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コミュニケーションするサルへの脳進化

 生命が誕生して以降、急激な環境変化によりほとんどの生命が絶滅する大量絶滅が5回発生した。大災害が急激な進化を促進し、環境に適応した生物種が勢力図を書き換ていく。

●上陸にせまられる魚類

 3億7000万年前の海洋生物の大量絶滅は海からの脱出=上陸を加速し、魚類から両生類への進化をうながす。使わなくなった浮き袋を肺に転用し、ヒレを手足に代える。

 上陸して一気に広がる視界、匂い、音、そして地面の感触を活用したものが生き残る。陸環境に適応して、五感による空間情報形成と記憶・学習と感情・本能による情報の統合制御を徐々に複雑化・高度化し、多様な生命デザインが地上に広がる

●恐竜を避けて生き延びる哺乳類

 2億5000万年前、生命史上最大の大量絶滅が発生する。太陽系が暗黒星雲と衝突したことをきっかけに発生した極寒期により動植物が絶滅し、続いて酸素濃度が大幅に低下する。ほとんどの生命が死滅し、大量の酸素に適応した肺をもつ哺乳類の祖先たちに大打撃を与える。

 恐竜が低酸素濃度でも生き延び大繁殖したのは、現代の鳥に継承される常に新鮮な酸素で満たされ循環する肺構造を進化させていたからだ。残念ながら、哺乳類の肺は、酸素を吸う経路と吐き出す経路が同じ気管を共有していて低酸素濃度に弱い。

 恐竜が繁栄する時代、哺乳類の祖先は小型のトガリネズミのような外見の夜行性となり、肉食の恐竜たちを避けてかろうじて生きのびる。かつて、昼間の光の中で視力を活用して構築した「空間情報(マップ)」の生成脳力は嗅覚に置き換えられ、匂いの記憶と明暗や触覚というわずかな情報からエサと脅威を感知する脳と五感と「記憶・感情」を研ぎ澄まして「空間イメージ」を組み立てる

●恐竜絶滅と哺乳類の広がり

 6600万年前、再び起こった太陽系と暗黒星雲の衝突をきかっけとする極寒期により恐竜などの絶滅が進み、続く巨大隕石の落下が残ったものたちにとどめをさす。そしてわずかに生き残った生命にふりそそぐ宇宙線が、新たな種の進化を加速する。

 大量絶滅の後に世界に広がる哺乳類の最大の特徴は、体内外での子育てと、環境変化に合わせて脳を拡張する柔軟性だ。子育てと脳を共進化させることにより、妊娠期間・育児期間が長くなるほど巨大化できる脳構造=大脳皮質のしわ・層構造を獲得する

 脳を巨大化して維持するためには生涯にわたる大量のエネルギー供給が必要だ。効率の良いエサの獲得・体内外育児の負担と、巨大な大脳を活用した賢い行動・体内コントロールがトレードオフとなり共進化し、あらゆる環境に適応して戦略を変えて苛烈な生存競争に生き残り広がっていく。

 脳をささえる体内機構も共進化する、赤血球の核を除いて脳へのエネルギー運搬を高効率化したのも哺乳類だけだ。学習能力と判断能力を強化し、出産後の環境に合わせて脳回路を編集して、忍び足で近づき俊敏に襲うもの、遠距離の脅威を感知してジャンプして逃げるもの、樹上で木々を飛び移るものなど賢い脳を活用して様々な進化をとげる。

●樹上で進化する霊長類

○フルカラー視覚がコミュニケーション能力を強化する

 6300万年前、ゴンドワナ大陸が分裂し、南米大陸とアフリカ大陸、インド大陸などに分かれ、リフト帯で噴出する放射性マグマの活動が突然変異を誘発し、各大陸での個別の進化を加速して様々な生態をもつ生物が広がっていく。

 温暖化が広葉樹を広げ、それに適応したサルの祖先が樹上での生活を選び、枝やエサをつかむ手を進化させる。樹上での生活は手足を器用にあやつり、果物の食べごろと腐敗を識別する必要があり、指先の触覚、視覚、嗅覚情報を統合して指・手足の繊細な制御を行うために「学習・判断・制御」脳力、センサー、手足を共進化させる

大脳皮質の獲得

       「学習・判断・制御」する脳の獲得

 4000万年前以降、何度も寒冷化と温暖化の波が繰り返し、寒冷化時には飢餓よる闘争が激化し、共同でエサ場を確保し脅威を排除するものが生き残る。より多数で連携した集団が優位となるが、そのためには個体を連携するための「コミュニケーション能力」が必要となる。

 個体数の増加が「コミュニケーション能力」の強化をうながし、声やジェスチャーによる「コミュニケーション能力」の強化が集団の規模を増やし、規模の限界をさぐる新たな共進化が始まる

集団形成の共進化

      集団形成とコミュニケーション能力の共進化


 3000万年前、樹上でより多くの新鮮な食料を獲得するために赤・橙の識別能力を加えてカラーの眼を獲得した旧世界サル・ヒトの祖先は、肌の色を識別できるようになり顔の肌を露出させて感情変化をよみとる新たな「コミュニケーション」手段を獲得する

○高精細視覚センサーが推論能力を高める

 やがて、遠くに熟れた果実を発見し、飛び移る枝を見極めるために網膜の一部に高精細なセンサーを搭載する。眼球とともに高精細視覚センサーを縦横に動かすことにより、注力した部分をはっきりと認識することが可能となる。以降、高精細センサーの範囲を広げるのではなく、立体視などとともに脳力により全体像を推論する「錯視」を強化する方向に進化を進める

 高精細な視覚は、より詳細に表情を認識することを可能とし、繊細な「コミュニケーション」を可能とする。やがて「錯視」は立体視などとともに脳の暗黙の推論能力を強化し、脳内に「仮想イメージ」と「仮想物語」をつくる脳力を構築して、コミュニケーション・社会行動などの生活全般の統合制御を強化していく

イメージする脳

       仮想的なイメージと物語をつくる脳

 シャープな視覚、両眼による立体視、フルカラー画像を得たサルは、高いコミュニケーション能力により集団を維持・運用し、推論により「仮想イメージ」と「仮想物語」を構築する賢いサルへと進化してゆく。

参考書籍:
[1] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[2] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[3] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[4] 大森聡一(2021), "改訂版 ダイナミックな地球", 放送大学教育振興会
[5] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[6] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[7] ジョン・C・エックルス(1990), "脳の進化", 伊藤正男訳, 東京大学出版会



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