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真相真理覚醒教団【ショート・ショート】


(序)我こそは真実を知る者である!

ネット上をあれこれ検索していたとき、こんな文句が目に飛び込んできた。

神山京一オンラインサロン~真相真理覚醒~
”あなたは気づいているだろうか!?世の中、偽りの情報・フェイクニュースだらけということを!
私達は真実に覚醒めているが、世の多くの人は深い眠りについている。
私達がいくら声を大にして真実を伝えても、覚醒めていない者たちは、それを陰謀論と一蹴し嘲り笑う。それはまるでノアを嘲笑し神の裁きにより深い水の底に沈んでいった者たちのようだ。
諸君!悪魔に魂を売りわたした連中は国家ぐるみで善良な市民を騙してきたのだ。そんな腐った権力者たちによって改ざんされた悪魔サタン偽りの歴史を終結させ、今こそ善なる神の歴史を私達の手によってつかみとらなければならない!”
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有料オンラインサロンに勧誘するためのキャッチコピーにしてはまったく訴求力のない、一体何を伝えたいのかよくわからない文章だ。
ただ、『私は真実を知っている! 私は覚醒めている!
というハイテンションで高揚感あふれる熱い情熱だけは伝わってくる。

それにしても、エヴァンジェリストか福音伝道者、あるいは預言者を気取ったような者が、無料(ただ)じゃ真実を教えない、というのはどういう心理状態にあるのか?

『ネットワークビジネスという名のねずみ講』から『新興宗教団体』『カルト教団』など似たような思考傾向・精神構造をしている人たちと数多く接してきた小野寺は、この団体にある種の危険な薫りを嗅ぎつけ、同時にとてつもない好奇心を抱いた。

早速、月額12,000円もの高額な料金を支払い入会してみた。

実際、オンラインサロンに入会してみると目新しい情報はさほどなく、主催者神山の、演説調で情報商材屋がよく書くような煽りっぽい文章がやたら際立っていた。

会員たちも神山に負けず劣らずテンション高い長文のレス・コメントを書いていた。

神山や会員たちの投稿におもわずツッコミを入れたくなるような内容もあったのだが、小野寺はこういったハイテンションの雰囲気が苦手だし、大衆が知らない真実を教えてくれるということで情報収集が目的だったので、コメント(やツッコミ)は一切しなかった。

レスやコメントを自粛していたことは結果的に、正解だった。

すこしでもネガティブコメントをすれば、神山はじめ取り巻き会員らがものすごい勢いでレスを返してくる。他の会員の目に触れさせたくないのか、ネガティブコメントは多くのボジティブコメントや関係のない話題で埋め尽くされてしまう。なんにもしらない幼子のように素朴な疑問からの質問でも同じだ。最終的には、神山が気に入らない会員は強制退会させられてしまうのだ。

そんな不条理な強制退会の刑にあった会員たちを小野寺は何度も目にしてきた。

明らかな誹謗・中傷は強制退会になって当然だが、サロンや神山を貶めるような内容でなかったとしても、批判的な意見には容赦しないという雰囲気だった。

そもそもサロン内の規則が明確でなかったのだから神山の裁量で会員維持を判断されたのは致し方ないが、それなら神山みずから「俺がルールだ!」と言ってもらったほうが清々しいし、固っ苦しいノウガキを連ねた規則なんかより、方針が明確になるというものだ。

まあ、神山の言動をみていれば「俺がルールだ!」と言外ににおわしているのは明らかなのだが……

オリジナルリサーチ

小野寺は真相真理覚醒オンラインサロンのより深い部分を探るため、オンラインサロンでの活動を続けた。彼は神山京一の過去、会員たちのバックグラウンド、その他オンラインサロンについての情報を探し始める。


小野寺はコーヒーを淹れながら、自宅のデスクに向かいPCの画面を眺めていた。真相真理覚醒オンラインサロンの公式ウェブサイト、掲示板、さらにはSNSにまで及ぶ神山京一とその会員たちの数々の投稿を見つめながら、彼はオンラインサロンの深淵を探ろうとしていた。


神山の過去についての情報は驚くほど少なかった。大学在学中には物理学を専攻し、ある企業に就職したが、その後はいわゆる情報商材ビジネスに手を出し、ついにはこのオンラインサロンを立ち上げたという程度だ。ただし、その過程で何が彼を真実の"覚醒者"にしたのか、どうして彼はこのようなオンラインサロンを作り上げることになったのか、それはまだ謎だった。


会員たちのバックグラウンドもまた、多種多様であり、一概には語れなかった。サラリーマン、フリーランス、主婦、学生、退職者……彼らは様々な背景を持ちながら、何か共通したものに引き寄せられるかのように神山の元へ集まっていた。


