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「食用コオロギの会社が破産?」はなぜ起きるのか。コオロギ養殖についての整理。
最近コオロギ大帝が再ブームですね。
サバクトビコオロギも出てきて、もうカオスです。
さて、先日こんなニュースが昆虫食事業者業界(及び陰謀論界隈)で話題になりました。
食用コオロギ手がけるクリケットファーム、破産手続き開始決定 負債額は関連2社と合計で2億4290万円
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024013101087
このクリケットファームという会社は3200万円をクラファンサイトファンディーノで資金調達をした会社で、ちょっとした話題になっていました。
さて今日はそんなニュースが賑わう中、食用にコオロギ養殖事業の会社がなぜ撤退するかを自分なりに整理していこうと思います。
そもそもコオロギ養殖とは?
食用コオロギの養殖自体の研究は1990年代半ばからタイの東北部で行われてきました。炎上騒動の時に、「今なぜ急にコオロギ養殖なんだ!」という声もありましたが、実際は20年以上研究がされている分野なのです。
タイなど東南アジア地域を含む世界各地では、野生のコオロギを食する文化が見られますが、安定生産、野生個体の保全、効率性の観点から養殖されるようになりました。
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日本では、養殖実績としては1990年代にはペット用の餌としてコオロギが養殖され販売されています。トカゲやヤモリなどの爬虫類、カエルなどの両生類などいわゆるエキゾチックアニマルの餌として販売されてきた実績があります。
そんな、コオロギですが、なぜ注目を浴びたかというと2013年のFAOの報告書(引用しがち・引用されがち)。
国連の報告書で昆虫の食用・飼料利用可能性についてかなり網羅的に言及されています。
エサや水も少なくて済むコオロギは将来的なコストのことを考えると非常に期待できる食材、たんぱく源になり得る可能性があります。
その後、タイの中規模コオロギ養殖に関するLCA(ライフサイクルアセスメント)の研究においても鶏などのブライラーと比べても環境への影響が小さいことが明らかになっています。今後さらに生産が大規模化すれば環境負荷は小さくなることが期待されています。
コオロギ養殖においては25度〜30度を維持すれば養殖できますが、日本では、タイに比べ気温が低いことでエネルギー問題が話題にも上ります。工場排熱などを利用して加温及び保温していくことで、これらの問題は解決できるはずです。
なぜ虫の中でもコオロギなの?
これは今回簡単に記載しますが、食用に使いやすい昆虫の特徴でコオロギが現段階では優れている点が多いからです。
・食味や風味
・加工性(加工しやすいかどうか、可食部位の割合が高いか)
・養殖方法が確立されているか(野生採取はさまざまリスク有り)
・安定的に生産できるか
・省スペースで養殖できるか
・エサが特殊ではないか(雑食のほうが育てやすい)
…などなど、あげればキリがないですが、こんな観点です。
「カミキリムシの方がうまいのになぜコオロギなんて」
「闇のコオロギではなく光のイナゴをくぁwせdrftgyふじこぉl」
「蝉の方がうまいのになぜコオロ(以下略」
的な人がいますが、
「養殖できない(orしにくいor採算あわないから現時点では無理)。養殖して食いたいなら養殖方法をぜひ研究してどうぞ」
ということになります。
あとコオロギやってる当社に「日本人ならイナゴをやれよ」みたいなことを言ってくる人もいますが、「日本のイタリアンのお店に乗り込んで、日本人がイタリアンやってないで、和食の店やれよ!」というのと同じなんで、そんなアホなこと言わないでください。
本題:なぜ食用コオロギの会社が?
