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【届かない手紙】おかめさんへ

おかめさん、お誕生日おめでとう。今日は59歳のお誕生日。
いくつになってもパンクが好きで、ファンキーなおかめさん。
来年は還暦だなんて、まったく信じられない。

おかめさんと言えば、最初に思い出すのは、やっぱりお酒。
はじめは必ずビール。そして途中からは麦焼酎のロック。
ロックグラスに入った半分くらいの焼酎と大きな氷を、左手の薬指でぐるぐるとかき混ぜる。
グラスと焼酎と氷と指が混じり合って、時折、氷とグラスがぶつかると、カラカラと音がして。
グラスの中に入った薬指が妙にいやらしくて、私はその時だけ
『おかめさん、エロいな。』と思って見てた。

そしてご飯の後はいつもカラオケ。
毎回「むくみちゃん、あれ歌ってや。」って。
My Little Lover の Hello,Again〜昔からある場所〜

私の上手くもない歌を「めっちゃいいわ〜。」って絶賛してくれて。
2人で懐メロばっかり歌って、楽しかったね。

元パティシエのおかめさん。
「味見して」って手作りのケーキを作ってきてくれたことも有ったね。

行きつけの京都のバーに連れて行ってくれたり、メジャーデビューしているお友達のライブを観に行ったり、お花見に行ったり、牡蠣パーティーに呼んでくれたり。
おかめさんとの思い出はいっぱい。

今日は向こうで、大好きなお酒を飲んでるんかな。
でも、飲み過ぎんようにね。


おかめさんは私より10歳年上。少しロン毛の可愛らしい顔立ちのイケメンで顎髭を生やしていた。可愛らしい見た目に反し、パンクが好きでファンキーなおじさんだった。
自分の意に沿わないことは、上司だろうと何だろうと意見を言う人だった。
元パティシエで、仕事が休みの日はケーキを作り、カフェに卸したりもしていた。

おかめさんとは5〜6年デートをしていたけど、2人の間には何も起こらなかった。
私にとって、おかめさんはお兄ちゃんのような存在で、おかめさんにとって私は妹のような存在だと認識していた。

おかめさんの友達とも仲良くなった頃、私に彼氏が出来た。私はおかめさんが喜んでくれるだろう、と思って報告した。
「俺、むくみちゃんに彼氏ができてショックやわ。」
返ってきた言葉は予想外のものだった。
妹を取られた兄貴みたいな気持ちだったのだろうか。

「彼氏紹介してや。」
おかめさんにそう言われ、当時の彼氏を紹介し、3人で飲みに行った。
当時の彼氏も酒豪で、下戸の私を置いてけぼりにして、2人ともベロベロに酔っていた。

それから程なくして、私は同棲を始め、おかめさんとのデートは無くなった。
時々、おかめさんどうしてるかな?と思っていたのに、いつでも会えると思って連絡をしなかった。

それから数年後、おかめさんの友達がSNSで、よく行っていたバーが閉店するという投稿をしていた。
それは、おかめさんに何度か連れて行ってもらった京都のバーだった。
「おかめさんに連れて行ってもらったバー、閉店しちゃうんですね。もう一回行きたかったなぁ。」
私はそう書き込んだ。

するとすぐさま、ダイレクトメッセージが送られて来た。
『むくみちゃん、おかめさん亡くなったの聞いてない?』
えっ…
私はおかめさんが亡くなったことを知らなかった。
何も知らずに過ごしていた自分が情けなくて、腹が立った。
そして1人、涙を流すことしかできなかった。

お風呂の中で1人きりで亡くなってしまったおかめさん。
いつでもまた会えると思っていたおかめさん。
焼酎のロックを左手の薬指でかき混ぜるおかめさん。
ケーキを焼いて持って来てくれたおかめさん。

思い浮かぶのは、人懐っこい笑顔のおかめさんだった。


今年で、おかめさんが亡くなって9年になる。
おかめさんと一緒にお酒を飲んだ元彼も、2年前に旅立ってしまった。


おかめさんが遠くに行ってしまったことを知ってから
したいと思ったことは、なるべく早いうちにする。
行きたいと思ったところには、近いうちに行く。
どうしているかな?と気になる人には、何の用事がなくても連絡を取る。

そうしよう、と心がけるようになった。

昔の同僚が夢に出てきた時には
「夢に出てきたから、どうしてるかな?と思って連絡しました。」
とおかしなLINEを送った事もある。

変に思われてもそれでいい。


今日が誕生日のおかめさんに、たくさんのありがとうを言いたい。



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