未来を読み解くためのアブダクション(仮説推論)
ヒトの脳は、意識下で様々な判断を行い行動している、アブダクション(仮説推論)を用いて未来を読み解く際に役立つのが、ヒトの「美意識」と「ヒラメキ」そして「暗黙知」だ。
「推論」についての解説はこちら
●美意識とヒラメキ、アブダクション(仮説推論)
アブダクションの「仮説」を設定する際には、次のような条件を意識するといいだろう[1][2]。
そして、ちょうどいい「仮説」を思いついたときに、「気持ちがいい」「すっきりした!」「単純で美しい!」と思える瞬間がおとずれ、ヒラメキの警笛が鳴る。
この条件判断に、ヒトの美しいと感じる感情、「美意識」が活躍する。
ヒトは「感情」を利用して、言葉に翻訳していては間に合わない事象に対して、意識する前に瞬時に判断して行動することができる[3]。この「感情」という即応装置の一つが「美しい」と感じる能力であり、自然が発する諸法則を発見する即応装置として働き[4]、自然のなかで様々な色が交じり合う風景、昆虫や鉱物の模様、さらにヒトが表現する芸術(絵画・音楽・文芸など)が奏でる旋律の中に「美しさ」を見出す。
さらに、芸術作品だけでなく、多くの研究者や技術者、プログラマー、学生たちが、新しい発想や道筋を得た時に「美しい」と感じる「ヒラメキ」の瞬間を、すっきり!、Ahaなどの感嘆とともに体験しており[5]、「暗黙知」を活用して正しさを「直感」する能力にも関係する。「美意識」の基準は、時代や地域、文化などの周囲の環境に影響を受け、適応し、変化と安定を繰り返している。
●ヒラメキを誘発する暗黙知
「暗黙知」とは、
「経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識」[6]
と定義される。
社内でドキュメント化されておらず社員に共有されていない技能を「暗黙知」と表現し、マニュアルを作成することにより「形式知」とするといった表現で使われる。
「暗黙知」は、その活用方法から次のように分類される。
暗黙知の分類:
一般に、暗黙知=経験値ととらえる傾向にあるが、本書ではマイケル・ポランニーが主題とする「発明を促す知識」としての「暗黙知」に着目する[7]。
ポランニーによると、問題の探究における3つの段階に「暗黙知」が活用されるという。
問題の探求における3つの段階:
未来を読み解くための問題設定、「仮説設定」において発見の正当性を感知する「美意識」、「仮説」に至る道筋を見出す際に「暗黙知」が活用される。
●未来を読み解くためのアブダクション(仮説推論)
「未来を読み解く」ときにアブダクション(仮説推論)が有効だが、未来の事象であるため「驚くべき事実C」が不確かな場合がほとんどだ。このため、解くべき課題に含まれる「ゆきずまり」に気づき、おや?と思う「意外性」や「例外性」を早めに発見して「驚くべき事実」として設定するアプローチをとることとなる。
未来を読み解くためのアブダクション:
例えば、スマートフォンを片手に利用する未来を30年前に読み解くときに、
という具合に、「事実C」を発見的に設定する。
アブダクションは、帰納と違い「われわれが直接に観察したこととは違う種類の何ものか」を推論でき、「飛躍」がある。一方で、「仮説H」を設定する際に誤りをおかしやすい。
「仮説」を設定し、ある程度具体化した段階で「仮説」がどのぐらい経験的な観測にあてはまるかを帰納し、適当なタイミングで「仮説」と「帰納」の間を演繹的な実証説明で論理立てるアプローチが必要だ。
また演繹により、未来から現在方向へ、現在から未来方向へと論理をつなぐことにより、現在と未来の間をつなぐロードマップを作製する。
●未来を読み解くための美意識と暗黙知
「仮説」への道筋を導出するときに美しいと感じる能力=「美意識」が活躍する。「美意識」は、個人においては「暗黙知」というイメージの集合をもとに直感的な分類装置=発見的評価フィルタとして機能し、「美しさ」の基準を共有する集団においては新たな発想を受け容れその有用性を選別するための保守的評価フィルタとして機能する。
「仮説」を設定し「美しい」と感じる能力を有効に活用するためには、その前提となる「暗黙知」の質と量を増やす必要がある。業務における技術、マーケティング、企画立案などに関する専門知識は大前提だが、テーマとは少し距離のありそうな本、自然科学や社会組織・経済(ときに哲学、芸術、宗教)などのテーマでピン!とくる、何かひっかかる書籍からの知識の収集が広い発想の基盤となる。
書籍の散策については後述する。
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