見出し画像

【短編小説】 紙一重 〜埋もれた紙〜

いつものように散歩に出かける。
空には羊雲が連なり、河原のススキは揺れていた。
お気に入りの白いスニーカーはくたびれて、薄汚れている。
解けた靴紐を結ぼうとしゃがむと、草の隙間から、何かが少しだけ顔を出していた。

僕はそれが気になり、爪の間に土が入るのも構わず、掘っていく。
出てきたのは、小さく折り畳まれた紙だった。

紙は土で茶色に染まり、湿っていて、そおっと開かなければ、破れそうだ。
ゆで卵の薄皮を剥くように、丁寧に開いていく。
紙の中央には、小さな文字で何かが書かれている。
ハッキリとは読み取れず、僕は家に持ち帰ることにした。

机の上に新聞紙を敷き、その上に拾った紙を広げる。
スマホのライトで照らしてみると、微かに文字が読み取れた。

この紙を拾った人へ

あなたはこの紙をどうやって見つけたのでしょう。
あなたはどうして、この紙を拾ったのでしょう。
この紙を偶然に見つけたとしても、見て見ぬ振りをすることもできたはずです。

この紙はあなたが拾わなければ、自分で回収するつもりでした。
でも、あなたがこれを拾った今、その必要は無くなりました。

今の私には、あなたがこれを拾うのかどうか分かりません。
だから、私はまた、あの場所に行くでしょう。


あの紙を埋めた人へ

僕は解けた靴紐を結ぼうとして、偶然あの紙を見つけました。
始めは紙だとは分からずに、興味本意で掘ってみました。
あなたはどうしてあの紙を埋めたのですか?
何かの実験をしているのでしょうか。

あなたがこの紙を見つけるかどうかは分かりませんが、あの紙があった場所に、これを埋めてみることにしました。

あの紙を回収するために、あなたはいつか、あの場所に来るみたいですから。

僕はあの紙を書いた人への返事を書き、ガチャガチャのカプセルに入れた。
そして、スコップを持って河原に行き、同じ場所に埋めた。


あの紙の持ち主がカプセルに気づいてくれるのか、気になって眠れない。
しかし、僕は週末まで待つことにした。

土曜日の早朝、僕はスコップを持って河原に向かう。
あの場所を掘ってみると、カプセルはまだそこにあった。
ちょうど朝日がカプセルに当たり、中が透けて見えた。そこには僕が入れたのとは違う、水色の紙が入っていた。

早く中を見たい。
はやる気持ちを抑えながら、僕はカプセルを握りしめ、家まで走って帰った。

家に着くと、カプセルを開け水色の紙を開く。

あなたはきっと、また来ると思っていました。
先週と同じ履き古したスニーカーに黄色いスコップを持って。

土に埋まったボロボロの紙を拾ったあなたです。
きっと、ボロボロの私のことも救ってくれることでしょう。

追伸
今度、一緒に新しいスニーカーを見に行きましょう。
スーツ姿のあなたも素敵ですね。

ピロリーン、ピロリーン、ピロリーン
読み終えると同時に、インターフォンの呼び出し音が大音量で鳴った。

僕は背筋が凍って、動くことが出来なかった。

【1,179文字】


2024年10月8日 タイトルと一部文章の訂正を行いました。

この記事は秋ピリカグランプリ2024応募作品です
主催者様、よろしくお願い致します

#秋ピリカ応募

いいなと思ったら応援しよう!