。
厳しいようですが、そういった現実は認めたうえで、出来る範囲で、今取るべき行動をするしかないのです。
今できることをコツコツ続けていけば、必ず道は開けます。臍の9cmほど下にある丹田に手を当ててください。耐えるためのガッツが湧いてきます。今苦しい人は、そうやって耐えながら、ブラックサンダーを買って食べるというようなどんなに小さなことでもいいですので、幸せになるための作戦を考えてください。
私たちを滅ぼす「憎しみ」を知ろう
恨み(*)を抱く理由・・・考えたことがありましたか? 私はこの文章を読むまでは考えたことはなかったです。
*私の手元にある国語辞典によると、「恨む」は「人の仕打ちに不満を持って憎む」とあります。
なのでデイヴが言う「恨み」には「憎しみ」の意味も入っていると思ってください。私もこの章では主に「恨み」を使いますが、「憎しみ」と同じ意味です。
一瞬恨みを抱くのもいいかもしれない。でも、根本的な解決をしようとせず、恨みを抱き続けている限り、その人の心身は蝕まれていきます。
「ゆるせない」という感情、「何で自分だけがこんな目に合うの!?」という疑問、「自分にはこの問題を解決する力はない」という悪い意味でのあきらめ、こういうものが同時に心に襲ってきたら、そりゃ誰だって絶望したくもなります。
人は希望にすがりたいから、絶望したくなんてないから、こうやって絶望したときに、その感情を心が直接受け止めて壊れないように、「恨み」を抱くのです。
何か他人からひどいことをされたときに、一瞬恨んでしまうことは悪いことではないのかもしれません。
問題は、恨みを持ち続けてしまうこと。恨みが潜在意識に入ってしまって、何でもないときに恨みの感情がくすぶり続けていること。
そうなってしまうと、ちゃんと人とつながることができなくなったり、しまいには病気になったりしていまいます。
私の父はガンで死にました。母の憎しみに対して憎しみで応えていた父。彼もまた憎しみを抱き、それによって細胞レベルで傷ついてしまったからガンになってしまったのか、それはわかりません。
医学では証明できないかもしれませんが、憎悪は百害あって一利なしです。
「ゆるされる」ことを望むより、「ゆるしてしまう」方が、早くて楽だ
デイヴがどれくらいの声の大きさで、どんな表情や身振りで「いいえ!」と言っているかは想像するしかありませんが、明るく元気よく答えているのではないかと思います。
この気前の良さ!!威勢の良さ!!
これこそ、私たちが幸せになるために彼から学ぶべきことです。
どれだけひどい目にあっても、そんなことは忘れてしまって、前向きに生きる。
それがどれだけ清々しくて気持ちいいことか。
車がまったく入ってこない山の谷川を流れる清浄な水?まだ誰もすべり始めていないまっさらなゲレンデに輝く新雪?林の中を散歩しながら眺める満天の星空と天の河?
憎しみから解放される気持ちよさは、いったい何に例えられるだろう?
デイヴは本の中で、テンプルトン財団の研究による「ゆるし」の心理的効果を紹介しています。
私の体験からも、100%同意します。
私も"うつ"になったことがあります。そのときはまだ怒りや悲しみが潜在意識にわだかまっていたのでしょう。
でも、周囲の人を、そして何より自分をゆるせるようになってから、端的に言うと「すごく元気」になりました。
もちろん人生いろいろあるので怒ることもありますが、人間関係は相当改善したと思いますし、憂鬱な気持ちにもほとんどなりません。
なったとしても、「まぁいいか」とその状態をゆるし、それが浄化されるまでその感情と一緒にいることができます。
「ゆるすこと」は、私の個人的な経験からも、デイヴの例からも、心理的効果の面からも大変おススメできます。
でも、それでもどうしても、経験を自分の中で消化できず、「ゆるせない!」という人もいるでしょう。
そんな人に、私が『"Itと呼ばれた子 指南編 許す勇気を生きる力に変えて』を持って旅に出て、電車の中で読んでいたときに、最も印象に残った文章を送りたいと思います。
汚い例えで本当に申し訳ないのですが、恨みつらみ、憎しみといったイヤな気持ちは、すべて「クソ」です。
あなたはどこに行くのにもウンコを常に持ち歩きますか?
