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問題解決力を高める「推論」の技術:ビジネスの未来を読み解くための3つのシンプル思考/羽田康祐【本要約】

「帰納法」や「演繹法」は、多くの人が哲学や論理学の学習の中で聞いたことがあると思いますが、その具体的な適用方法がわからないという方もいるかもしれません。
哲学や論理学の文脈では、これらは抽象的な考え方として捉えられ、それらが具体的にどのような場面で活用できるのかを想像するのは難しいかもしれません。しかし、「頭が良い」とされる人々は、これらの推論法を自然と習得し、日々の生活に活用しています。そしてその手法を独自の方法論として身につけられるよう整理したのが、本書で紹介する「推論法」です。

特筆すべきは、帰納法と演繹法だけでなく、「アブダクション」 - プラグマティズムの哲学に基づく仮説的思考法 - についても触れられている点です。これらは、多数の具体例を用いて紹介され、ビジネスにどのように応用すべきか、その手順が分かりやすく説明されています。さらに、これら3つの推論法を組み合わせて使う方法まで提供されており、その独自性が際立っています。

AI技術の普及により、今後は多くの職種が不要となる可能性があります。これまで重要視されてきた、大量の情報を記憶し、所定の手順を効率的に遂行する能力は、今後はそれほど役立たないかもしれません。それに対して、自身で推論を行い、問題解決に活用する能力は、時間が経っても価値が低下しないでしょう。これが新たな価値を創出するための不可欠なスキルとなるでしょう。

不確かな状況の変化を解釈し、確実な結論を導き出す「推論力」が今、求められています。これはビジネスにおける核となるスキルで、希少な価値を持つと言えます。
帰納法は、事実から共通性を見つけ、結論を導き出す手法です。演繹法は、既存の前提に基づき結論を導く手法です。そして、アブダクションは、発生した事象に対して法則を適用し、仮説を導き出す手法です。
これら3つの推論法を組み合わせることで、新たな法則や仮説を発見し、未来を予測することが可能となります。

「推論力」とは何か?「推論力」の価値


私たちは今、すぐに訪れる未来さえ予測しきれない状況に置かれています。このような時代において、「目の前に存在する事実」だけに注目するのではなく、「背後に隠された要素は何か」「どんなルールが影響しているのか」「可能な未来はどんなものか」を理解する力が求められています。これを可能にする能力が、不確定な状況から確実性を生み出す「推論力」です。
著者は推論力を、「未知の事象に対してロジカルに推理し、論理的に適切な結論を導き出す力」と定義し、ビジネスにおいて欠かせない能力であると述べています。
多くのビジネス活動は、変動しない環境を「前提」とし、その前提に基づいて「推論」を行い、「結論」を導き出すというプロセスで進行します。この視点から見れば、前提から結論へとつなぐ推論力は、ビジネス思考の中心的な役割を果たします。
また、推論力は分析力を向上させる上で必要不可欠です。すべての物事は、「視覚的に認識できる事実」と、「推論によってのみ理解できる関連性」から成り立っています。だからこそ、何かを分析するときには、事実とその関連性を、推論によって明らかにする必要があります。
さらに、推論力はビジネスコミュニケーションでも重要となります。論理的一貫性を保つことで、「意図したメッセージが伝わらない」状態を避けることができます。さらに、推論力は生産性の向上や優れた提案の作成にも必要です。
以上のように、見えないものを推論し、適切な結論を導き出す推論力は、ビジネスで必要とされる主要なスキルを補完する中心的な能力となります。情報が氾濫する現代において、重要な情報を見つけ出し、精確な解釈を行う推論力は、高く評価される能力となります。

事実から一般性を導き出す帰納法

さて、論理の舞台に立つなら、どの役者を選びますか?「帰納法」、「演繹法」、「アブダクション」、これらの思考ツールは誰もが使える力強い推論の方法論です。それぞれについて、少しずつ紹介していきましょう。

まず、出番を待っているのは「帰納法」。この方法は、一見分散している事実から糸を引き、共通点を見つけ、それによって大きな結論を紡ぎ出すための方法です。例えば、ある企業Aの社員たち、三人が全て真面目な性格であるという事実があるとします。この「共通点」から、その企業Aが真面目な社風であるという結論を描くことができるのです。

しかし、帰納法は強力なツールである一方、その使い方には注意が必要です。なぜなら、これは事実の集合から共通点を見つけ、それを一般化して結論を出すという方法であり、その過程で3つの注意点に気をつけなければならないからです。それは、選択した事実に偏りがある場合、共通点の発見に飛躍がある場合、そして結論部分で飛躍がある場合です。

先程の企業Aの例を考えてみましょう。もし他にもっと自由な社員が多く存在するとすれば、真面目な社員だけを見ていたことは事実選択の偏りとなります。だからこそ、帰納法を使うときは、選んだ事実に偏りがないか、またその事実が全体を代表しているかどうか、常に考えなければならないのです。

