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アルプスの女王 燕岳に挑む②

※前編も公開されてるのでこちらも良かったら読んでみてください。

消灯が20時半だったためか夜中の3時ごろに目が覚めて眠れなくなった。
日の出が5時36分だったため、まだ起きるには早い時間だったが、星空が見たくて外へ出た。
この日は風がほぼ無く、外は相変わらず霧が立ち込めていてた。
それでも外には眠れない人たちが数人いて、一緒に空を眺めていた。
本来であったら、山の上から見る満点の星空で、街の明かりがある場所では見えないような星まで見えるはずだったが、この日は雲の向こう側に月がぼんやりと見える程度だった。
凍えながら見えない星空を祈るように見上げる時間も普段ではなかなかできない経験だったので楽しかった。寒さの限界となり、4時ごろには室内に戻り自分の寝場所で朝日の時間まで過ごしていた。

5時前になるとすでに館内では活動を始めた人たちの音が聞こえるようになっていた。
私もこのタイミングで用意して再び外で日の出を待っていた。

夜明け前でも山頂を覆った雲は晴れずにいた。
見晴らしの良いところから、朝日が昇るまでの時間、雲が晴れることを祈りながら待っていた。

ほんの一瞬雲の隙間から太陽が見えた。
朝日はこれ以上は見えなかった。

夜明け前の暗かった世界が、朝日が昇るとともに少しずつ白んでいき、太陽が直接見えなくても世界が明るくなっていくことが嬉しかった。
一緒に朝日を待っていた人たちと真っ白な空を祈るように一心に見つめる時間も普段では経験できない尊い時間だった。

どんなに文明が進んで色々なことが便利になった今でも、自然の脅威を前にしては人間はただ祈ることしかできなくて永遠に人間は無力だと思った。
だからそこ、色々な偶然が重なり起こる自然現象は有り難く、強く感動することができるのだと思った。
力を持ちすぎた人間に左右されることのない自然や気候の偉大さを感じた。

その日は天気が良くなると言われていたので、太陽が昇るにつれて雲が流れていき、景色が見えるようのなっていったのがすごく嬉しかった。

太陽が昇りだんだんと雲が晴れてきた


朝食は燕山荘の喫茶コーナーでケーキセットを注文した。
山の上で雲海を眺めながら食べるケーキはとても贅沢な気持ちになった。
これだけでも燕山荘で宿泊できて良かったと思えた。

ケーキセット1000円
コーヒーの量とケーキの質を考えると安いぐらいだ

7時にはチェックアウトなため、朝食の後は荷物をまとめて燕山荘を出た。
山荘の前は下山する人、これから槍ヶ岳へ縦走で向かう人、燕岳の山頂へ向かう人など賑わっていた。

雲が山肌を降っていく。
奥には槍ヶ岳が見える。


燕山荘の外には思い荷物を置いて置ける場所もあるので、そこにザックを置いて、少ない荷物を持って燕岳山頂へと向かった。
燕岳山頂へは燕山荘から歩いて30分程度で到着する。
向かっている途中は雲に隠れていた山頂だが、下山する頃には雲も完全に晴れて真っ白な花崗岩の地面とハイマツの緑がとてもよく見えた。
燕岳は花崗岩という白い鉱物から成り立つ山で、山肌が白っぽく見えることで有名だ。
また花崗岩は風化作用を受けやすく、花崗岩が露出している場所では風化した花崗岩で砂浜のようになっていることが特徴の一つである。
燕岳にある人気スポットイルカ岩も風化して削られた花崗岩であり、風雨によって偶然イルカのように削られている。今はイルカだが10年後にはシシャモぐらいかもしれないという冗談を前日のストーブ座談会では話していた。

イルカに見えるイルカ岩
気持ちの良い稜線
槍ヶ岳がよく見える

燕山荘に戻ってくる頃には昨日までの天気は嘘だったような晴天に恵まれ、絶景を楽しむことができた。これでやっと報われた思いになった。
下山までの時間を燕山荘の外のベンチでゆっくりと過ごし景色を満喫したところで名残惜しいが下山することにした。
急登を降るということは降りも急であるため、かなり神経を使って下山した。
下山してすぐにある登山口の小屋でカレーを食べた。
これがとてつもなく美味しく、人生で食べたカレーの中で1番美味しかった。

長野の市街地を覆う雲海
燕岳山頂を眺めながらコーヒータイム
色のコントラストがとても綺麗
水に氷が浮いていて、
冷たい水が飲めることも嬉しかった



さいごに

今回初めて一泊二日の大掛かりな登山に挑んだ。
今まででは経験できなかったようなことがたくさん経験できて本当に良かったと思う。
登山ではそこで見えた景色だけでなく、出会った人や聞いた話など全部が良い思い出として残る。同じ山を登って苦労を共にした人や、同じ空を見続けて晴れてくれと祈ることなど、日常ではなかなか味わえない時間を今回過ごすことができた。
ご来光が見えなくて諦めたタイミングで、また絶対に挑戦した方がいい、いつかは絶対に絶景が見える時が来るからと励ましてもらった。
こうして、山を登る人は何度も繰り返し辛い思いをしても山に登り続けていくのだろうとと思った。
私も絶対にまた来たいと思った。
登山はある種、体力を担保にした賭けだ。体力がある限りは登り続けて、いつか想像を絶するような景色をこの目で見てみたいとより強く思うようになった。

今回の登山は、夕暮れのストーブ座談会や、眠れない人たちで深夜に星空を見たり、静かに東の空が白んでいく様子を眺め続けたり、景色が見えない代わりにたくさんの人と触れ合って、人間の力ではどうにもできない自然への脅威へと向き合っていった。今までの人生で経験することのなかった貴重な時間となった。

国土が7割森林や山の日本ではまだまだ登ったことのない山が多くある。
今回の登山を経て、よりたくさんの山に登りたいと思った。
今回は体力的にかなり辛かったが、それを上回るような良い経験ができたし、人とのつながりも強く感じた。
また、アルプス3大急登を登り切ったことで、かなり自信へともつながった。

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