夜明け前が最も暗い。銅相場は近い将来上昇に転ずるか?
2022年春以降銅価格は下落
銅相場は、4月以降大きく下落し、その後横ばいの取引が続いています。銅の主要購入先である中国のゼロコロナ政策、景気減速懸念から需要が大きく減少するのではないかという憶測があります。中国はこれまで世界の需要のうち約半分50%を占めていました。習近平国家主席が3期目に入ったことで、ゼロコロナ政策は来年までも続くのではないかとの憶測も出ています。ゼロコロナ政策は景気を冷やします。米中摩擦で中国に対して最先端の半導体への締め付けも厳しくなってきています。半導体の次は、スマートフォンやPCなのかもしれません。
また、アメリカでは、FRBがインフレ対策として金融引き締め期に入っており、景気減速の足音がそこまで聞こえてきています。銅は景気の先行指標ともいわれる工業用資源です。銅価格は将来の景気を映す鏡ともいわれています。
銅先物市場での異変
しかし、銅相場をよく見ると、違和感があります。業種別のポジションを報告(CFTC報告)している銅先物市場を見てみると、4月以降ポジションを落としているのは、金融筋であるマネイジドマネー(ファンド、ETFなど)だけで、生産者や商業筋はむしろロングが増えています。スワップのなかには、一部大手生産者も含まれます。
商業筋と投機筋の2パターンのCFTCポジション報告(旧パターン:COT報告)でも、投機筋だけがポジションを落としています。FRBが金融引き締めに入った途端、投機筋はロングポジションを落としたのです。10月に入って若干下げ止まったようにも見えます。
生産者の嘆き
先日銅生産の世界的大手であるフリーポート・マクモランの第3四半期の決算発表がありましたが、そのなかで、CEOのリチャード・アドカーソンは以下のようにコメントしています。
「マクロ経済のセンチメントは引き続き弱く、皆さんも日常生活でそれを目にしていると思います。一方、ファンダメンタルズの銅の現物市場は今、世界的に驚くほどタイトです。(中略)世界の銅の在庫は歴史的な水準にとどまっています。世界中の生産者が生産目標を達成するための課題を報告しており、業界は新たな供給源の開拓という課題にますます直面しています。現在の環境では、サプライチェーンが伸び、生産不足が常態化し、コストカーブが上昇しています。私たちフリーポートは、世界のGDPが低下する可能性について現実的な見方をしています。ポジティブなことは、今新しい銅の需要源が生まれつつあるということです。そして、世界中で進行している世界的な電化、炭素を減らすための投資、それらが加速し始め、今後より急速に発生し、銅の需要に大きな影響を与えるだろうという認識が広まっています。
その需要に対応するために、エネルギー転換には大量の銅が必要となり、その他の手段も必要になります。新しい供給を呼び込むためには、より高い価格が必要になります。今よりもずっと高い価格が必要になるのは、単に現在の価格では、この需要増に対応するために必要となる規模の新しい供給開発を促すには十分でないからです。」
キャサリン・クアーク会長も同じカンファレンスのなかで以下のように語っています。
「当社のお客様からは、堅調な受注が報告されています。現物市場は、在庫の少なさからもわかるように逼迫しています。今日も状況はほぼ同じです。銅の需要は引き続き健全です。業界は生産目標を達成するために奮闘し続けており、在庫は過去の水準からすると低いままです。
将来的には、電化とエネルギー転換に必要な金属の大幅な要求から、銅の需要が恩恵を受けると見ています。このような新しい需要は、経済的なサイクルではなく、世俗的なトレンドによってもたらされるものです。業界には、この需要に対応する現在のパイプラインがなく、最近の銅価格の低迷は、この開発をより困難なものにするだけでしょう。現在のマクロ環境は不確実なものですが、銅市場の長期的なファンダメンタルズには強い確信があります。また、脱炭素化による需要増加の時期を経て、銅市場に大きなガス需給ギャップが生じ始めると予想しています、とリチャードが話してくれました。」
これらコメントからすると、今の銅価格では供給を満たすための投資が出来ない。近い将来大きな供給不足に陥るであろうということです。来年にはまた銅価格は上昇するのではないかということです。
インサイダー取引
9月には、別の点でも話題になりました。昨年FCXの取締役に就任した石油大手コノコフィリップス(COP)のライアン・ランスCEOが個人の株取引で、自社のCOP株を売却して、FCXの株を取得したということです。新しく就任したFCXの株を取締役として保有するというのはもっともらしい考えですが、何かを勘ぐってしまいます。世界の二酸化炭素削減には、化石燃料の使用を控え、電気化(EVや蓄電バッテリーなど)は必須です。新しい電気化される社会は、銅を必要とします。そうした中での取引なので、気に留めておいた方がいいかもしれません。
銅在庫の急減
中国は再び銅のために奔走しているようです。ロンドン金属取引所が追跡している倉庫の銅在庫は、上海の銅市場が限界点に達しているように見えるため、過去1週間で急落しています。上海金属市場が追跡する保税倉庫の銅在庫は、過去最低に急落しています。一方、中国の銅輸入需要の代理指標である洋山型銅プレミアムは、LMEスポットを1トン当たり147ドル程度上回る水準まで急騰し、2013年以来の高水準となっています。銅の倉庫在庫と輸入銅のプレミアムが数年来の高水準にあります。
出所:上海先物取引所、ロイター
習近平国家主席が最近、6兆8000億元相当のインフラ投資と不動産開発業者への政府支援で経済を再活性化すると発表したことが、この銅の争奪戦の引き金になったのではないかと推測されています。しかし、もともと銅の保税倉庫在庫が少なかったこともあり、中国での需給がひっ迫し、それが世界の銅相場にも波及する可能性があると思われます。
銅の長期的なファンダメンタルズ
銅は電気自動車、高速鉄道、再生可能エネルギーのインフラ製造に不可欠な原料です。電気自動車が銅の需要に与える影響に注目するだけでも、電気自動車での銅の使用量は従来の自動車の約4倍であることがわかります。
出所:ICA「World Copper Factbook 2022」より
先進国、特にヨーロッパとアメリカの脱炭素化も、今後数十年の銅の需要を支える大きな要因のひとつだと考えています。先進諸国はそれぞれカーボンニュートラルの目標達成に取り組んでおり、先進国のインフラの電化はすでに軌道に乗っています。
まとめ
社会の電気化は、二酸化炭素排出を削減するためにも不可欠です。その電気化のためには銅という資源材料は必須のものです。今生産を増やす投資を仕損じると近い将来需給はよりタイトになり、銅価格は上昇するでしょう。夜明け前が最も暗いと言われますが、現在の銅相場についても同じことが言えるのではないでしょうか。
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