001.【Mリーグ】弱いってなんだ?BEAST中田花奈に見る『失わなかった30pt』と『負けない強さ』
※この話は麻雀、Mリーグについてある程度知識のある方にしかわからない話がふんだんに含まれています。ご了承ください。
どうも、風茶でございます。
最初の話は何を語ろうかと思いましたが、過去の対局の話とかも今更感がありますし、一番直近の試合から話をしようと思います。
2024年3月15日のMリーグに、久しぶりに登板した選手がいました。
試合数は全選手で一番少なく、現在(2024年3月17日時点)個人ポイントでは最下位に沈むものの、ラスの数は最少タイの2回という不思議な成績の持ち主。
BEAST Japanext、中田花奈。
今回の主役はこの方です。
乃木坂46というアイドルグループを知る人なら知っているでしょう。僕はアイドルをあまり知らないので、彼女のことは麻雀を知ってから目にしました。
プロには兼業の方や俳優、経営者など、いろんな仕事を掛け持ったり、他の業界で名を馳せた人物なども多くいるのですが、彼女もまた元アイドルであり、雀荘経営も行っている多才な方です。
しかし、麻雀の実力については、Mリーガーになる以前からいろいろ言われるところではありました。
麻雀に限らない話なのですが、アイドルが他のことをし始めると、頭から不信感と批判の声をあげる人がいます。
「アイドルが他の分野のプロになって、その道で人生賭けてやってきた人と同じようにできるわけがない」
と考える人たちが、一定数いるのです。
ちなみに、誤解を恐れずに言うと、この理論は「半分正しい」のです。
そりゃ、何十年とひとつの競技に携わり極めた『職人』ともいえるプロのレジェンドに比べれば、例えば僕みたいに30を超えてから関わった人や、以前別のことをしていてガチで始めたのが何年か前、という人は、技術面でも競技への思い入れなども『職人』に劣る部分は少なからずある、というのは事実でしょう。
ただ、今回その競技は『麻雀』なのです。
当然技術でカバーできる部分はあれど、この麻雀というやつは、それでも勝ち負けが変わってしまうことがあるのです。それが麻雀の残酷で、理不尽で、面白い部分です。
強さはあれど、それを超えてどうしようもなく負ける時も、バカヅキして勝ってしまう時もある。もちろん技術がぶつかり合って息詰まる熱戦が繰り広げられることもあるし、負けてなお強さを見せることもできる、半荘なら1人ずつ2周親番を回す中で、いろんな卓上のドラマを見られる。単純に強いから勝つ、弱いから負ける、という話にとどまらないのが麻雀の魅力なのです。
それを踏まえた上で、先日の中田選手の試合を振り返ってみようと思います。
東1局、起家となった彼女を待っていたのは試練でした。
整いかけた手牌から切られた浮いた伍萬が、セガサミーフェニックス・魚谷侑未選手にあたります。
失点は1000点ながら、この先の厳しい闘いを暗示しているようでした。
すると次ぐ東2局。
仕掛けから先制でテンパイを入れた中田選手。
しかし、そこに魚谷選手が追いつき、さらに……
KADOKAWAサクラナイツ・渋川難波選手にリーチで追いかけられます。
これを掴んでしまい、痛恨の8000点放銃。
さらに東3局も一向聴から切った浮いた九萬で放銃。これで3局連続放銃となり、早くも他家と厳しい差がついてしまいます。
チームはセミファイナル進出を目指しトップが欲しい状況。これにはさすがに中田選手も悲しそうな表情を見せます。
解説の石橋伸洋プロはそんな中田選手を見て、
「ビハインドしてて前に出ざるを得ないという判断だったかもしれない」
と、その心情を慮ります。
さて、ここで15日の結果を知らない人がここまでの情報を見た時、どう感じるでしょう。
このままズルズル落ちていってラス、と思う人も多いのではないでしょうか。
そしてこう言う人もいるでしょう。
「中田にMリーグは早かった」
「中田が弱いのはわかってたじゃないか」
と。
その後、南場に入り、再び親番がまわってきた中田選手ですが、テンパイまでたどり着くものの、渋谷ABEMAS・松本吉弘選手から魚谷選手への横移動で早々と親番を失います。
失点こそなかったものの、正直かなり痛かったはずです。
あと短くて3局。
誰かの親番が長引けば長引くほど上との差は広がる……圧倒的不利に見えました。
そんな中迎えた南2局1本場、彼女はファインプレーを見せます。
先制リーチは魚谷選手。
七対子の8筒単騎、出あがりで満貫、ツモれば跳満からの大物手。
そして中田選手の手には……
8筒がゴリゴリに浮いていました。
しかしこの8筒はドラ。これで打ち込むリスクは当然頭にありますが、このままテンパイまでたどり着くと勝負の可能性も全然あったでしょう。
やってみればわかりますが、リーチにドラを打つのはめちゃくちゃ怖いです。
これでロンと言われたら大きく点棒を失うことは想像に難くないです。実際魚谷選手の手は高かったわけです。
