息をのむほど美しいものを生み出し続ける企業の根っこにあるもの|上町 達也さん
8月3日、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第12回の授業内にて、secca代表の上町達也さんのお話を聴講しました。
ニコンにお勤めの末、2013年にseccaを設立され、伝統とデザインの融合にが叶った作品を多数デザインし世の中に提供されている。世の中に作品を提供することで、ものの価値を捉え直して価値提供することを目指す。さらに、ものづくりとは価値を作ることであり、新しいカタチを創造する必要があり、あくまでも手段としてものづくりをされているというビジョンを語っている。
まずあらゆる作品がとても美しいですよね。一瞬息をのむような美しいと感じる作品が多数並んでいます。それぞれに想い、ストーリーがあり、非常に魅力的です。単純に伝統工芸に傾倒していることがわけでもなく、テクノロジーにのみ軸足をおいているわけでなく、我が道を行くデザインに突っ走っているわけでなく、うまく伝統技能と最先端テクノロジーを融合させてデザインセンスによって作品を形作っておられ、価値を創造していると言えます。
これだけ価値を創ることを意識していることの原点について辿ってみると、前職や震災での世の中の変化がきっかけだったとのこと。ニコンにお勤めな時に、一年後に価格が下落するから、劣化版の素材で今のカメラの次のものを作るようにと社内で言われ、デザインの意味について本来とのギャップに理解ができずにいらしたと。その後、3.11が起こり、安全な食に対するモメンタムが高まり、その際にも、食のこれまでの教育や生活週間と安全な食を求める世の中とのギャップにも同様に理解ができなかったとのこと。そのような背景から新しい食の体験を提供したいという気持ちに至ったのこと。そういった世界の認識がうまく整っていないなかで、本質的に優れたものを出すことに意味がなく、「価値とは何か」「価値の意味を理解してもらうには」と言うことを問いに設定し、そもそもの世の中の価値観を変えていかないと、良い価値がこの世に残っていかないのではないか、という危機感のもと、seccaの設立に至ったのことです。
では何をすれば良い価値を提供できるのでしょうか。良い価値を生むことは一朝一夕ではできない、ということが上町さんの経験からよくわかります。あくまでも食体験を与えるという価値を創りたいという信念から、すぐに食器を創るのではなく、農業の団体の門を叩いて野菜や土の勉強を数ヶ月に渡り学んだり、レストランの運営や、レストランのハヤシライスを数年かけて自身で作れるようになるまで腕を磨くといったことをされていたそうです。それによって、食の本質や食体験の本質を捉え、お皿や食器の創作につながったようです。さらに、お皿を一枚創るとしても、最新素材と考え方やデザインをいかに融合させるか試行錯誤でアイデア発想をし、何度もやり直しながら良い価値のお皿を創り出しているとのことです。良い素材も良いデザインと融合しないと価値にならない、良いデザインもそれを実現できる質感の素材と巡り会わないと価値にならない、この融合点を見つけるための努力と鍛錬が、良い価値をうむ唯一の近道だと思います。
ビジネスを営んでいる方からするとどう経営を維持しているのか?という疑問が出ると思いますが、まだうまくいっているとは言えず、今まさにたてつけようとしている最中とお答えされていました。事業ポートフォリオを分けると、価値の創出と原資の創出の2軸に分かれており、価値の創出側で研究開発やブランディング等を投資として良い価値の提供の追求を行い、原資の創出側でいわゆるメーカー側のデザインをお手伝いすることで売り上げを生み、バランスをしていると。secca自体は、メーカーとデザイン事務所の合いの子のような立ち位置でお仕事されており、今後そのバランスをうまく保ちながら経営を維持拡大していきたいと強いメッセージを発信されていました。ビジネス?売り上げ?等に目が行きがちですが、やはり美しいものを常に創り世に提供し続ける力があるということは何よりも強いアセットであり、期待価値により企業の大きな価値向上に繋がるのだと思います。