さらに、真面目な性格の社員が三人いるという事実から、「官僚主義的な性格」を発見するというのは、共通点の発見における飛躍です。その結果、評価が偏ってしまい、推論に主観が混入すると見られてしまいます。最後に、真面目な性格という共通点から、「企業Aの業績は安定している」と結論づけるのは、明らかに結論の飛躍です。

帰納法は、具体的なサンプルから一般的な結論を導き出す手法であり、その結論が必ずしも100%論理的に正しいとは限らない。しかし、それは「高い確からしさを持つ論理的結論」という意味では、非常に有用なツールです。

ビジネスの現場では、「顧客や意思決定者の期待と納得」を追求することが重要です。そのため、帰納法を、多様な事実から洞察を引き出し、それを相手と共有するための「コミュニケーションツール」として捉えることで、その活用の範囲は大きく広がるでしょう。

帰納法的頭の使い方4つステップ

さて、あなたがもし帰納法の使い手となるならば、どのように頭を使い、どの手順を踏むべきでしょうか?その答えを、4つのステップで解き明かしてみましょう。

第一のステップは、観察の魔法を使うこと。あなたの目は、さまざまな事実に気づく為の最強の武器です。その視力を鍛えるには、目の前の世界を厳しくスクラトニーし、変化や比較を捉え、あたり前のものにも疑問を持つといった視点を持つことが必要です。つまり、目を絞り、フレームワークを持ち、自分の世界を常に問い直す。それが観察力の魔法です。

次に二つ目のステップへと進みます。ここでは、あなたが集めた事実の中から共通のパターン、つまり共通点を見つけるのです。その方法は二つあります。「観察的帰納法」は直接的に共通点を見つけるもので、まるで事実のパズルを組み立てるようなものです。一方、「洞察的帰納法」では、物事を抽象化し、多角的な視点を持つことで洞察的に共通点を見つけます。これはまるで、様々な角度からパズルを見て、一枚の絵を想像するようなものです。

第三のステップでは、あなたが見つけた共通点から、ついに結論や法則を導き出すのです。これまでの努力が花開き、推論の輪郭が見えてきます。

最後に四つ目のステップでは、新しく見つけた法則を他の分野へと応用します。これはアナロジーの魔法で、あたかも新しい法則が鍵となり、他の未解決の問題の扉を開くようなものです。あなたが見つけた法則が他の分野にも適用できれば、その法則は信憑性が高く、応用範囲が広いものとなります。

ビジネスの世界では、「何をやらせても優秀な人」が存在します。彼らの持つ共通点とは何でしょうか。それは、どんな些細な事実からでも「見えないもの」を見つける力、それを洞察的帰納法で「法則化」する力、そしてそれをさまざまな分野に応用する力です。彼らはこの4つのステップを繰り返し、日々の中に新たな洞察を見つけ出し、絶えず成長を続けるのです。

結論のマジシャン:演繹法とその精妙さ

演繹法とは、ひとつの魔法の杖のようなもので、「前提となるルールに物事を当てはめて、結論を導き出す」推論法を指します。この魔法の杖は「演繹的推論」や「三段論法」とも呼ばれ、さまざまな現象を鮮やかに説明します。

この演繹法は、帰納法とは対照的に、その立脚点を「前提となるルール」に置くところに特徴があります。そのため、このルールが正しければ、「当てはめるか?」「当てはめないか?」の二者択一で結論を導くことができ、どんなに異なる視点を持つ人々でも同じ結論にたどり着くことが可能なのです。

では、具体例を見てみましょう。
前提となるルールは、「身長が伸びれば体重は増える」。
当てはめる物事は、「来年は身長が伸びるはずだ」。
そして導かれる結論は、「よって、来年は体重も増えるはずだ」。
このように、正しい「前提となるルール」を設け、それに対して物事が当てはめられるかを考えることで、演繹法は堅固な結論を導き出します。

しかしこの魔法を使う際には注意が必要です。二つの警戒点があります。ひとつ目は、前提となるルールが間違っている場合。間違った魔法の杖では、正確な結論を導き出すことはできません。二つ目は、形式ばかりにこだわり、内容を見失うこと。演繹法は結論を導く力強さがある一方で、ただ形式に従うことによって思考が停止しやすいという欠点も持ち合わせています。

このように、演繹法は強力なツールではありますが、その使い方によっては、あなたの思考を閉ざす鍵ともなり得ます。正しい前提を設定し、形式にとらわれずに内容を見つめることで、この魔法を真に活用することができます。

演繹法の戦略:三つの思考の柱

演繹法という推論法を身につけるためには、次の三つの思考の柱、あるいはステップを踏むことが求められます。この三つの柱を理解し、活用することで、皆さんも一貫した確固たる結論を導き出すことができるようになります。

