歯はだいじ
僕が初めて歯科に行ったのはたぶん3歳のころ。
子供の頃、虫歯って歯に巣くった恐ろしい魔物のように感じていた。読んだ絵本に影響されたのかもしれない。初めて虫歯っぽくなった時、歯科に行くのが怖くて仕方なかった。何をされるかわからなかったし。
実際、初めて歯科医院に入ったとき、泣きそうだった。キュイーンと大きい音を立てるドリルのようなものやちょっとつんとした消毒薬のようなにおいが怖くて。でも、実際に診てもらうと、優しい先生の笑顔に少し安心した。虫歯になりかけていた歯の治療に、その後何度か通った。正直なところ、治療後に回せるガチャガチャに釣られて通っていただけなんだけど。
治療が終わった日、先生からこれからは虫歯ができる前に予防したほうがいいと、小さな僕にまるで大人に説明するように熱心に説明してくれたから、数か月に1回定期検診に通うようになった。
メインテナンスはうまくいき、成長に伴ってだんだんと乳歯が抜けていくとき、僕は少し大人になった気がしていた。ある時、下からちょっと大きい新しい歯が生えてくるのが分かって、先生は「これからのために、乳歯を少し削ってスペースを作ろう」と言ってくれた。先生を信頼していたので、言われるままにお願いしたのだけれど、結果的に矯正する必要のないきれいな歯並びが得られたのは僕の一生の財産になったと思う。
中学生になって進学校に通うようになると忙しい日々が待っていた。勉強に追われ、部活に明け暮れ、気がつけば2年ほど歯科にいかずにいた。せっかくこれまで定期健診を続けていたのに。そんなある日、口内炎が治らず、久しぶりに歯科に行くことにした。あの時期は全身の体調も最悪で、体を引きずるように学校に通っていた。まるで、重い荷物を背負っているかのようだったのだ。
診察の結果、口内炎ではなくフィステルというもので、歯の根元に膿がたまっていることが判明した。幸か不幸か痛みが全くなかったので気づかなかったのだ。定期健診に行けばわかっていたはずなのに。
処置は全く楽ではなかったけれど、先生は丁寧に治療してくれた。
結局、治療の甲斐なく、歯の根を切除する手術をすることになってしまった。大病院で口の中を切開して膿をとる。手術前には同意書が渡され、そこには顔にしびれが残る可能性や将来的に起こる不安なことなどつらつらと書かれていた。サインをしないと手術はできないので同意するしかないわけだけれど、リスクは結構ある。
定期検診を受けていればこんな手術は必要なかったのかもと思うと、自分の不甲斐なさに涙が出た。
日帰り手術だったけれど、翌日から顔は大きく腫れ、ひと月ほど痛みも続いた。その一方で、本当に不思議なことに、その膿がなくなったら後、あれほどひどかった倦怠感が消え去り、自然と体調が良くなった。なんでだろう?
はっきりとした因果関係は分からないけれど、中学の頃、もっときちんと定期的に通っていたら、僕の歯は手術も必要なかったかもしれないし、あの鉛のように重い体を引きずって学校に行くような事態にはならなかったのかもしれない。
歯科の定期検診は本当に大事だと、今になって痛感している。もちろん家でも歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどできる限りのものをそろえてメインテナンスを続けているけれど、多分一番大事なのは定期的に歯科に通うこと。
すべての体調不良が歯起因とはいわないけれど、もし原因がわからない体調不良が続いていたら一度歯科に行ってみてもいいかもしれない。
何よりきれいな歯は気持ちがいいものだしね。
#いい歯のために