我々2019年からコオロギ原料の販売をやっており、供給をどうするか(どう販売していくか)というアプローチしてきましたが、ここ3年くらいは生産事業者が急に増えた印象です。
コオロギ養殖は参入障壁が低く(他の畜産などの参入に比べて圧倒的に安い)、ある程度は養殖も可能(効率性を考えなければ)なので、参入できてしまうところはあるのかなと思います。
ゼロから事業をやる場合に、「養鶏をやろう!」よりは「コオロギ作ろう!」の方がハードルが低いはずです。
そんな形で、市場の拡大や代替たんぱくの需要の高まりを受け、参入した会社は多かった印象です。これはある種、生産過多な状況にあったと。
で、この会社はおそらく設備投資(施設や製造設備)に投資しすぎたのだと思います。大きい企業であれば、新規事業にある程度予算を出せるので、設備投資をしてもカバーできる(ところも多い)のですが、今回に関してはそれが難しかったのだろうと。販路開拓、つまりできたコオロギを安定的に売っていけるアウトプットが追いつかなかった(売るよりも先に資金ショートが起きた)というのが自分の見解です。
*あくまで個人の見解なので、本当は違うのかもしれませんが。
「ただ生産すれば売れるというモデルではない新規原料」のコオロギ。一方、原料メーカー的なカルチャーとしては、「量産できている体制つくって、まずは話はそれから」ような不文律があるために、アウトプットよりも生産を優先し、今回のようなことが起きたのかなと。
上述した通り、コオロギを生産するのにはそこまで多くの設備投資は不要ですが、大規模にやろうとすると面積も必要ですし、加工設備(これがかなり高い)を揃える必要があります。(資金調達する上で製造を内製が必須だったんだと思います)
食用→エサ用のシフトは可能なのか
そしたら既存市場(エサ)に売り込めばいいじゃん。と思うかもしれませんが、そううまくはいきません。
日本では、養殖実績としては1990年代にはペット用の餌としてコオロギが養殖され販売されています。トカゲやヤモリなどの爬虫類、カエルなどの両生類などいわゆるエキゾチックアニマルの餌として販売されてきた実績があります。
と書きましたが、すでにエサ用の生産業者も多くいる中で、食用から新規参入はかなりハードルがあります。競合も多い中で、新規の会社が市場を獲得していくことは難しいです。
エキゾチックアニマルのエサの市場はベンチャーが資金調達をして行う事業のように、急成長が見込めるような市場ではないので、ベンチャー的観点からは美味しくない市場です。むしろ中小企業的なモデルで借り入れをしながら、というようなビジネスモデルのほうがあっていると思います。(それでもそんな簡単な市場ではないです)
まとめ
ということで、「え?コオロギの養殖ってあまり旨みないじゃん」と思われたかたいると思いますが、現時点ではたしかに旨み少ないかもしれません。
最近コオロギの有効性は、アカデミアでも研究が進んできていて、経口摂取するだけで、とある病気の予防や回復に役に立ちそうという研究結果が出てきています。(これを書くとまた長くなるので今度まとめます)
そういった有効成分がしっかりとエビデンスがある形で明らかになっていけば、単なる「食材」「代替たんぱく」「珍味」みたいなポジションから、新たな市場のニーズも出てくるはずです。
近い将来、「めっちゃいい有効成分があるのに、食用コオロギの生産できるところないじゃん」って言われないように、私たちは日々コオロギの研究と生産、販売を続けているのです。選択肢や可能性を広げるための私たちの事業を応援よろしくお願いします。
※今回急いで書いたので誤字脱字ご容赦ください。
あと質問があれば答えられる範囲でお答えします。
Q.人間食用とエサ用ってどう違うんですか? (Xより)
A.食用とエサ用は明確に区別があるわけではないです。食用の品質を担保したものが食用です。
日本だとコオロギ生産ガイドラインというのがあって、基本的に私たちはそれに則って生産しています。
https://www.knsk-osaka.jp/ibpf/guideline/cricket_guideline.html
自社では食用のコオロギにはエサを変えて風味を向上させたり、定期的に残留農薬や生菌の検査を行って食用にしても大丈夫な品質を担保するということを行ってます。