祖母へ
自ら悲しくなるものを手に取り、そして涙を流している。
泣くことで自分を洗い流すような
まだこんなに泣けるのかと思うほど
自分の中に溜まっているものを感じたりもする。
祖母が大好きだった。
認知症の症状が少しずつ出始めたころ、
祖母は母から渡されたノートに日記をつけていた。
それを私は譲り受けている。
忘れてばかりで頭がおかしくなったんじゃないか、とか
みんなに迷惑をかけて申し訳ない、とか
祖母の心情が綴られた文章を読むと胸が苦しい。
私は、これを読んでいる時ですらも
祖母にとって自分はどんな孫だっただろうと自分のことを考えてしまった。
優秀な姉と比べて私はどんなふうに映っただろう。
高校生になり不登校になった私のことを
祖母は理解していたのだろうか。
私は、祖母にとっていい孫でいたかった。
たくさん愛されたかった。
今でも覚えている。小学生の時、祖母が習字教室に迎えに来てくれた。
だけど私はそれが恥ずかしくて無視して先に帰ってしまった。
祖母は怒りもせずついてきてくれた。
私はそれをとうとう謝ることができなかった。
グループホームに入所したとき、私は高校生だった。
それから社会人になり、訪問する機会をいくらでも作れたはずなのに
私はめったにいかなかった。
大好きだとか言いながら、いかなかった。
祖母がなくなったとき、直前はホスピスに入院していた。
その時だって、もっと顔を見に行けたと思う。
意識の戻らない祖母を見て、いつか目を覚ましてくれると思った。
そしたら昔のことを謝ろうなんて考えていた私の馬鹿さが疎ましい。
亡くなるとき、下顎呼吸になった祖母を怖いと思ってしまった。
看護師さんが手を握ってあげてくださいといってくれたのに
怖くて近づけなかった。
身体の丈夫な人だった。
ずっと元気でいてくれるなんて、ありえないのに。
私はどうやら心底そう思っていたようだ。
おばあちゃん、私はあなたにとってどんな孫でしたか。
私はこうしてあなたの日記を読むたびに過去の自分を振り返って
本当に自分が嫌になります。
口先ばかり、怠けてばかり、勇気がなくて、頭が悪くて…
ごめんね。
貰ったものを何一つ返せないままで本当にごめんね。
自分が心底嫌になるとき、昔の私は本気で今すぐ消えていしまいたいと思っていた。
だけど今は不思議なくらい、心のどこかで、私はこのまま消えずにどうにかして生き続けるのだろうと根拠もなく信じている。
そのおかげでどん底まで落ちないのだろうけれど
私は今、底の底まで落ちてしまいたい。
そうでないと這い上がってこれない気がするからだ。
私も何か揺るぎないものがほしいな。
絶対に揺るがない、これのためなら命もかけられるようなもの。
ねえ、ばあちゃん。私には何ができるかな。
私の名前を呼ぶ声も、その笑顔も覚えてるよ。
昼寝をしているとかけてくれた新聞紙。
ストーブの上で焼いてくれたお餅。
畑仕事をしている姿も、好きだった。
母の怒りを買った私をいつも味方してくれた。
夏に着つけてくれた浴衣。
会うたびに渡してくれるお小遣い。
外を歩くと知り合いがいっぱいで、みんなから声をかけられてた。
ねえ、大好きだよ。
なんで私には、何もないのかな。
ああ、くそ。そうだ。かわい子ぶるのはやめよう。
もしこの先、クソみたいな人物に出会ったとしても
全力で戦えばいい。
そうすればどこかで味方も増えるのかもしれない。
戦うのは大嫌いだ。
誰が勝ったとか負けたとか、上とか下とか
これはいい子ぶりとかじゃなく
本当に昔から興味がない。
だけど勝たなきゃ。そしてそれすら楽しまなきゃ。
私は、もしかしたら、うっかり仄暗い気持ちに飲まれて死にたくなるような
そんな人なのかもしれない。
頑張るよりも死ぬ方が簡単かもしれないと一瞬、考えてしまった。
だけど私、死にたくない。
生きたい。
迷惑をかけても、嫌われても生きたい。
だから、予防策を立てなきゃ。
うっかり踏み出さないように。
生きよう。
どんな手を使っても。
ばあちゃん、ありがとう。ごめんね。
生きている間にもう少し良い人間になれるようにやってみる。
ばあちゃん、愛してる。
私のおばあちゃんになってくれてありがとう。