チャンスは少ない。遠くにあるトップが欲しい。
しかし中田選手は、我慢したのです。
意地悪な悪魔は何度も言ってきます。
手が進まないぞ、そのドラを切ってしまえ、と。
しかし中田選手は意地で8筒を止め続けます。
先ほど解説の石橋プロは「前に出ざるを得ない」と言いました。その状況は、終盤に向けてより強まっていたはず。
しかし、これが本来の中田花奈なのです。
何度か中田選手の麻雀をMリーグで見させてもらって、僕個人としては彼女を「守備寄りの人だな」と感じています。無理して前に出てガンガン押していくことはかなり少ないと。
だから、この打ち回しは僕は「彼女らしいな」と思って見ていました。
先の放銃も反省点としてあったのでしょうか。結果、この8筒は最後まで彼女の手からこぼれ出ることはありませんでした。
そうこうしているうちに……
渋川選手から追っかけリーチが入り、場が沸騰します。
その時、中田選手がとった行動は……
チー。
渋川選手の一発を消す。
これは戦略としては当然あることで、相手にあがられたとしても点数を抑えるために必要なことです。
彼女は受けを選択した者の行動をサボらなかったのです。
その結果、このチーがなければ渋川選手がツモっていたはずの次巡の牌を、下家にいる中田選手がツモることになります。
そこにいたのは、渋川選手の当たり牌である伍萬。
一発ツモを喰いとって見せたのです。
正直僕はこの時、すげえ、と声が出ました。
中田選手はサボらなかった結果、リーチ一発ツモドラ赤赤、跳満のあがりを阻止し、魚谷選手だけでなく、渋川選手のあがりも防いだのです。
魚谷選手への満貫以上の放銃、あるいは渋川選手の跳満ツモ……どちらのあがりが成就しても、中田選手はこのままラスまで一直線だったでしょう。
これをテンパイ料だけの支払いでくい止めたのです。
次局、事件が起こります。
南3局2本場。
渋川選手が早いリーチを入れます。
この時の中田選手の手牌はこちら。
とても勝負できるように見えない……
さらに魚谷選手も仕掛けを入れ、テンパイにこぎ着けます。
見ていた誰もが、またこの2人の対決か、とその勝負を見ていたはずです。
しかし……
大外から、彼女はやってきました。
奇しくも魚谷選手の当たり牌である七萬を引き入れ、ドラ赤を携え追っかけリーチを敢行したのです。
それを、麻雀の神はしっかりと見ていたのでしょうか。
なんと中田選手の当たり牌の7索を、リーチで逃げ場のない渋川選手が一発で掴みます。
たった一撃。
しかしそれは先の8000点を取り返す大きなあがりでした。
オーラス、いつの間にかトップ目も見えていた中田選手ですが、最後は魚谷選手に先を越され、この試合を3着で終えました。
結果、魚谷選手は逆転トップとなりました。こちらもボーダー争いに向けて後のないチーム、初年度からMリーガーとして活躍する意地とプライドを見せる形となる、素晴らしいトップでした。
さて、ここで皆様にお聞きしましょう。
「中田花奈という雀士は、弱いのだろうか?」
東場の放銃は、彼女の置かれた状況を鑑みても、防げる可能性はゼロではなかったにしても、かなり低かったのではないでしょうか。
南場に入り、焦らずに危険な牌を止め、最後に着順を上げるのは「当たり前」だったでしょうか。
Mリーグはチーム戦です。
僕は2年ちょっとしかMリーグを見てませんが、終盤戦になると自分のスタイルが崩れたり、いきなり勝てなくなる選手も見ました。
かつてチームで1200ほどのマイナスをくらったことがある雷電が、各者がポイントを取り戻すためにかなり無理をして、さらにポイントを失う悪循環に陥っていたのを素人目に見ても感じていました。
チーム戦である以上、マイナスが出れば誰かが取り返すことが必要になりますし、逆に言えばそれができるとも言えます。
それが個人で争うのではない、チーム戦の醍醐味でもあり、残酷な部分でもあるのです。
チームのために闘い、敗れた者が涙を流す。そんな姿を見るたびに視聴者である我々も心打たれ、次の彼らの飛躍に期待し応援するのです。
そうやって、選手、スタッフ、視聴者……一丸となってひとつのコンテンツ『Mリーグ』を盛り上げているのです。
話が逸れました。
15日の対局、ボーダー争いに踏みとどまる必要のある状況で、BEASTはこの緊迫した場面で、チームの中でも経験の少ない中田選手を敢えて選択しました。
とてつもないプレッシャーだったはずです。しかし、彼女は乗り越える必要があったのです。
Mリーガーであり、雀士として。
この状況を乗り越え、さらに強くなる必要が。
結果、彼女は3着でした。
ラスを回避しての3着でした。
これがラスなら、さらに順位点をマイナスされ、ボーダーからもかなり離されていたでしょう。
しかし、彼女は後に控える猿川真寿プロにマイナスではあるものの傷の小さい状態でバトンを繋いだのです。
その後登板した猿川プロは、プラス77.1ポイントの大きなトップをとり、今年から参入した新チームは、ボーダー争いに踏みとどまることになります。
