〈 きつねの葉っぱのお金③〜きつねのお金の作り方〜 〉
僕たちは再びきつね村に遊びに行った。
ふうあさんにきつねがお金を作る様子を見せてもらった。和紙を作るやり方で葉っぱの繊維をお湯で溶かしてお札(さつ)の形にして固める作業を見学した。そして別の部屋ではきつねのお札のデザインが次々に印刷されていた。
ふうあさんは説明した。
「ほら、きつねはこうやってお金を作ってるのよ。」
「国がお金を作るって言ってたのは葉っぱのお金だったの?」
「そうよ。他に何があるの?」
僕たちは驚いた。
「見て。これはきつねが国を持ってるという証よ。」
ふうあさんが見せてくれた賞状みたいな紙を読んでみた。
「地球の動物国家1080ヶ国の名に置いて貴国を独立国家と認めます。きつねの王様、沖常(おきつね)様へ。」
「へぇ、動物世界に国があるんだ。」
アンジュちゃんは面白がった。
「しかも王国もOKなんだね。」
僕は笑った。
「日本のきつね王国では佐賀が首都なのよ。きつねのお金で税金や年金も佐賀から払ってるのよ。」
ふうあさんは自信満々に言った。
ふうあさんはきつねのお金について説明してくれた。
「きつねはお金を只で作れるのよ。そして人間のものを買うときにも使える。だけど人間はきつねのお金は只では作れない。きつねに何かを売らないともらえないの。きつねのお金は人間同士で売買する時にも使える。」
それを聞いてアンジュちゃんは感心した。
「それはすごいね。お金をいっぱい作れば人間のものいくらでも買えるのね。」
僕はちょっと疑問を持った。
「でも人間はきつねから買うときには何を買うの?」
「じゃあそれをこれから見せてあげる。」
ふうあさんはきつね村のレストランに連れていってくれた。きつねの料理人がカウンターで料理をしていて、お客さんの席には昨日農作業していたかるさお父さんが飲み物を飲んでいた。
「マスター、この3人に一番美味しいものご馳走(ちそう)して。」
「あいよ。今日は人間たちにおもてなしかい?」
マスターは少し笑って作り始めた。
僕たち3人の前に飲み物とプリンが出て来た。僕が飲み物を飲んでみると甘~い味がした。
「すごく甘くて美味しい。」
「隆弘くんは甘いものが好きって聞いたから甘~い飲み物を用意したよ。」
アンジュちゃんとまほろちゃんも食べ始めた。
「ホントだ。美味しい。」
「じゃあきつねは人間たちにこんな美味しい料理をご馳走して人間のお金を稼いでるんだね。」
僕は納得した。
「でも只の料理じゃないよ。きつねは人間に幻を売るのよ。」
ふうあさんは不敵な笑みを浮かべた。
「幻?」
「そう。例えばアンジュちゃんとまほろちゃんが飲んでるそのお酒。」
「うん。美味しいお酒。」
「私、お酒初めて呑んだ。」
「えっ!? 2人とも未成年でしょ。お酒吞んだら駄目だよ。」
僕が慌てて飲むのをやめさせようとすると。
「実はお酒だと思い込ませてるだけなの。」
ふうあさんがパチンと指を鳴らすとアンジュちゃんとまほろちゃんは、
「あれっ、急にお酒の味がしなくなった。」
「お茶の味がする。」
と驚いた。
「お酒の味がしたのは幻覚だったの。実はそれは嬉野茶(うれしのちゃ)でした。(笑)」
佐賀の嬉野という町の特産のお茶だった。
「え~っ!?」
「それから隆弘くんが食べてるそれは何だと思う?」
「プリンだけど。」
「実はそれは豆腐なの。」
豆腐って言われた途端に豆腐の味がした。
「あれっ、確かに豆腐だ。何で今までプリンの味がしてたんだろう?」
「これがきつねのもどき料理よ。」
「きつねは他にもいろんな幻を見せるのよ。これがそのメニュー。」
僕たちはお品書きを見るとこう書いてあった。
〇エコにいいことした気分 3円
○お金持ち気分 1分100円~(1分ごとに+100円)
〇甘~いお菓子を食べた気分 500円
〇ほろ酔い気分 2000円
〇感動体験2時間 5000円
〇恋人気分1日 10000円
「エコにいいことした気分ってたったの3円なんだ。」
僕は笑った。
「幻だと分かってても見たいっていう人が後を絶たないの。」
まほろちゃんは訊いた。
「きつねも人間と恋をするの?」
「するきつねもいるわよ。どん兵衛のどんぎつねみたいに人間と恋して一緒に暮らすきつねもいるよ。」
「へぇ、素敵。」
まほろちゃんは感動した。
「けど浮気したら怖いよ。(笑)」
只、ちょっと思ったことを言った。
「でもきつねってちょっとズル賢いよね。自分はお金をいくらでも只で作って、人間には何かと交換でしか与えないなんて。」
「確かにそうかもね。」
まほろちゃんも共感した。みんなは笑い出した。
するとさっきから黙って聴いていた農夫のかるさお父さんが口を開いた。
「きつねがズル賢いだって? きつねは賢いって言われるのは分かるけど、ズルいなんて言われる筋合いないと思うよ。
