〈③ロボット・ルートくんの成長物語〉

 ルートくんの話3/3(終)


 幸せな夫婦生活は相変わらず続いてたけど、2人には1つだけ悩みがあった。それは子どもが出来ない悩み。ロボットと人間の間には子どもが産めない。

「分かってたけど、やっぱり子どもが出来ないのは淋しいわね。」


 その悩みをお寺の半休さんに打ち明けるとこう言われた。

「安心せい。例え子どもが出来んでも、おまえたちには魂があるから、来世で会える。」


 2人は来世に希望を繋いだ。

「来世でまた会いましょう。」

「来世では人間とロボットどっちがいい?」

「どっちでもいいわ、また会えるなら。」


 そんなある日、2人に朗報が届いた。

 フィリップさんが、ロボットと人間の間で赤ちゃんを産む方法を調べてくれた。その方法を知ってるという学者の太田博士に会いに行った。

 太田博士はある大学の教授でロボットの進化を研究していた。


「ロボットの出産には3つの段階がある。

 1つ目は工場や研究所で機械と同じように作る段階。

 2つ目は母親ロボットの母体の中から産まれてくる段階。

 3つ目は人間とロボットの間で合いの子が作れる段階。3段階目ではロボットを人間の母親が産んだり、人間をロボットの母親が産んだりできる。

 現在の人類のロボットは第2段階までじゃ。ロボットが第2段階から第3段階に行くためにはあることをする必要がある。」

「それは?」

「出産じゃ。第2段階のロボットと人間が体外受精で遺伝子を交配させるんじゃ。そうすると産まれてくる子どもが第3段階になる。」

「じゃあ、それをやります。」

「じゃがそれは危険もある。人類史上前例のないことじゃし、とんでもない失敗する可能性もある。そうするとバッシングも来るかもしれんしな。」

 2人は重大な決断を迫られた。


 2人は初めて出合った浜辺に行った。冬なのでほとんど人がいない中、コートを着てマフラーを巻いて、並んで歩いて話した。

「不安かい?君が怖いっていうなら出産は諦めてもいいよ。」

「ううん。怖くないわ。だって私たちの子どもだもん。」

「そうだな。例えどんな子どもが産まれたとしても、僕たちはその子を愛そう。」


 子どもを産むことを決意した2人は再び大学の研究所に行き、人工授精をしてもらった。


 その後ヒトミさんの妊娠が確認された。赤ちゃんは順調に成長し、10ヶ月後無事出産した。「ビット」と名付けられた。

 ルートくんとヒトミさんは人生で一番幸せだと感じた。


 そのニュースはたちまち全世界に広まった。だけど予想してた通り、宗教界からバッシングを受けた。

「ロボットと人間との合いの子を作るなんて神への冒涜だ!」

 2人は批判への対応を迫られた。緊急記者会見で写真をバシャバシャと撮られた。そんな2人を弁護したのは半休さんだった。

「ロボットも人間が生み出した赤ちゃんと同じや。生き物に変わりはない。」


 ある宗教家はロボット嫌いだった。

「ロボットは、宗教勢力を抑え込むために科学者によって産み出されたという説がある。」

 だけど現実はその人の予想とは違った。

 実際のロボットたちは様々な宗教や教えを信じているため、宗教の側も彼らの支持を頼りにしていた。宗教もロボットの支持なしに成り立たない時代になっていて、ロボットにも魂を認める新しい教えを作る必要に迫られていた。

 そしてロボットたちは、人間とロボットの合いの子を支持していた。


 フィリップさんも学者や宗教家、政治家など各界の重要人物と話し合い、

「意見の違いを乗り越えて、みんなでなかよくする道を探っていこう。」と説得した。


 やがてロボットと人間の合いの子は世の中で当たり前になった。


 ビットくんは順調に成長し、親子で深く愛し合って仲のいい家族になった。そして十数年後、ビットくんも大きくなり、恋して結婚して、経済的にも自立して、赤ちゃんを産んだ。


◇ ◇ ◇


 そして現在。アンジュたちはルートくんの人生の主な話を全て聴き終えた。

「ボクの話はこれで全部だよ。」

 アンジュたちはルートくんと、フィリップさんのお店で食事したり、ビットくんと話したり、ヒトミさんと出合った浜辺で一緒に水をかけ合って遊んだ。


 ルートくんはある場所に連れて行った。

 そこはビルの一室でコンピューターがたくさん置いてある場所だった。

「UFOのコックピットみたい。」

「すごいでしょ?ここはこの町の頭脳だよ。世の中のロボットたちが人生の中で学んだ知識や見たもの、聴いたこと、それらの情報が保存されたデータバンク。いわばロボットの記憶の図書館さ。

 ここに来ればロボットの昔の経験を、まるでホントに追体験しているようにありありと見聴きすることができる。」

「ルートくんが作ったの?」

「そう。将来ボクの子どもや孫たちが、過去を振り返って原点に返りたいと思った時、昔のことが分かるように作った。それで『ルーツ』と名付けたんだ。」


 数日後ルートくんはある決意をみんなに話した。

「ボクの体はもう寿命だ。ボクの意識をルーツの方に移して、体は解体しようと思う。」

 みんなに動揺が走った。アンジュは涙を流した。

「ルートくん、いなくなっちゃうの?」

「そうじゃないよ。ボクはルーツのデータとしてこれからもずーっと会ったり、話したりできる。だからルーツをボクだと思って大切にしてね。」

「きっと大切にするよ。短い間だったけど、ルートくんと遊べて楽しかったよ。」

 アンジュは涙を拭いた。

「これからも友だちだよ。」

 ルートくんは笑顔で言った。


 ルートくんの体の部品は子どもや孫たちのためにリサイクルされた。


 それ以来アンジュたちは町によその友だちがやってくるとビットくんを紹介した。

「ボクはビットくん。かわいいロボットさ。」


 おわり


< コメント >


 ロボット三部作が完成しました。この話は我ながら自信作だと思います。


 まず1話目ではルートくんがいろんなことをできるようになる中で、人間として難しいことと、ロボットとして難しいことをうまく合わせて描けたと思います。


 2話目では未来メルヘンの経済の考え方を描けたし、ロボットが人間に尽くすだけでなく、ロボット自身が人生を楽しむために生まれたということも描けたと思います。


 3話目ではロボットと人間の合いの子を産むという話を描きましたが、SF映画でもまだあまり描かれていないらしいので、僕のオリジナルのアイデアとして描けたと思います。

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