そして、オンラインサロン自体について。なぜ人々は神山の言う真実を信じ、高額な会費を払い続けるのだろう。その答えを見つけるためには、もっと深く、もっと内部へと入り込む必要があるだろうと小野寺は感じていた。


それで、神山が行っている定期的なオンラインミーティングに参加することを決めた。今までは静観していたが、これからはもっと積極的に関与していく。だが、そのためには注意深く振舞う必要がある。神山の独善的なルールに抵触するような行動は避けなければならない。


小野寺は深呼吸をして、コーヒーカップを手に取り、次のミーティングの開始を待った。これから始まる探求の旅に、彼自身も気づかないうちにワクワクしていた。今回の調査が何をもたらすかはわからなかったが、そこには間違いなく新たな真実が待っていると確信していた。



反逆者たちの会議

神山のオンラインサロンには神山の言葉を信じ切っている信者たちが大半を占めていたが、中には小野寺と同様、疑問を持つ者たちもいた。その中には前線で医療を担当している若き医師、元新聞記者、そして現役の大学教授など、様々な背景を持つ者たちがいた。彼らは教団の中で自分たちだけのコミュニティーを作り、神山の言動を見守り、分析し、そして批評していた。

小野寺はそんな彼らとインターネット上で偶然出会い、彼らのコミュニティーに参加することになった。そこで彼は神山の教えが広く信じられている理由、信者たちが神山をどのように見ているのかなど、自分一人では得られない情報を手に入れることができた。

小野寺が仲間を得たことで、彼の調査は新たな局面に入る。彼らと共に神山とその教団の真実を暴くため、更なる調査へと進むことになるのだった。

真実の影に隠れた謎

小野寺は通常より一足先にオンラインミーティングに入室した。初めての共同作業、これまで彼が一人で行っていた調査が、これからは多角的な視点から行われるという事実が彼をワクワクさせていた。

画面上に他の参加者の名前が次々と表示されていく。誰もが匿名で参加しており、顔を見せることはなかった。それでも、彼らの名前と背景を知っているだけで、これまで一人で進めてきた調査が新たなフェーズに進んでいることを実感した。

ミーティングが始まると、まず元新聞記者が最新の神山の言動について報告した。彼は神山の言動を冷静に、そして詳細に記録していた。そしてその言動から神山の可能な目的や意図を読み取るのが彼の役割だった。

次に医師が、神山が述べる「真実」の医学的な意味合いやその根拠を評価した。そして最後に、大学教授が神山の言う「真実」が世界の宗教や歴史とどう関係しているのか、またその可能性を解析した。

これら全ての情報は小野寺にとって新鮮だった。神山の言葉をただ批評するだけでなく、それが何を意味し、どのように彼の信者たちに影響を与えるのかを理解することで、より深く彼の調査が進んでいくことを彼は確信していた。

ミーティングが終了すると、彼は改めて自分の目的を再確認した。それはただ神山の言動を暴くだけではない。それが何を意味し、どのように人々の心と生活に影響を及ぼしているのかを理解し、そしてその真実を広く伝えることだった。

小野寺はコーヒーカップをゆっくりとテーブルに戻し、深く息を吸った。新たな調査の一歩が、今、始まったのだ。

元会員との出会い

ある晩、小野寺がオンラインサロンのメンバーによる活発な議論をモニターしていると、突如としてメッセージが届いた。送会員の名前は「鈴木正」。メッセージの内容を読んで、小野寺は驚きの表情を浮かべた。

「あなたは小野寺さんですよね? サロンの中で唯一、何もコメントせずにいる人だから気づきました。私は先月までそのサロンのメンバーで、強制退会させられました。理由は、神山の意見に反論したからです。」

小野寺は心の中で、自身の観察が正確だったことに安堵するとともに、鈴木からの接触に戸惑いを感じていた。しかし、彼のストーリーは小野寺の探求心を刺激し、鈴木と会うことにした。

2日後、都内のカフェで小野寺は鈴木と対面した。中年の男性で、どこにでもいるような普通の人物だ。しかし、彼の瞳には神山とそのオンラインサロンに対する深い憎悪と恐怖が浮かんでいた。

鈴木は神山によって作り上げられたサロンの内部構造を詳細に語り、神山が真実を隠していると主張した。彼は神山がフェイクニュースを用いて会員たちを操り、疑問を投げかける者を退会させ、自身の独裁的な統治を続けていると告げた。

