親のこと、好きですか?
先日、とある方とお話をしていて、唐突にこう聞かれた。
「母親のこと、好きですか?」
その問いに対し、私は正直に答えた。「好きじゃないです」、と。
「好きじゃないです。でも、嫌いでもない。だから、恨んだり憎んだりという気持ちもありません」
わりと即答だったと思う。だって、これは本心だから。
ちなみに、この質問を受けたのは私がアダルトチルドレン(AC)であることを、前回のnoteで打ち明けたからだ。
このnoteを書いたあと、いろんな人からいろんな意見をもらった。Xではコメントの他に、数件DMもいただいた。そのなかで「実は自分も……」と語る人は多かった気がする。正直言うと、この意見は少し予想していたところだ。というのも、普段SNSを目にするなかで、実親との関係に悩んでいる人は意外と多いように思えたから。多分、親と子の関係というのはそれほどまでに難しいものなのだろう。
ここからは個人的な意見になるが、どんな境遇であれ、私は「親を大切に思えない自分」に劣等感を抱かなくていいと、そう思っている。親を大切にできないならしなくていいし、自分を傷つけてくる対象からは逃げてもいい。たとえそれが実の親であったとしても。今は、素直にそう言い切れる。
何故かというと、私は自分のなかで、大切にしている言葉があるからだ。
もう何年も前のこと。
深夜、ぼーっとテレビを見ていると、とあるバラエティ番組で『姉との関係に悩んでいる』という女性視聴者から手紙が届いてた。その視聴者に対し、その時ゲストとして出演していたひとりの男性が、このような助言をしていた。
「そもそも、親や兄弟っていうのは、自分で選んだ相手じゃないんだから大切に思えないならしなくていい。家族って、たまたま同じ家にいるだけの他人なんです。別の人間なんだから、分かり合えなくたってそれは不思議なことじゃない。でも反対に、友人や恋人は自分で選んだ相手だから大切にしないといけない。みんな‟家族”という関係に囚われすぎなんですよ」
びっくりした。驚いて、その場で立ち上がったまま数秒制止した記憶がある。その男性は、元々自分の意見をハッキリというキャラだが「親兄弟は大切にしなくていい」と、ここまで断言している人を、私はこの時に初めて見た。
そして、気がついたら泣いていた。泣いて泣いて、長い間胸のなかにつかえていた積もり積もった感情が、この瞬間一気に溶けだした感覚になった。
それまで、母親との関係と同じくらい、「親を大切に思えない自分」にずっと不信感を抱き続けていた。だけどこの時、初めてそんな自分が救われたように思えたのだ。
*
私のように、自らをACだと感じている人は、似たような感情を抱えている人も多いだろう。「親のことを悪く言うなんて!」と言われることが怖くて、嫌で、本音に沿って生きることが難しくなっているかもしれない。
だけど、皆もっと自分の気持ちに正直に生きていいと私は思う。親と分かり合いたいと思うならとことん話し合えばいいし、無理だと思うなら誰に何を言われても離れたらいい。
もちろん、それは決して簡単なことではないだろう。けれど「親だから」という事実を理由に、自分の心を壊してまで「子供」を演じ続けるのは、きっと違う。
完全に離れることは難しくとも、必要最低限の距離をとったり、まずは自分を第一優先にしたり。できることから始めてみるのも、立派な手段ではないだろうか。
そして、「親のことを悪く言うなんて!」と言う側の人には、どうかそのままでいてほしい。私に嫌悪感を持ってもらっても構わない。だって、本来それが「普通」であり、幸せなことなのだから。「親のことを悪く言うなんて酷い」そう思うのは、あなたが親に愛されて育ったという、大切な証拠だ。
だけどほんの少し、ほんの少しでいいから、そういう親子関係ばかりじゃないということを、頭の片隅にでも置いてもらえたらありがたい。
世の中には合わない人間がいる。分かり合えないなぁ、合わないなぁ、苦手だなぁと思う人が、あなたにもいないだろうか。
私たちにとっては、その対象が、たまたま親であっただけなのだ。そしてそれが、どれだけ悲しいことか、自分でもよく分かっている。
実の親子なんだから分かり合えるという言葉は、綺麗事や幻想に過ぎない。だって、もしそれが本当なら、世の中から虐待や親族間での争いなんて無くなっているはずだ。反対に、血の繋がりはなくとも、きちんとした絆で結ばれている親子だってたくさんいる。
親子関係においてだけではなく、何に対しても、自分だけの価値観で物事を判断しないことは大切だと私は思う。だからこそ、私も勉強中だし、こうして文章を綴る過程でものすごく悩んで言葉を選択しているつもりだ。
なにかを、だれかを否定する文章を書くことは、正直辛い。綺麗な言葉ばかりを並べて、上辺だけで生きていくことができればどれだけ楽だろうか。
だからこそ、私の意見に共感をしてくれる人も、これが正解だとかすべてだとは思わないでほしい。私は反感や否定もすべて受け入れるつもりでいるし、むしろそうでありたい。それほどまでに、私は世の中の一般的な親子関係を知りたいと思っている。
ただ、ただただ、世の中には、分かり合えない親子もいるのだと、そのことを多くの人に知ってもらいたい。「産んでもらった」「育ててもらった」、それを理解したうえで、それでも分かり合えない親子もいる。その実情を、どうか頭ごなしに否定しないでほしい。
「親のこと、好きですか?」
この質問には、正直に答えて大丈夫。なによりも、まずはあなた自身の気持ちを一番大切にしてください。
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