人間だって同じこと出来るのにしないだけでしょ?きつね同士はみんな只で何でも分かち合ってるんだよ。人間同士はきつねみたいにみんな家族というような繋がりがないから出来ないんでしょ?」
そう言われて僕は納得した。
「言われてみればおっしゃる通り。」
「確かにそうね。」
まほろちゃんも納得した。
「きつねがきつね同士は只で分け合うのに、人間には只で分け合わないのは何でなの?」
アンジュちゃんの質問にお父さんは答えた。
「いくら分かち合いの精神があっても、きつねと人間では価値観が違うし、人間社会ではお金で物を売買するのが当たり前だから、きつねはきつねとその仲間にしか只で与えないって決めたんだよ。」
「じゃあ人間もきつねの仲間に入れば、分け与えられるの?」
「そうだよ。」
「どうすればきつねの仲間に入れるの?」
「稲荷神社でお祈りすればいいんだよ。稲荷神社ってそのためにあるんだから。願ってない人に勝手に与えるのは自由意志の原則に反する。欲しがってない人に与えても与えたことにはならないんだよ。」
するとふうあさんも、
「アンジュちゃんたちももうアタシたちの仲間だよ。」
と言ってくれた。
「わ~い。嬉しい。仲間だ。」
アンジュちゃんは喜んだ。
お父さんは稲荷神社の説明を続けた。
「稲荷神社は人間の願いを叶えるためにある。けどホントは人間は自分で願いを叶えられるんだよ。」
「じゃあ何で稲荷神社に行く必要があるの。」
「人間は自分では願いを叶えられないと思ってるから神頼みしに来る。
君たちは虎(とら)の威(い)を借(か)る狐(きつね)という話を知ってるかい?」
虎の威を借る狐とは昔話で、
「あるきつねがとらに出合って食べられそうになったけど、きつねは、自分は森のみんなに畏れられる偉いきつねだと言って逃れようとした。その証拠として森のみんながきつねを見て逃げていくのを見せた。とらは森の動物たちが自分を見て逃げたと気づかず、きつねが偉いんだと思い込んだからきつねを逃がした。」
という話だった。
「それとおんなじで、稲荷神社では、人間が自分で自分の願いを叶えてるだけなのに、きつねに叶えてもらってると思い込んでお賽銭をあげたりしてるんだ。」
「そうだったんだ。知らなかった。」
まほろちゃんは感心した。
「ただどうしても人間だけの力では叶えられない願いもある。」
「それは何?」
「それがきつねとなかよくしたいってことだよ。」
「そうか。そりゃあそうだよね。」
アンジュちゃんは納得した。まほろちゃんも、
「やっぱり神さまに対しては崇拝じゃなくてなかよくするのがいいよね。」
といって笑顔になった。
お父さんはまた続けた。
「実は人間も知らず知らずのうちにきつねの恩恵を受けてるんだよ。
例えば小城羊羹(おぎようかん)。」
佐賀の小城(おぎ)という町の名物の和菓子だった。
「羊羹は元々中国の羊の肉料理だった。けど日本では肉を食べちゃいけないっていうルールがあったから、代わりに似た食べ物を作ったんだよ。それが和菓子の羊羹。」
「羊羹ももどき料理だったんだ。」
「それから有田焼。」
佐賀の焼き物、磁器だった。
「有田焼はお稲荷さんじゃなくて、江戸時代に韓国から学んだ文化じゃない?」
まほろちゃんが言った。
「実は佐賀の人が韓国から文化を学ぶこと自体が古代から続く伝統なんだ。」
「古代から?」
「高級品として価値の高い有田焼は、価値の下がりにくいという点でお金と同等の価値を持つ。だから転売や蓄財の目的で中国人のお金持ちに買われてるよね。」
「確かにそうね。」
まほろちゃんは納得した。
「中国人には元(げん)よりも有田焼ですか?(笑)」
僕は少し笑いながら言った。
「古代には物品貨幣(ぶっぴんかへい)と言って商品の中で価値の高い宝物がお金の代わりだったんだよ。
それから佐賀の大隈重信もお金を作ったよね。」
僕は思い出した。明治時代に活躍した佐賀県出身の偉人だった。
「確か明治時代に日本のお金として最初に円を作ったのが大隈重信でしたね。」
するとふうあさんが、
「ほ~らやっぱり佐賀の人もお金作ってるじゃない!」
と笑った。
アンジュちゃんはちょっと驚いて言った。
「じゃあそれもこれもみんなきつねの恩恵なの?」
「そうよ。」
お父さんは言った。
「徳島県の上勝(かみかつ)という町では彩(いろどり)豊かな葉っぱを採って高級旅館に売ってるよ。料理に葉っぱを乗せることで高級に見せかけてるんだ。」
「そんなビジネス可能なの?」
僕も驚いた。
「うん。そこにはたぬきが働いてるから。四国にはたぬきが多いしねぇ。」
「四国ではたぬきが葉っぱをお金に替えてるの?」
アンジュちゃんはまた驚いた。
「そう。だからきつねも負けてられない。
きつねの教えを守って生きてる人はみんなきつねの仲間。例え本人がきつねに影響されてると自覚しなくても。食料生産する人、エコを守る人、仲良く楽しく助け合ってる人は、みんなきつねの仲間だよ。」
つづく