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コートのボタンを開けてみた

暖冬とはいえ、短い秋を経て季節は冬へと足を踏み入れた。
大阪では日中、太陽の陽気で上着が無くても過ごせる日もあるが、朝晩の冷気に手が悴む。
この時期、街ゆく人々の上着は様々。
モコモコとした厚手のカーディガン、中綿ジャケット、トレンチコート、マウンテンパーカー、既に厚手のダウンジャケットを羽織っている人もいる。
同じ季節なのに素材も防寒力も異なる上着を見ると、少し可笑しくなり、フフッと笑ってしまう。


上着の前を全開で歩いている人をよく見かける。
私は上着のジッパーやボタンを上までピタリと閉める。風が入ってこないように。
なぜ真冬でも多くの人が上着の前を閉めないのだろう。

留めるのが面倒。
中に着ている服を見せたい。
留めるとキツい。
ファスナーが壊れている。
開けている方がお洒落にみえる。
その理由は色々だろう。

鏡の前で上着を羽織り、前を開けた時と閉じた時を見比べてみる。開けていると、中の服の色が見え、コートの形もバランスがいい。閉じていると、少しのっぺりとした印象になる。

次にトレンチコートの前を開け、颯爽と歩く人を思い浮かべる。歩く度にヒラヒラと風になびくコートの裾がなんだか格好いい気がして来た。

朝、トレンチコートの前を開けて歩いてみる。意外と平気かもしらん、と思ったのも束の間、胸の辺りがスースーとしてきた。続いてお腹の辺りにも冷気を感じる。程なくして、体の芯まで寒さが潜りこみ、内臓が震える。これでは風邪をひいてしまう。
ものの2、3分で私はコートのボタンを留めた。
ボタンを留めたからといって冷えた体がすぐに温まるわけもなく、ポケットに手を入れ、震えながら足早に歩く。ようやくポカポカと体に血が巡ってきたのは7、8分経ったころだった。

お洒落に我慢はつきもの。しかし、もう、お洒落のために我慢をすることができない。
私はお洒落よりも健康と快適さを優先する。

今日もまた、コートのボタンはきっちり留める。

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