〈エリン、博多に萌える 後編〉
エリンたちは、リンくんたち劇団員が共同所有するゲスト用の宿に泊めてもらった。
夜景が綺麗だった。
「今夜は徹夜でバーチャルリアリティの未来について語り明かそう。・・・といいたい所だが、君たち子供だし明日に備えて早めに眠ろう。」
翌朝リンくんの劇団仲間で踊り子のキティちゃんのお手製オムライスを食べた後、早速博多の街に出た。
「まずは衣装部屋で衣装を揃えよう。」
といってリンくんが連れて行ったのはコスプレショップだった。エリンはアイドルのコスチューム。カイは犬の耳とシッポ。アンジュは女子中学生風ファッションを買った。
「福岡は『服を買』う町『服岡』といったりする位ファッションがさかんナノヨ。」
その後オタクが作った作品を売る店で買い物した。リンくんはそれを新人発掘と呼んでいた。
「リンくん、劇をうまく演じるコツって何?」
「うまく演じようとするのが間違いだな。本当の劇では演じないのだ。」
「演じない!? 演じるのを劇ってゆーんじゃナイノ?」
「演じない劇もあるぞ。例えば民謡。漁師が本当に漁をしながら歌ったり、セレナーデといって歌で愛の告白やプロポーズしたりする。即興で会話するのも民謡から来た文化なのだ。」
「演技じゃなくてホントになるノ?」
「かのシェイクスピアがいみじくも語った通り、人生は劇なのだ!」
「よし、次は姫に挨拶だ!」
リンくんはメイドカフェに連れて行った。
すごく上品そうなロリータ服を着てティアラをした女の子が迎えてくれた。リンくんは跪(ひざまず)いて敬礼した。
「姫、この者たちは未来メルヘンシティから来た旅人にございます。」
「ようこそおいで下さいました。心より歓迎いたしますよ。私(わたくし)花と緑の国の王女ミルカと申します。」
「摩天楼の歌姫、エリンと申します。お見知り置きを。」
「ご主人様のこと守ってあげるんだワン!」
「先輩のこと、好いとーと。」
3人ともいつもと違う自分になりきった。
そこへメイドさんが現れた。
「苺のタルトにコーヒー、お待たせしましたですぅ。」
みんなはそこでしばらく楽しい時間を過ごした。
中洲川端(なかすかわばた)通りを通った。人でごった返していた。
「わぁ! なんかゴチャゴチャ。アジアの市場みたい。」
「そう。アジアの影響は強いぞ。福岡はアジアに近い地の利を利用して昔からアジアの国々と交流してきたのだ。アジアの国々は福岡-東京間よりはるかに太い、福岡との交流のパイプを持ち、福岡に萌える国『萌福国』と呼ばれているのだ。それが世界と繋がる拠点にもなっているぞ。
もちろん物流や交通には船も使われているが、乗ってみたいか?」
「乗りたい!」3人口を揃えた。
屋形船に乗って中洲を一周した。
夕暮れ、那珂川(なかがわ)通りのラーメン屋台に入った。
「いらっしゃい。おぅ、さっそく食べに来たね?」
「あぁ、昨日のラーメンやさん!」
みんなは座った。隣では白人がラーメンを食べていた。すごいカッコいい人でカイは興味を持った。
「出身はどこですか? アメリカ? ヨーロッパ? ロシア?」
「なんば言いよんね? 博多っ子たい!」その人は丼をガバッと抱え、スープを飲み干した。「かーっ! やっぱ、とんこつがうまかっちゃん。」
3人は笑った。
その隣では黒人が食べていた。その人は日本語が出来ないみたいだったが・・・、
「♪地球を蹴って走るぅ〜 お前の背中に乗ってぇ〜♪」
エリンが今流行っているアニメソングを歌うと黒人は笑い出した。
「地球の広さは無限大だゼ!」
黒人はアニメの決めゼリフを叫んだ。
「言葉が通じなくても歌や笑いは通じるのね。」
アンジュはそういうのってなんかいいなぁと思った。
おわり
※萌福国は僕が作った言葉です。