誰にも気づかれずに持ち歩いている人もいるのかもしれませんが、幸いにして私はそういう人と会ったことはありません。いくらウンコが大切という人でも、持ち歩いたりしないのではないでしょうか。
ウンコにはハエが寄ってきます。それと同じように、イヤな気持ちを抱いていたら、イヤな人や出来事が寄ってきます。
そうならないためにも、ウンコみたいなイヤな気持ちは、スッキリさらっと「水に流して」しまいましょう。
「どこかの誰かが、私が持っているウンコに気づいて、私の代わりにトイレに流してくれないかな~」
と思っていても、誰もあなたの代わりには流してくれません。
あなただって、人のウンコを代わりに流したくはないでしょう。
だから、人にあなたのイヤな気持ちや過去のトラウマを認めてもらうのを期待するよりも、自分でゆるして水に流してしまった方が、早いし楽なのです。
ゆるすための「コツ」
最後に、私がどうやって母親をゆるすことができたのかをお伝えしたいと思います。
なぜなら、私の経験が、あなたが「ゆるす」ことができるようになるために、大きなヒントになると思うからです。
私もデイヴと同じように、怒り狂っては人を不幸にしている母親を見て「絶対にこうはならない!」と天に誓いました。
でも、ゆるすことはできませんでした。怒りや憎しみの心は残りました。
ゆるしたくても、母親の怒りを近くで浴び続けていたので、ゆるすことができなかったのです。これが私の失敗でした。
では、私はなぜ、最終的には母親をゆるすことができたのでしょうか。
その理由は、母親の憎しみが届かないところまで「距離をとった」からです。
だって、近くで毎日ウザいことをされたら、とてもゆるすことなんてできませんよ。
私は、母親が怒り始めるのが17時頃だと知っていましたから、そのくらいの時間から、母親が眠るまでは家に帰らないということを徹底しました。
高校3年生の頃は予備校で遅くまで勉強しました。大学生の頃には、友人の家に2泊3日で泊まったりしました。友人の家に行けないときはマックで100円のジュースを買って遅くまで本を読みました。
一人暮らしをするお金はなかったですが、そうやってできるだけのことをして、距離を取りました。
デイヴだってそうです。彼も、母親のところから救い出されて、それからしばらく経って、ゆるすことができたのです。
もし彼がずっと母親と一緒に住んで虐待をされ続けていたら、「ゆるす」なんて考える余裕はなかったと思います。
なので私からは「ゆるせる距離まで離れよう」という提案をします。
夫婦でも親子でも、近くにいないといけないという決まりはありません。ゆるせる距離まで離れましょう。
ちょっと離れてゆるせる人はちょっとでいいですし、ブラジルまで離れないとゆるせない人はブラジルまで行きましょう。
これを読んでいらっしゃる夫婦の方で、もし今困っているというなら、勇気をもって離婚も考えましょう。
もちろん聞いてみないとわかりませんが、お子さんも、ずっと怒鳴り合う両親を見ているよりは、離婚してもらった方が気が楽なはずです。
私もどれだけ両親の離婚を願ったかわかりません。
「ゆるす」ために「距離を取る」。
これが、「ゆるす」ための最終結論です。
「それでもゆるせない」という方へ。
そういうときは「ゆるせない自分をゆるします」と、自分に言ってあげてください。
他人をゆるすことが無理なら、それはそれで仕方ありません。
「他人をゆるせない自分はなんてダメなんだ」と自分を責めてしまう人もいます。
きっと自分に厳くしてくたんですね。それはとても偉いです。今までよくがんばってきましたね、とほめてあげたいです。
でも、自分に厳しくし過ぎるのは、もうやめにしましょう。
他人はゆるせなくても、自分だけはゆるしてください。
「他人をゆるせない自分をゆるします」
「自分に厳しくする自分をゆるします」
「仕事にやる気が出ない自分をゆるします」
「すぐ怒ってしまう自分をゆるします」
こうやって、自分をゆるしてゆるしてゆるしまくりましょう。
そしていつの日か、自分をゆるせる日がきます。
そのときあなたは、相手のこともゆるせるようになっている自分がいることに気づくでしょう。
他人でも自分でも構いません。このようにして「ゆるし」を与えた人は、この地球上に蔓延る憎しみの連鎖を止めたことになります。
憎しみの連鎖を止めれば、誰かが救われます。
誰かを救ったあなたはスーパーヒーローです。
神さまを大いに喜びます。
地球を救ったあなたは、神さまからご褒美をもらうことができます。
そんな日を楽しみに、ゆるしの道を歩んでいってみてはいかがでしょうか?
あなたが心安らかに、平和で明るく幸せな人生を歩むことを願っています。
いつも応援してくださりありがとうございます。