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すてきな女むてきな女⑦

ゴールデンウィークのハセショ会から程なくして、なっちゃんは私の働くクリニックへ遥々来てくれた。

コンタクトレンズで遠くも近くも見えるように、と言うなっちゃんの希望を叶えようとした私であったが、モノビジョン(左右の目で見える焦点を変え、利き目で遠く、反対の目で近くを見やすくする方法)は、なっちゃんの目には合わなかった。
本や近くが見えるのを優先したいなっちゃん。近くを楽に見える度数に合わせ、遠くは生活に困らない位の見え方になった。
なっちゃんは本が読みやすくなったと満足してくれたが、私としては遠くももう少し見やすくしたかった。無念。

私達の老眼は今後どんどん進んでいく。私も最近、遠くも近くも見えにくい。

老眼の馬鹿!


午前の診療が終わり、なっちゃんと近くのお蕎麦屋さんにランチに出掛けた。
ここは十割蕎麦で美味しい。
私はなっちゃんに是非食べてもらいたいものがあった。
それはいなり寿司の天麩羅
ここの天麩羅蕎麦は海老や野菜の天ぷらに加え、いなりの天麩羅もついてくる。

初めていなりの天麩羅を食べた時、どうして他のお店にはいなりの天麩羅がないのだ!!と叫びたい位の衝撃だった。
サクッとした衣の次に甘辛いお揚げさんの煮汁がジワっと滲み出て、最後に酢飯のサッパリ感が残る。
これを考えた人は天才だ。

何度か食事をして、私となっちゃんは食の好みが似ている事に気がついた。
だからなっちゃんも絶対、いなりの天麩羅を気に入るはずだ。
と言いつつ、内心ドキドキしていた。
職場の同僚達は「これは無い。」「私は無理。」と言っていたからだ。
チョコミント同様、こう言うものは人によって評価が分かれる。

いよいよ実食。
「なにこれ。めっちゃ美味しいねんけど。」
「そうやろ!」
凄いのは私ではなくお店なのに、私は自分が考案したかのようなドヤ顔をしていた。

そしていつものように喋りながら食べていると、なっちゃんはチラッとスマホに視線を落とした後、こう言った。
「彼氏、船買ったらしいわ。」
え?フネ?船?!
「船って何処に住んではんの?何に使うの?」
「家は淡路島。他にも神戸とか何個かあるねん。釣りに使うんちゃうかな。」
家が何個もある?釣りのために船買う?どんなセレブやねん!!

車もない もっさり&むくみ とは雲泥の差。


家に帰ると私はすぐさま、もっさりに報告。
「なっちゃんの彼氏、船買ってんて。釣りするらしい。」
「船?何処に住んでんの?」
(私と同じ反応。)
「淡路島とか神戸とか、家も何個かあるらしい。」
「おおーそうかー。でも、むくみは船乗ったら絶対酔うやろ。それに俺らは釣りせえへんしな。」
「ま、そやな。」
「むくみ。船は無理やけどなあ、そのうち温泉でも連れてったるからな。」

もっさりと私に船は似合わない。温泉で十分だ。


6月末、祖母の13回忌で帰省するので、再びなっちゃんと会う。
6月はなっちゃんのお誕生日。
私はなっちゃんにプレゼントを渡したかった。

今回もなっちゃんがお好み焼き屋さんを予約してくれた。
お姉さんが1人で切り盛する、テーブル席2つとカウンターのこじんまりとしたお店。
お好み焼きはフワッフワで、私の予想以上の美味しさ。
今回もなっちゃんのナイスセレクト。

長居をする感じのお店ではなかったので、近くのカフェに移動する。

「R(なっちゃんの娘)が、ママの話はいっつもあちこち飛ぶから、私は慣れてるけどむくみちゃん絶対に大変やと思うわって言うねん。」
「全然大変やって思ったことない。私もめっちゃ話飛ぶし。」
なっちゃんの頭の中と同じではないかも知れないが、私も何かを話している時にふと思いついた事があると、その話に飛んでしまう。

この日もいつもの如く、私達の話はあちこち飛びまくる。結局何を話したのかうろ覚えだ。

ただひとつ確実に覚えているのはタイムカプセルの話だ。

4年生の時に学校の創立20周年記念があり、いくつかのイベントがあった。
その1つがタイムカプセルだ。
20年後に掘り起こす予定で、20年後の自分に向けた手紙とお気に入りの品(消ゴムとかシールとか)を、1クラス毎にプール横の中庭の木の下に埋めた。

全学年ではなく4年生だけが埋めた気がしている。
(この学年の担任の先生方は熱心でいい先生が多かった。マンモス校だったので全学年が埋めると36個になり、中庭は穴だらけになってしまう。)

そして20年後、30歳の年。何の連絡も来なかった。
私が実家を離れているせいかも知れないと思ったが、その後再会した同級生達に聞いても誰一人連絡を受けた人はいなかった。

なっちゃんは残念ながらタイムカプセルのことを覚えていなかった。(もしかすると私のクラスだけだったのかも知れない。)
でも
「涼しくなったら、学校に行ってタイムカプセルの事を聞いてみようよ。」
と言ってくれた。
今からドキドキする。
突然訪問してタイムカプセルの話なんかして、不審者扱いされないだろうか。
事前に電話した方がいいよな。
土日は学校は休みやから、平日しか無理やな。
などと頭の中でぐるぐる巡る。

今からなっちゃんと母校を訪問する日が楽しみ過ぎる。


そしてハセショに移動。
いつものようにネンさん(ハセショの店員さん)の邪魔をする。
今回の目的はある本の購入。

会う前になっちゃんから送られてきたLINE

ハセショが載ってる!!そして帯はネン(長谷川稔)さん!?
これは買わないわけには行かない。
長谷川書店はよく本屋さん特集などでも取り上げられている、関西の本屋さん好きの間ではちょっと有名だ。
「ほっとけないみのるさん」と言うのが実にしっくりくる(笑)

と言うことで、今回は2人で同じ本を購入した。

しぶとい10人の本屋

駅で別れ、なっちゃんは大阪方面、私は京都方面へと帰っていく。
お互い向かい合うホームから手を振り、電車に乗った。

あっ!!私はなっちゃんに渡す予定のプレゼントを自分の手に持ったままだった。
最後に渡そうと思って、そのまま自分で持って帰ってしまった…。
シュン。今日一番のミッションを忘れると言う情けなさ。

プレゼントは、翌日買い物に行く母に託し、持っていってもらった。

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