さすがです。
プロとしての経験も豊富で、ここぞで頼れる冷静なキャプテンは、この勝利で自身のポイントをプラスに乗せ、チームを沈ませるどころかさらに押し上げました。
中田選手がラス回避して守ったポイントは、ざっくりと考えて3着との順位点差の20ポイントと、素点1万点分の10ポイント、合計30ポイントほどでしょうか。
この約30ポイントが、ボーダー争いに影響しない可能性が決してゼロではないでしょう。
だからチームメイトも、きっとこう思ってるはずなのです。
「あの状況からよく30ポイント分失わずに帰ってきてくれた」
彼女は、できる限りの仕事を、あのプレッシャーと、先制を受けた状況の中でやり切ったのです。
それは決して『弱さ』などではなかったでしょう。
中田選手は15日時点で個人ポイントは-261.3ポイント、微差ながら最下位です。
だが、その着順の内訳を見ると、1着1回、2着1回、3着10回、4着2回。数字以上に、「負けていない」ともいえます。
もちろん3着が圧倒的に多いので、あまり強いという印象は受けないでしょうが、僕は彼女が本当に弱いなら、もっとラスを引いていないとおかしいとも思います。
当然、毎度反省点はあるでしょう。
でもそれは、チームメイトである所属団体の先輩方が学ばせてくれるはずです。
そこからの成長は、彼女次第。
今は、このBEAST Japanextというチームの中にあって、戦力として闘うには物足りない結果かも知れません。
今後彼女を待っているのがどういう結果なのかもわかりません。
ただし、雀士・中田花奈は弱くないし、もっと強くなるのは間違いないと思います。
今はまだ発展途上の雀士。
元アイドルなんて色眼鏡をかけなくていいのです。
彼女が成長することが、Mリーグ、果ては麻雀業界にとってプラスになるのであれば、彼女がMリーグに招かれた意味があるというものではないでしょうか。
今期、自身のポイントをプラスにするにはあまりに残り試合が少なすぎるでしょう。
レギュラーシーズンには出てあと1試合といったところでしょうか。仮にセミファイナルに進むことがあれば、あと数試合は増えるかもしれません。
彼女の登板頻度を考えればそれくらいの数に留まると思います。
しかし、何年もこの世界を経験すれば、彼女は確実に成長するでしょう。
いち麻雀ファンとして、そんな将来を楽しみにしてくれる、そんな『アイドル的な力』を、彼女はすでに持っているのです。
今の彼女は『負けない雀士』なのです。
スタイルを確固たるものにし、その後さらに試行錯誤を重ね進化していけばいいのではないでしょうか。
実際、自団体の先輩でもあるKONAMI麻雀格闘倶楽部・高宮まり選手がそのスタイルを模索して、成績を好転させたこともありますし、U-NEXT Pirates・瑞原明奈選手も今でこそゴリラ麻雀なんて呼ばれたりしていますが、そのスタイルを手にして毎年のようにMVP争いをするほど実力を伸ばしています。
Mリーグはやはり、プロ雀士にとっても成長の場なのでしょう。
Mリーガー・中田花奈。
決して『有名なアイドルだから依怙贔屓された』わけではない。
『職人レベルで人生賭けた人には絶対勝てない』わけではない。
これができない、だから弱い、ではなく。
これができる、それが強い、である。
この目線で見れば、きっと麻雀に限らず何でも楽しく見れるし、そっちの方がプレイヤーもやってる甲斐があるってもんでしょう。
僕個人としては、Mリーグはせめて来期までは中田花奈という雀士を見てあげてほしいですね。
奇しくも彼女はアイドルという、応援される仕事をしていたので、成長する姿を見られることには長けているはずなのです。
当然『可愛い』だけでは済まされない。
技術に加え運も必要な、全てが揃って『実力』と言われる、決して甘くなどない世界。
そんな中でもがきながらも、確実に成長できる人間、それが今一番見えるのが中田花奈という人なのではないでしょうか。
何だか今後の彼女の雀士としての道のりがとても楽しみになる、そんな対局を見せてもらった気がします。
さてさて、長くなったので今回はこの辺にしておきましょう。
本当に最初の話は何について語ろうかと思って迷ったのですが、今Mリーグのレギュラーシーズンが終盤戦になっているので、そこで争うチームと、その中にいて誰よりも元アイドルの肩書きとプロ雀士として、Mリーガーとしてもかなり異色の立ち位置にいる中田選手の対局が印象的だったので、今回はこの話にさせていただきました。
そういえば、この記事は3月17日に投稿されているはずなのですが、確か……この日は僕の誕生日……じゃなくて。
中田さん、今日最強戦の対局ありましたよね?
てなわけで、次のネタは最強戦やな(笑)
それでは。
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