また、神山が自身の過去を詳細には語らない理由も鈴木は明らかにした。彼によると、神山はかつて詐欺師であり、多くの人々から金を騙し取っていたという。そのため、自身の過去について話すことは彼にとって都合の悪い事実を暴露することに他ならないのだと鈴木は主張した。

小野寺は鈴木の言葉を全て鵜呑みにするつもりはなかったが、彼の話は神山とそのオンラインサロンについての新たな視点をもたらした。小野寺は自身の疑問を解決するため、更なる真実を追求する決意を固めた。

真実の探求

小野寺は元会員の情報をもとに調査を進め、神山の教えが自身の影響力を維持するための虚偽であることを確信する。さらに、彼は神山が会員たちを精神的に操作し、彼らから金銭を巻き上げていることも突き止める。

鈴木の告白を聞いてから、小野寺は神山についての調査を一層深めることに決めた。最初の目標は、神山の過去についての情報を探すことだった。

元会員からの情報を元に、小野寺は神山がかつて関与していたとされる詐欺事件について調べ始めた。インターネット上の記事や掲示板、関連する判例などを探し回った末に、神山がかつて詐欺師だったという事実が裏付けられた。名前は変えていたが、その特徴的な言葉遣いや行動様式から、確信に近い疑念を持つに至った。

さらに、小野寺は神山が自身の影響力を維持するための虚偽を積み重ねていることも明らかにした。真相真理覚醒オンラインサロンで語られている"真実"は、大半が神山の作り話や歪曲された情報だった。そして、それを信じた会員たちは、神山の説く"真実"に従って行動し、その結果として神山に利益をもたらす形になっていた。

なぜなら、真実を求めて神山の教えに耳を傾ける会員たちは、オンラインサロンの活動に金銭的な支援を行っていたからだ。神山は、自身が語る"真実"の説得力を増すために、巧妙に会員たちの心理を操作していたのだ。

会員たちは、自分たちが真実を知るために支払う金銭が、神山の手に渡ることでより多くの"真実"が得られると信じていた。しかし、それは神山が自身の利益のために作り出した幻想に過ぎなかった。

小野寺は、神山がオンラインサロンを通じて繰り広げている詐欺行為を露呈する決意を固めた。しかし、彼がまだ見ぬ真実が、どれほどの混乱を生むのかは、これからの調査で明らかになるだろうと思いながら、新たな一日の調査に取り組んだ。

驚愕の過去

調査を進めていくうちに、神山は単なる詐欺師でないことが判明した。

実は、神山京一という名前の背後には、一人の男のいくつもの闇深い過去が隠されていた。彼の詐欺師人生の中でもっとも非道い悪行は、宗教法人を隠れ蓑にした詐欺行為だった。

神山は「真光真光様」(マコマコさま)と呼ばれ、地方都市にある教団『真の真理求道協会』の教祖だったことがわかった。

彼は独特の雰囲気と説得力ある言葉で人々を惹きつけ、その信じる力を信者たちに求めた。真光真光様としての神山は、自分だけが真理を知り、人々を救済する能力があると信者に教えた。しかし、その裏側で、彼は信者たちから巧妙に金を巻き上げ、自分の私腹を肥やしていた。彼は自分が純潔であると称しながら、裏では可愛い好みの女性信者と性的な関係を持っていた。

しかし、神山の鬼畜の悪行を天が見逃すわけがなく、結局神山は詐欺罪で逮捕され懲役3年の実刑判決が言い渡された。出所後は、ひっそりと身を潜め整形手術をし偽名を使い各地のホテルを転々としていたらしい。

教えてくれたのはオンラインサロンの会員で、元教団信者の女性だ。あの事件はずいぶん昔のことだし記憶も薄れていた。しかし、独特のイントネーション・言い回し・口癖・ねちっこい喋り方が、あの忌まわしい教祖に似ていたので、もしや?と思い彼女も独自に調べていたらしい。

被害者の元信者とは今でも交流があり、性の奴隷にされていたと法廷で証言した女性とも知り合いだったから、当時の証拠物件、裁判記録もしっかりと保管していた。

金を巻き上げるための手段の一つとして、彼は「先祖を全て天国に引き上げる」という、言葉だけの儀式を提供していた。その儀式には驚くべき369万円(ミロク)が必要で、家庭単位であれば通常738万円のところ567万円になるという。「弥勒菩薩さまが56億7000万年後に再臨される」という理由からくるその値段設定は、信者たちには聖なる数字として説明されていた。

ここに、教祖が信者に向けた説教の録音テープがある。法廷に証拠として提出されたものだ。

「あなたがたの持っている所有物が、天のものであるか、サタンのものであるか、それをはっきり知らなければなりません!