最初の柱は、「前提となるルール」を見極めることです。このルールが演繹法の土台となるため、ここをしっかりと見定めることが非常に重要となります。

次の柱は、この前提となるルールに「目の前の物事」を当てはめることです。しかし、ここで大切なのはただ機械的に当てはめるのではなく、「この前提は本当に正しいのだろうか?」「前提は十分に検討されているか?」という視点を持つことです。なぜなら、前提となるルールが絶対的に正しいとは限らないからです。

最後の柱は、結論を導き出すことです。演繹法では前提が全てとも言えるほど重要で、その前提が崩れれば、推論や結論もすべてが崩れてしまうのです。ですから、「演繹法の論理が妥当なのか?」をしっかりと検証することが必要となります。

この三つの思考の柱は、演繹法の利点と弱点を見事に示しています。前提が誤っていると全てを誤るという弱点がある一方で、「前提の設定次第で、結論は無限に変わる」という可能性もあります。だからこそ、「徹底的に前提を疑う」ことで、新たな視点や発想を引き出すことができます。

アブダクション:仮説思考を磨き、新たな可能性を見つける冒険

「何が起こったのか?」から「なぜそれが起こったのか?」へと視点を向け、新たな解釈や仮説を見つける。それがアブダクションという推論法です。演繹法や帰納法と並ぶ三つ目の推論法として注目を集め、その特性はまさに「未踏の領域への冒険」を体現しています。

アブダクションの具体的な例を挙げてみましょう。
例えば、ある朝、庭に出てみると、前の晩にはなかった足跡が見つかったとしましょう。これは「起こった現象」です。次に「法則」を当てはめます。「庭に誰かが歩けば、足跡が残る」という法則を考えてみます。この法則を現象に当てはめると、「庭に足跡があるから、誰かがここを歩いた」という仮説が導き出されます。これがアブダクションの一例です。

また、企業が経験する「売上の落ち込み」という現象。普通に考えれば、「顧客数の減少」が原因だと考えるでしょう。しかし、アブダクションを活用すれば、「商品の単価低下」も原因となる新たな仮説を生み出せます。このように、アブダクションは想像力を駆使して様々な仮説を掘り下げ、可能性を広げることができます。

しかし、これらの仮説を豊かに生み出すためには、何が必要でしょうか。それは、多くの「法則」を心に刻み込むこと、それらを巧みに使い分ける「洞察力」が求められます。現象を見た瞬間、心に蓄えられた法則を駆使し、その場で仮説を立てる。これこそが、仮説思考の醍醐味なのです。

ビジネスの世界でアブダクションを活かす場面は幅広く、「問題発見と解決の局面」、「物事の背後にある価値を見抜く局面」、「既存の現象から新たな法則を見つけて応用する局面」があります。しかし、注意すべきは、演繹法と混同しないことです。演繹法は既知の前提から未来を予測するもので、アブダクションは起こった現象から原因を探求するもの。それぞれの推論法は目的と使用される局面が異なります。

では、アブダクションを活用するための手順は何でしょうか。まず最初に自覚するべきは「起こった現象」。それが仮説を生む種火となります。その後、その現象を「適切な疑問」に変換し、さまざまな法則を当てはめて仮説を導き出す。そして、仮説を構造化し、さらに深い仮説を探求する。最後に、仮説と現象との間の「因果関係」を検証します。

このように、アブダクション、帰納法、演繹法を組み合わせて使うことで、未知なる法則や仮説を発見し、未来を予測する力を身につけることが可能となります。「なぜ?」と問い続けることで、新たな発見があり、その発見を元に未来を予測する。この繰り返しによって、視野は広がり、見える世界は一層豊かになることでしょう。

アブダクションの使い方を5つのステップにまとめます。
ステップ1:「起こった現象」に自覚的になる。
ステップ2:変化や差、共通点、矛盾、プロセスに気づいて適切な「疑問」を持つ。
ステップ3:さまざまな法則や理論を「起こった現象」に当てはめて、適切な仮説を導き出す。
ステップ4:「仮説を構造化」し、ロジックツリーをつくる。
ステップ5:「仮説」と「起こった現象」との間の「因果関係」を検証する。
ビジネスにおいて推論力を活かすためには、単一の推論法だけでなく、複数の推論法を組み合わせることが重要です。アブダクションは「なぜ?」と疑いを持つ発想ですが、洞察的帰納法と組み合わせることで新たな法則や仮説の発見につなげることができます。そして、得られた法則に演繹法を加えることで、法則を活用して未来を予測する力を養うことができるでしょう。このように、3つの推論法を組み合わせて使うことで、より多くの気付きや洞察を得られ、見える世界が格段に広がることが期待されます。


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