因果応報1【怖い話・不思議な話リライト】
あらすじ
近所に住んでいた精神的に問題を抱えた女性について、母親から聞いた話。彼女は奇行を繰り返し、一時期入院していたものの、両親に無理やり連れ戻され、孤立したままガンで亡くなります。彼女の死後、葬儀に参加した人々の間で奇妙な噂が立ち、彼女が住んでいた一軒家を覗いた人々は、家の様子に恐怖しました。そして、その家では彼女の霊が現れると噂されます。
その家の過去には隣家の曾祖母が結納金窃盗の疑いで自殺した事件があり、その疑惑をかけたのは亡くなった女性の父親でした。家族に次々と不幸が訪れ、最終的には父親も脳梗塞で倒れ入院中。娘の霊が今も家に徘徊しているという恐ろしい噂が残ります。
家の近所に住んでいた、ある女性の話をしようと思います。
この女性、名前を出すのは避けますが、母の同級生でした。もし生きていれば、今頃50代後半になるはずです。ところが彼女の人生は、常軌を逸した振る舞いと狂気に彩られたものでした。
彼女の奇行は数知れません。例えば、3メートルもある細長いマフラーを編んでは近所中に配る。ある日、金属バットを持って隣の家に殴り込みをかける。冬でもノーブラでタンクトップ姿、ほうきで家の前を掃きながら、春が来ると誰彼かまわず喧嘩を売る。そして、電話を使ったイタズラを趣味にしていたと言います。そんな彼女は、精神的に何か問題を抱えていたのは明らかでした。
一時期、彼女は病院に入院していましたが、無理やり家に連れ戻されました。両親の保護も十分とは言えず、二度の結婚と離婚を繰り返した後、1、2年前にガンで亡くなったと聞きます。最期を迎えたのは、結婚の際に母屋とは別に建てられた一軒家。問題は、その女性の死の前後から始まるのです。
彼女の両親は、自分の娘の精神的な問題を恐れていたのか、彼女をその一軒家に閉じ込め、食事も適当に与えるだけ。病気が進行する中でも、病院に連れて行くことなく、精神的にもどんどん壊れていく彼女を放置していたのです。そして、最期を迎えたときには、当然、手の施しようもなく亡くなりました。
その後、警察が検分に訪れたものの、両親は罪に問われることはありませんでした。田舎では、葬式には近隣住民が手伝う習慣があります。母もその葬式に参加しましたが、その時、妙な話を耳にしたのです。葬儀の最中、好奇心に駆られた何人かの女性たちが、死んだ彼女が住んでいた一軒家を覗きに行ったと言います。
「内田さんなんて、家に入った瞬間、全身鳥肌立ってさ、『私は言えない、私は言えない』って繰り返すばかり。そりゃあ当たり前だよね!狂った人間が住んでいた家だもの。掃除なんかしてないし、弁当の残骸は散乱してるし、血だらけの布団がそのままになってたんだよ。ガンで痛くて暴れてたんだろうね」
そしてその布団は、葬式の後、ゴミ集積所に捨てられていたそうです。丸めることもせず、そのまま……。近隣住民の間では「出る」と言われている彼女の幽霊が、今でも母屋に現れるらしいのです。母屋には多くの部屋があるはずなのに、最近では使っている形跡がほとんどない。母親もまた、恐怖に駆られ、親戚中に「家にいるのが怖い」と泣きついているのだとか。
近所でも、彼女の霊が母屋から一軒家に徘徊しているのを見たという噂が絶えません。彼女は、死んだことに気づいていないのかもしれません。かつて与えられていた食事が届かないことに気づき、母親のもとへ這いずるように向かっているのではないかと、私や母は思っています。
その後、母は近所の人たちと一緒に、あの家に一人残された母親のお見舞いに行ってきたそうです。俗に言う「様子見」ですね。母が言うには、その家、普段から誰も寄り付かないような異様な雰囲気が漂っていると。母も「これで終わりにしようね」と、話しながらその場を後にしました。
思い返せば、あの家にはいろんな因縁がありました。例えば、隣の農家の曾祖母が自殺した話。お嫁さんを迎える準備をしていた時、結納金が盗まれたのですが、その容疑をかけられたのが曾祖母だったのです。3万円という当時の大金を盗んだ疑いで、自ら命を絶ちました。そして、その嫌疑をかけたのが、今入院中のあの家の父親です。
悔しさのあまり、その家族は拝み屋を呼び、ご近所中が集まりました。拝み屋が言った言葉は「今この家にいない者が盗んだ」。つまり、曾祖母を死に追いやったのは、例の家の父親だったのです。それ以来、その家には不幸が続きました。
一人娘は精神を病み、最期は無残な形で亡くなり、父親も今や脳梗塞で入院中。もはや、二度と家に戻ることはないでしょう。そして、あの家には今も生きている人間が一人、そして……得体の知れないモノが一人。
あの家はもう、終わりです。母が語った話を聞き、因果応報という言葉が、ふと頭に浮かびました。
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