なに一つあなたの所有物はありません。それをすべて天のものとして分別しておかなければなりません!

ですから所有権を転換しなければなりません!所有観念をハッキリハッキリ悟らなければなりません!!」

「天の側に立つことができないならば、私の先祖のすべてを殺すことになる!あなたの後孫たちをすべて殺してしまう立場になるのです!

さあこれから、この誓約書にすべてを書いて、書きなさい。

自分の名前、夫の名前、妻の名前、電話番号、所属、あなたの所有権のある動産・不動産……家、土地、ビルディング、自動車から、田んぼ、畑、保険、預貯金……もう、すべてのものを全部書きなさい!!

分かりましたかッ!分かりましたかッ!分かりましたかッ!」

その神山の過去を知ると、真相真理覚醒教団の現状が急速に色を変えて見える。その中で彼が、信者たちをどのように操り、彼らの心と財産を手に入れようとしているのかが明らかになる。

真実の公開

小野寺はこの真実を公にしようと決心する。しかし、それは神山と彼の会員たちにとって大きな脅威となり、彼は神山からの強烈な反発に直面することになる。

小野寺が取り組む新たな任務は、神山とそのオンラインサロンの不正を公にすることだった。彼は自身のブログに、真相真理覚醒オンラインサロンについての真実を詳細に書き留めた。記事には神山の過去の犯罪、オンラインサロン内での金銭の流れ、そして会員たちがどのように精神的に操作されているかを明らかにした。

公開された記事はすぐに拡散し、オンラインサロンのメンバーだけでなく、幅広い読者層に衝撃を与えた。一部の会員からは激しい反発があり、彼らは小野寺を攻撃し始めた。彼らは小野寺の記事を誹謗中傷だと非難し、その内容を全否定した。

そして神山自身からも反発があった。彼は自身のウェブサイトとオンラインサロンで、小野寺を会員たちから遠ざけようとした。神山は「小野寺は私たちの目指す真実を曲げ、私たちを誤った方向へと導こうとする者だ」と非難した。そして彼は「小野寺の言うことは信じないこと。私たちが追求する真実への道を阻むものである」と会員たちに告げた。

しかし、すべての会員が神山の言葉を鵜呑みにするわけではなかった。一部の会員は小野寺の記事に書かれていたことを真摯に受け止め、自分たちが信じてきた教えについて再考するようになった。これらの会員たちは次第にサロンを離れ始め、神山とそのオンラインサロンから自由になる道を選んだ。

こうして、小野寺の真実を暴露した行動は、神山とそのオンラインサロンに対する最初の一撃となった。神山との戦いはこれからも続くだろうが、彼はこれからも真実を追求し、公にすることを決心していた。一人でも多くの人々が神山の誤った教えから解放されることを願いつつ、彼は次の一手を考え始めた。

対立と解決

神山は小野寺を排除しようとするが、小野寺は会員たちや一般の人々に向けて神山の偽りを証明するための証拠を公開する。それにより、オンラインサロンの会員たちは次々と神山から離れ、最終的には神山の影響力は消えていくことになる。

神山は小野寺を完全に排除しようとした。彼は自分のオンラインサロンを守るため、小野寺に対する虚偽の誹謗中傷キャンペーンを始め、会員たちに対し、小野寺の記事が全て嘘であると信じ込ませようとした。

しかし、小野寺はただ静観しているわけにはいかなかった。彼は対抗策として、神山の不正を証明するための更なる証拠を公開した。小野寺は神山が行っていた金銭詐欺や、会員たちを精神的に操作する手法について詳しく説明した。さらに、小野寺は強制退会させられた元会員たち、そしてカルト教団の元信者たちの証言も集め、それを公開した。

これらの新たな証拠は、会員たちや一般の人々に衝撃を与え、神山に対する疑念を深めることとなった。証拠の数々は神山の不正を如実に示し、彼の言葉が虚偽であることを明らかにした。

その結果、オンラインサロンの会員たちは次々と神山から離れ始めた。彼らは神山が真実を隠し、自己利益のために会員を利用していることに気付き、その虚偽の教えから解放される道を選んだ。

神山の影響力は徐々に失われ、彼のオンラインサロンは急速に縮小していった。オンラインサロンは遂には解散し、神山自身もインターネット上から姿を消した。それは、小野寺が始めた神山との戦いの終わりを告げるものであった。

小野寺は最後に、ブログでこう書いた。

「私たちは真実を追求し続け、それを公にすることによって、虚偽から解放されることができる。我々が選ぶのは真実か偽りか。その選択は我々自身に委ねられている。」


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