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人の意識はどこにある?死、意識、身体の関係

はじめに

私たちの意識は、果たして脳だけに宿るものなのか?それとも、身体全体に広がっているのか?この問いは、長年にわたり科学者や哲学者が向き合ってきた深遠なテーマでもあります。この記事では、チベット仏教の瞑想法「トゥクダム」や、身体と意識の関係に関する新しい研究結果を見て感じたことを考察します。

トゥクダム:死後も腐敗しない身体の謎

チベット仏教の究極の瞑想法として知られる「トゥクダム」は、科学的に説明できない現象として注目を集めています。トゥクダムの状態にある僧侶は、臨床的には死亡しているにもかかわらず、その身体が何日も、時には何週間もコンビニ弁当みたいに防腐剤を使っていないのに腐敗しないのです。やばいですね!

2021年に発表された研究では、トゥクダムの状態にある僧侶の脳波を測定し、通常の死後とは異なるパターンを観察[1]。この研究は、意識が脳死後も何らかの形で存続する可能性を示唆してるなと感じました。

身体全体に広がる意識の可能性

「身体は考える」という書籍では、武道を極めた著者が、体の隅々まで意識を向けることができると主張しています。小指の関節一つ一つに至るまで、細かな部位に意識を向けることができるようになると、それぞれの部位に独自の「意思」があるように感じられるらしい。小指の第一関節を駆使して鼻の先端を掻く私の小指にも意思があるのかもしれない。

この捉え方は、近年の神経科学研究とも似ている。例えば、「腸脳」(エンテリックネットワーク)の発見は、消化器系が独自の神経系を持ち、ある種の「思考」を行っている可能性を示している[2]。

進化の観点から見た意識

生物の進化の過程を考えると、脳は比較的新しい器官です。原始的な生物は、中枢神経系がなくても環境に反応し、生存するための「意思決定」を行っていました。この観点から見ると、意識や思考のプロセスが脳以外の身体部位にも存在する可能性は十分に考えられます。

AIと意識の問題

ここで一つの問いが浮かびました。もし意識が身体全体に宿るものだとしたら、脳をデジタル化してAIに再現することに、どのような意味があるのか?

現在、脳のデジタル化や意識のアップロードを目指す研究が進められています。例えば、ヒューマン・コネクトーム・プロジェクトは、人間の脳の完全な配線図を作成しようとしています[3]。しかし、もし意識が脳だけでなく身体全体に広がっているのだとしたら、こうした試みは不完全なものに終わる可能性があります。

主観的な死と客観的な生

この考察は、さらに深い哲学的問題へと私たちを導きます。仮に、ある人の脳の完全なコピーを作成し、それを別の身体やデジタル環境に移植したとしましょう。そのコピーは元の人物と同じ記憶や性格を持つかもしれません。しかし、それは本当に「同じ人」と言えるのでしょうか?

オリジナルの身体を失った時点で、その人の主観的な意識は失われてしまうのかもしれません。外部から見れば「生きている」ように見えても、内側から見れば「死んでいる」可能性があるのです。これは、生と死、そして意識の本質に関する深遠な問いを投げかける。どこかのSFで観たような話になってきました。

4つの視点

以下の4つの視点でまとめてみた。

  1. 客観的な生:外部から見て生命活動が確認できる状態

  2. 主観的な生:内側から意識が連続していると感じられる状態

  3. 客観的な死:外部から見て生命活動が停止した状態

  4. 主観的な死:内側の意識の連続性が失われた状態
    (哲学的ゾンビともいうらしい)

意識と生死の関係性

これらの視点は、生命倫理や人工知能の開発、さらには死生観に至るまで、幅広い分野に影響を与える可能性があります。

私たちは、意識と身体の関係性について、まだ多くのことを理解していません。しかし、長年紡がれていたチベットの僧侶や武道家の叡智が、最新の神経科学研究と交差しはじめています。この古くて新しい問いに新たな視点を提供してくれています。

身体を持って生まれる意味

もし、意識というものが脳や身体の関係性から生まれるのではなく、独立して存在しているとしたら?我々は脳や肉体というデバイスを通じて得た情報(人生の中で感じた様々な体験)を、意識(集合無意識など)という膨大なネットワークに提供し学習させているのしれません。LLMの様に。

このまま、AIを発展させていくと主観的な意識が芽生える or 与えられるのか?はたまた、意識は生物に与えられた特別な何かなのか?そんな問いが湧きました。

参考文献

[1] Lantian, D., et al. (2021). "Electroencephalographic assessment of brain activity in advanced Buddhist meditation practitioners." Current Biology, 31(23), R1528-R1529.

[2] Furness, J. B. (2012). "The enteric nervous system and neurogastroenterology." Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 9(5), 286-294.

[3] Van Essen, D. C., et al. (2013). "The WU-Minn human connectome project: an overview." Neuroimage, 80, 62-79.

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