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梱包が苦手な母VS優しくない娘

ピロリンピロリン。
インターホンのチャイムが鳴る。
「荷物のお届けです」 の声で、オートロックの解錠ボタンを押す。

ドアを開けると配達員さんは申し訳なさそうな顔で立っていた。
「箱が濡れてしまって…中身確認してもらえますか?品物、言って頂いたら弁償しますので」
そう言いながら差し出された段ボールは、プチプチで厳重に包まれ、いけすの魚を運ぶ時に使うような分厚くてツルツルとしたビニール袋に入れられていた。底は水分でふやけ、抜けている。
配達員さんを待たすわけにはいかない。急いで開封する。
中は野菜やお米など。そして底の方にベチャベチャになった薄いスポンジ。触るとネチャネチャして酸っぱい匂い。鮨酢の瓶が割れていた。
段ボールの1番底の端に横倒しで、うす〜いスポンジに巻いて詰められていた。
明らかに梱包の仕方が悪い。

配達員さんは、クレームを言われるかもしれない、と憂鬱な気持ちでビクビクしながらやってきたに違いない。
「いや、大丈夫です。わざわざお手数をおかけしてすみません」
そう伝え、お引き取り頂いた。

荷物の送り主はーー母。
典型的なO型の母は、いろんな事が大雑把だ。荷物の梱包はいつも酷い。
食品を入れたジップロックの封は毎回閉まっていない(本人は閉めているつもりなのだろう)。

瓶を養生する緩衝材は衝撃を吸収するものでなくてはならない。低反発の薄いスポンジはでは養生にならない。
瓶は横倒しに入れてはいけない。横からの衝撃には弱い。
瓶を底に入れてはいけない。荷物はポンポンと投げるように扱われる。底には衝撃が伝わりやすい。

スポンジを開くと割れた瓶
底はベチャベチャ

中に入っていたものは全て鮨酢まみれになっていた。
お米。袋を二重にてしあったので底が濡れただけでセーフ。
父が家庭菜園で作った野菜。袋の口がしっかり縛られていなかったので、丸ごと野菜の鮨酢漬けが完成。

鮨酢漬けの
さつまいも
玉ねぎ

へしこ。4切れをまとめてラップでひと包み。鮨酢被害からはまのがれたが、ラップは外れかけている。

ふんわりとしたラップ
私なら1切れずつラップで包み
ジッパー付きの袋に入れる

ブラックサンダーお徳用パック。袋は開いていて、中はなぜか6個だけ。
食べかけかい!1袋ちゃうんかい!!

実家ではお米を作っている父の友人から1年分を購入している。
お米も嬉しいし、父の作る野菜はスーパーで買ったものよりも味が濃くて美味しい。物価高の昨今、こうして色々送ってもらえるのはありがたい。
しかし母の梱包する荷物は毎回と言っていいほど何かハプニングが起こる。

優しい娘なら何も言わずに「ありがとう」と連絡するのだろう。瓶が割れていたとか、野菜が鮨酢漬けになっていたとか、そんなことは言わないだろう。

私の住む市では、割れた瓶は普通のゴミとして回収してくれない。市の粗大ゴミ回収センターに連絡し、小物不燃類の回収予約をし、回収日の連絡が来たら袋に回収日と回収番号と名前を書き、指定の日に出さなければならない。ひとつ回収してもらうのにとても手間がかかる。
今回のことを伝えなければ、母はまた、今回と同じように瓶類を送ってくるかもしれない。
言うべきか、黙っておくべきか。
言えば折角の母の好意を台無しにしてしまう。いや、しかし言わなければまた同じことが起こるかもしれない。
私は喉が痛くて声が出ず、鼻水ダラダラで倦怠感に苛まれている体でしばらく考えていた。


「荷物届きました。ありがとう。鮨酢の瓶が割れて段ボールに穴が開いていました。お母さんにはいつもお手数かけて申し訳ないし、感謝してるけど、ご報告まで。」

優しくない。私、全然優しくない。
LINEを送ってから、言わなくてもよかったかも、と後悔する。
1週間経った今、やっぱり言うほどのことでもなかったかもと思う。

あゝ。優しい娘になりたい。
こんなことがあっても、「ありがとう」とだけ言える娘になりたい。

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