009.【Mリーグ】あの日の屈辱を忘れてなどいない。心優しき戦闘民族がレギュラー最終日に見せた『感謝のデイリーダブル』
※この話は麻雀、Mリーグについてある程度知識のある方にしかわからない話がふんだんに含まれています。ご了承ください。
どうも、風茶でございます。
2024年3月28日は、まさしく彼の日だったといっていいでしょう。
U-NEXT Pirates・鈴木優。
かつて最高位にも輝いた戦闘民族は、今期5連勝を決めるなど目覚ましい活躍を見せていました。
ただ試合前の時点では、個人ポイントで競うMVPまで90ポイントほどの差をつけられ、7万点ほどの大トップをとるか、連闘で連勝するくらいでないとMVPに届かない状況でした。
ライバルは同じチームの瑞原明奈選手。
優選手からすれば、対戦することのない相手なので、自力でポイントを伸ばしていかないといけません。
そんな中で迎えた、チームのレギュラーシーズン最終日。
チームは先発に優選手を起用します。
チームに背中を押された優選手は、序盤こそ押され気味だったものの、南場に入り起死回生の跳満で一気にトップ目へ。
これでトップ目に立ち、親番を迎えます。
しかしまだ差は大きくなく、場合によっては差のない状態でのオーラスに突入する可能性もありました。
大事にしたい親番。
混沌に向かうか、突き抜けるか。
捲り合いを制したのは優選手。
ダマテンからとらえた3索。
開かれた手は綺麗な12000点。
ただ攻めるのではなく、勝つ攻め方を。
戦闘民族とも呼ばれ、押すと決めたら力強く押し切るイメージの強い優選手ですが、時に冷静に場を見据え、強烈な一撃を放つ。
ここで優選手の強さが際立った、そんな感じがしました。
この試合はその後、KONAMI麻雀格闘倶楽部・佐々木寿人選手の追い上げがあるも、優選手が逃げ切り、この時点でMVPまで28ポイントまで迫ります。
続く第2試合。
「ここまできたなら獲ってこい」
再び仲間に背中を押された優選手。最後のチャレンジへと向かいます。
チーム最終戦。
天敵でもある愛弟子、セガサミーフェニックス・魚谷侑未選手をはじめ、KONAMI麻雀格闘倶楽部・滝沢和典選手、渋谷ABEMAS・白鳥翔選手と、確かな守備力と手堅さを兼ね備えた面子が、MVPへのラストチャレンジに立ちはだかります。
条件はトップなら確定、2着だとかなり浮きでないと厳しい状況です。
白鳥選手の先制の満貫を受け、東2局。
仕掛けを入れた優選手は、魚谷選手から七萬をとらえます。
2000点ながら、先に飛び出した白鳥選手を追っていきます。
とにかくあがらなければ話にならない。
続く東3局、純チャン三色の大物手が見えた優選手でしたが、テンパイ形はその手が崩れる形となりました。
その判断は、即リーチ。
当然、捨牌3段目に入って時間がないこともあったとは思いますが、とにかく攻めと決めた戦闘民族は、加点への選択を迷うことはありません。
この局は、後にテンパイを果たした滝沢選手が4枚切れの4、7筒待ちでダマテンとし、7筒を掴んだ優選手が3900点の1本場、4200点の放銃となりました。
この局は滝沢選手が冷静に持ち味を発揮した一方で、優選手も手の形や打点に囚われず攻めを貫き、自分の求められた結果への執念を見せるという、素晴らしいぶつかり合いでした。
放銃で親番を迎えることとなった優選手。
東4局。
ついに『優タイム』が幕を開けます。
配牌3メンツ。
早くも絶好のチャンスが訪れます。
滝沢選手が南のポンからチャンタの見える手で追ってきますが…
やはり一番早かったのは優選手。
しかもツモれば跳満以上確定の高目七萬が自身の持つ1枚を除く3枚、全て山にいるという超弩級のリーチとなりました。
これに対して解説の最高位戦プロ麻雀協会・土田浩翔プロは、自身で3枚使ってる待ちでのリーチについて、
「六萬1枚切れてて、自分から3枚見えてるのでいきましたね」
と分析。
ちなみに、この局については優選手も、後のインタビューで2巡目の滝沢選手が切った六萬をヒントにした旨を明かしました。
狙い通り、高目の七萬を引き入れた優選手。
リーチ、ツモ、タンヤオ、平和、一盃口、赤。
あまりにも美しい6000オールで、MVP圏内となるトップ目に立ちます。
そこからはもう止まりません。
2着目の白鳥選手から3900は4200。
対子落としの選択を見事に決めてからの4000オール。
リーチをかけた滝沢選手から3900は4800。
親番で充分すぎるほどの加点に成功しました。
南2局では、さらに満貫をツモり素点をさらに伸ばします。
最後まで、戦闘民族。
チャンスとみれば前進する。
レギュラーシーズンの最後に、鈴木優らしい闘い方を貫いた結果、大トップとして実を結んだ、そんな一戦でした。
オーラス、白鳥選手の2着を決めるあがりを見届け、優選手のMVPチャレンジは大成功をもって終わりを告げました。
昨年、パイレーツはセミファイナルで敗退しました。その時にセミ最終戦を打ったのは優選手でした。
昨年度の最後となったインタビューで、優選手は肩を落とす姿を隠し切れませんでした。
勝つためにと言われたドラフトで1位指名を受けた優選手としては、その結果には悔しさしかなかったことでしょう。
『屈辱』から1年。
パイレーツは887.6ポイントという圧倒的な数字を残してレギュラーシーズンを終えました。
最終戦後のインタビューで優選手が語ったのは、昨年の結果を受けて今年、『圧倒的に勝つ』という目標を体現できたことへの喜び。
そして、MVPの可能性を残した自分を信じて送り出してくれた、愛すべき仲間たちへの心からの感謝でした。
デイリーダブルという最高の結果をチームに持ち帰る優選手の声が、少し震えているように感じたのは、僕の気のせいでしょうか。
レギュラーシーズンはもう1日あり、29日の結果次第でMVPが確定しますが、まずその位置に着いたのは優選手。
チームメイトでもある瑞原選手を追い抜いて、ついに手を掛けた快挙。
やるべきことは全てやり遂げた。
あとは待つのみ。
2024年3月28日。
確かにこの日は、この人が主役でした。
セミファイナル、さらにその先へ。
ステージが進んでも、彼は航海の続く限り、自身が主役となる日を増やし続けるのでしょう。
昨年敗れ去った『あの日』を糧に、さらに強くなったパイレーツ。
まずはセミファイナルでどのような結果を残すのか……本当に楽しみですね。
それでは。