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一騎は祝福されなかった、蒼穹のファフナーTHEBEYOND

シリーズで何度も繰り返されてきた結末の「否定」。

「蒼穹のファフナーTHE BEYOND」は、2019年に劇場公開、OVAとして発売されたアニメ作品。テレビで放映された「EXODUS」の続編であり、一連のシリーズの区切りとなる物語だ。

1巻あたり3話構成で全12話。テレビシリーズのビデオグラム版を想像させるパッケージにした珍しい形態。2019年5月に劇場上映がスタートし、2021年11月に完結した本作。

発売当初、そのうち配信された時に見ればいいやと高をくくっていたのだが、初めて配信を見たのが2021年末。1~9話の時限公開で、確か10~12話のDVD・ブルーレイ発売直前だったと思う。

その後も待てど暮らせどなかなか配信してくれないじらしプレイに耐えきれず、最終巻を昨年夏に購入。さらに1年が経過したこの夏、たまたまネットサーフィンしていたときにテレビ放送とネット配信が行われていると知って、ようやく視聴できた。

ブルーレイを購入しなかった1~9話を含め、改めて全話視聴した感想を語っていきたい。

旧主人公に冷たすぎる結末と思っていた初見

はじめは、一騎に冷たい結末だったと感じていた。

序盤では子総士の恨みを買い、終盤では自らを犠牲に捧げようとする日野美羽を止めるどころか、犠牲になることに反発する子総士と戦い敗れ、最後は竜宮島から離れていってしまう。

子総士の奪還作戦で、妹を偽っていたフェストゥムを殺したことによって恨みを買ってしまった部分はまだ分かる。洗脳され偽の家族をあてがわれていたのだから、すぐに真相を理解することは出来ないだろう。

ただ、終盤は納得できなかった。日野美羽がアルタイルと接触して同化されようとしている場面。土壇場で真相を知った子総士が美羽を止めようとした時、一騎が割って入っていったのだ。

強いる、とまで行かないが犠牲になることを当然のように受け止める姿勢に大きな違和感を感じた。

また、劇中では幾度となく命を捨てようとしている描写が目立った。マークアレスが誕生した時、子総士に敗れた時。EXODUSでは短冊に「生きたい」と書き記して生への執着を露わにしていたのとはあまりにも対象的だ。

EXODUS以降、何が一騎を変節させたのか。親友だった親総士がいなくなったから、それとも不老の力を手に入れたため生への執着が沸かなくなったためなのか。

最終話で燈籠を作るシーン。子総士が一騎に皆城総士の名前が入った燈籠を渡して「お前が流せ」と言っていたが、まるで「お前の居場所はここにはないぞ」と言っているようにも見えた。

さらに友人以上恋人未満だった遠見真矢に一緒に来ないか、と誘って断られるシーンを目の当たりにして、どこまで一騎はコケにされるんやと悔しいやら悲しいやら、やるせない気持ちになってしまった。

その一方で過去作品と比較してみてみると、別の見方ができる。

犠牲の連鎖の「否定」

ファフナーシリーズは、TV版初代から多くの犠牲によって紡がれてきた物語。その犠牲の象徴となっているのが、「コア」と呼ばれる存在だ。

初代では島のコアである皆城乙姫が、その後の劇場版では来栖操が、EXODUSでは二代目のコアである皆城織姫が終盤で死を迎えている。

THE BEYONDでは、コアではないが日野美羽が純粋ミールであるアルタイルに同化されて消えていくことがゴールだったと判明する。子総士は、誰かが犠牲になることで世界を救おうとするやり方に真っ向から反発していたのだ。

子総士が搭乗していたマークニヒトの「ニヒト」は、ドイツ語で「否定」を現わす。THE BEYONDでは、繰り返されてきた犠牲の結末を否定して見せた。初代と劇場版ではラスボスだった機体が、主役機へ鮮やかな転身。かっこ良すぎるだろ。

THE BEYONDでは、島のコアは生きたまま終幕を迎え、日野美羽は生きたまま戦いを止めて見せた。過去作から続いていた犠牲による平和を否定したのが本作のテーマだったと言える。

とはいえ、一騎だけでなく竜宮島の人たちが当たり前のように犠牲を受け入れる、と言う描写は突然すぎる印象が拭えなかった。

穏やかなその後を見たかった

ファフナーシリーズでしばしば描写されてきた竜宮島の日常が好きだ。

学校があり漁にでたり、祭りがあったりと、フェストゥムとの戦闘のない平和な場面。戦闘シーンで多くの犠牲がでたり、命を削られていく胃の痛くなる場面が多いからか、平和なシーンは見ていてホッとする。

出来れば、一騎が島を出ることもなく、穏やかな日常を送る終わり方をして欲しかった。戦いに明け暮れ、人間の肉体を捨ててまで島を、人々を守ってきた英雄が、パイロットスーツに身を包みファフナーに乗って竜宮島を去るという終わり方をして欲しくはなかった。

EXODUS9話で、
親総士「平和な夢は見られたか、一騎」
一騎「よく寝た。いい夢だった、多分」
というやり取りを思い出すと、余計にせつない。

最終話で、前作EXODUSで沈んだ竜宮島が蘇り島民たちが帰還する。ファフナーシリーズの象徴の一つであった島が帰ってきたのだから、本当はハッピーエンドだったはずなのだが、旧主人公の終わり方が心に引っかかった作品だった。




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