匂いのない世界。
今更ながらコロナに感染して、1週間仕事を休むことになった。
先生の話では最近また流行っているらしい。
私としてははじめての「コロナウイルス感染」である。
この感染期間中、私の身体の中ではいろいろなことが起こっていた。
そのすべてを考察するには私の持っている知識だけでは足りないけど、中には面白い体験もあった。
そのいくつかを忘れないうちに書いておこうと思う。
まず私を苦しめたのは熱であったが、39℃以上の熱と関節痛、頭痛により私はまったく動けなくなった。
熱と痛みは「身体を安静にしなさい」と身体から発せられるサイン。
それを無視すれば後で倍返しが待っている。
そのことを思い、ただひたすらベッドに身体をあずけていた。
痛みを感じると同時にネガティブな感情も刺激される。これによって動く気すらなくなる。モチベーションも下がる。これは身体のよくできたメカニズムの一つである。
強制的に与えられた休み、隔離した生活、家事もしなくて良い状態。
やりたいこと、読んでない本、溜まっているタスクもたくさんあったが一向にやりたい気持ちにはならなかった。
薬が効いて熱が下がっていても、気力は戻らずただひたすらに時間が流れるのを感じていた。
熱が楽になってくると今度は咳に苦しめられた。
ウイルスが自ら拡散しようと?、私の咳を誘発する。
気道内に侵入した異物は、気道にある咳受容体を刺激し、その信号が脳にある咳中枢に伝えられ、咳が出るのだが、不思議なのは何かに集中しているときは咳は出ず、横になる、つまり寝ていると咳が出てくる。
これによって全然寝ることができず、発症後3-4日目ぐらいはこれがつらかった。
咳受容体が刺激され生じる信号とそれを感知する脳、これらの機能が何か関係しているのかもしれない。
そして4日目には私の世界から匂いが消えた。
さっきまで食事の味がしていたのに、まったく味がしなくなったのだ。
コロナ感染による嗅覚・味覚障害は8割ぐらいの人に起こる珍しい症状ではなく、1ヶ月以内にほとんどが治るとされているが、かなり不安だった。
幸い味覚は正常であったが、食品の「味」しかわからない。風味がないとまったく美味しくないのである。
人は味を舌だけではなく視覚、嗅覚、食感、経験による補正を加えて脳で感じとっていると言われているのだが、それはそのとおりだということを身を持って体感した。
ただ匂いのない世界にも美味しいものがあるということがわかった。
香料や食品添加物でごまかされていないものたちである。
匂いがわからない分舌の感度が上がってきたのか、だいぶそのものの味を感じとれるようになってきて、2日もすれば匂いがわからなくてもだいぶ味が回復してきたのには驚いた。
残っている機能と経験で脳がだいぶ補正をするようになったのか、真相はわからないが味わいは本当に食事を楽しいものにしてくれる。
約1週間ほどで私はだいぶ自分の身体を取り戻したが、特にすることも、気力もなかったのでただひたすらに自分の身体と対話した貴重な時間でもあった。
身体は本当に奥深く、まだまだわからないことがたくさんある。
1週間ひたすらに休んで、迷惑をかけてしまった。
明日からはまた患者さんの身体としっかりと対話していき、この奥深い世界を1つ1つ理解していきたいと思う。