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道具との共進化への道:残念な進化と脳の発達

 生物では、生き残る確率を高めた能力がプラットフォームとして残り、その上に様々な能力をつみあげ、時に辻褄合わせを繰り返しながら生き残ったものが今にいたる。

●「直立二足歩行」の辻褄合わせと「脳」の進化

 ヒトの「直立二足歩行」は、サバンナ化する環境で家族を養うために優位だが、その選択が様々な課題をうみだした。その典型的な例が、他の哺乳類にはみられない「難産」だ。「直立二足歩行」のために、産道がS字に曲がり、内臓を支え歩くために発達した筋肉が出産のじゃまをし、死の危険をおかす難産となる。脳容量の増加にともなって、胎児の頭が大きくなり、これもまた難産に拍車をかける。これに適応して、頭も体も未熟なうちに出産するようになり、親がいつまでも子供の面倒をみることで、家族の絆がさらに強まり、長い期間をかけて学習できるようになる

 両手で食料を運べるようになったことは、家族を養うために優位に働く。そして、見知らぬ食べ物を開拓する「好奇心」が優位となり、チームで協力して獲物を長距離で追い詰めるなどサバンナでの狩猟採集のテクニックを高め、さらに「直立二足歩行」を鍛えることが優位となる。肉食などにより豊富な栄養を取得できるようになり、大量にエネルギーを消費する「脳」を成長させる戦略を支える。一方で、「二足歩行」で走ること、「脳」の発達を優先したことにより、サバンナにおいて脆弱すぎる個体となり、集団での狩りが必須となる。高度なコミュニケーションを発達させる必要にせまられ、さらに「脳」と「二足歩行」を発達させる。

 さらに、「二足歩行」は、性器を隠してしまった。性器が隠れてしまうと、発情期を検出しにくくなり、結果的に発情期を喪失する。発情期がわからない状態で、パートナーを探さなければならなくなり、双方の「コミュニケーション」によって交尾の意思表示ができたものが生き残る。こうした、「二足歩行」「栄養確保」「コミュニケーション」「脳」の共進化サイクルがぐるぐると回った結果「脳」が巨大化していくこととなる。

 「脳容量」は、440万年前のラミダスが300ccでチンパンジーの400ccよりも少ない。さらに250万年かけて2倍に(ハビリス)、次の100万年で3倍に(エレクトス)、それからわずか80万年後の20万年前に現代人=ホモ・サピエンスが5倍の(サピエンス)脳を獲得する。長い辻褄合わせの旅をへて、脆弱な体を補う特殊な「脳」を獲得したのがヒトという動物なのだ。

脳の容量

            「脳」の容量の変化

参考書籍:
[1] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "NHK スペシャル 人類誕生", 馬場悠男監修, 学研プラス
[2] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "大逆転! 奇跡の人類史", 馬場悠男, 海部陽介監修, NHK出版
[3] 更科功(2019), "残酷な進化論 :なぜ私たちは「不完全」なのか", NHK出版
[4]デズモンド・モリス(1999), "裸のサル :動物学的人間像", 日高敏隆訳, 角川文庫




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