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【カナン神話】聖書・キリスト教の研究-06/#139
旧約聖書の核心にあるのは、ヤハウェとフェニキアの神バアルとの戦いだと言える。イスラエルの民がどれだけヤハウェへの信仰を貫き、バアル崇拝に引き込まれないか、その争いが描かれている。しかし、この争いの本質を理解するためには、バアルを中心とするカナン神話の世界観を知ることが重要だ。
カナン神話
カナン神話を理解せずに、旧約聖書の本質には迫れない。例えば、イザヤ書に取り込まれた「シャヘルの堕天」の物語は、カナン神話の影響が色濃く見られる。このシャヘルに関する物語を紐解き、続いてカナン神話に登場する神々の関係を系図で整理していく。
カナン神話
カナンの土着宗教は典型的な多神教で、他の農耕民族と同様にオリエントの宗教の影響を受けています。ウガリット遺跡の粘土板に、楔形文字でカナン神話の記録が残されていました。カナンの神々は自然の色々な力を人を格化したもので、本来の主神・最高神はエル(エリ)でした。名前の意味は「強き者」とか「第一の者」で、玉座に座った雄牛の角のはえた老人の姿で描かれています。「神の父」「大地の創造者」「雄牛エル」等の呼称もあり、川の流れにより、土地を肥沃にした神、豊穣さと剛力を待った神と言われました。ウガリットの粘土板物語によると、海岸を歩いていたエルは波の中にとびこみ、エルの手が波のように伸びて女性に子を孕ませ、口づけと抱擁によって、それそれシャレム(夕暮れ)とシャヘル(夜明けの星)という神々が産まれたとされています。
カナンの神話における神々は、多神教の体系の中で位置づけられており、その中でも最高神が「エル」と呼ばれていた。エルは力強さや支配を象徴し、豊穣と闘争を司る存在だった。そして、シャヘルとシャレムという神々は、明けの明星(金星)と宵の明星を表している。当時の人々は、明け方と夕方に見える金星が同じ星だとは知らず、別々の星だと考えていたため、これらを異なる神格として崇拝していた。シャヘルは明けの明星、シャレムは宵の明星としてそれぞれの役割があった。
この神話の最後の部分に出てくる話は、エルが海岸を歩いている際に女性を見て欲情し、強引に妊娠させたというもので、シャヘルとシャレムの誕生を語る場面だ。ここで「剛力」という言葉が象徴するのは、エルの強引さや力の象徴であり、無理やり行われた行為を暗示していると言える。
シャレムとシャヘルの伝説
シャレムとシャヘルにまつわる物語は、実は非常に重要で、しかし多くの人には知られていない。特に、聖書だけに目を向けている人々やキリスト教に関心を持つ人たちでも、この周辺の神話や文化的な背景をあまり深く掘り下げないことが多い。そのため、この物語の重要性に気づくことが少ない。
一方、カナン神話や周辺文化について自ら調べた人にとっては、この物語がいかに重要かがよく分かる。このシャレムとシャヘルの話は、ただの神話の一部ではなく、旧約聖書やその他の宗教的テキストにも影響を与えており、古代の信仰や世界観を理解する上で無視できない要素だ。
ウガリット粘土板「シャレムとシャヘルの伝説」
シャレムとシャヘルは宵の明星と明けの明星にあたり、カナン神話の主神エルの息子。2人は砂漠に住む神でしたが、太陽の生誕を意味する明けの明星シャヘルは、太陽の王座を奪おうとし逆に天から落とされます。同文書に「シャヘルよ、なぜに天から落ちたのか」と記述されています。これに関連して、イザヤ書14章12「ああ、お前は天から落ちた、明けの明星、暁の子よ、お前は地に投げ落とされたもろもろの国を倒した者よ」。
この「明けの明星、暁の子よ」は原典では「暁の子ルシフェル」のようで、聖書で唯一のルシフェルへの言及です。シャヘルが太陽神に反逆して堕とされるというカナン神話の存在が、ルシフェルの神への反逆の伝説の下敷きになっていると思われます。
└------検証
シャヘル(Shahar)とシャレム(Shalem)は、カナン神話において明けの明星(暁の神)と宵の明星(夕暮れの神)を象徴する双子の神であり、主神エルの息子とされている(Smith, M. S., The Early History of God, 2002)。
シャヘルが太陽の王座を奪おうとして天から落とされたという神話については、直接的なエビデンスは存在しない。しかし、イザヤ書14章12節に「暁の子、明けの明星よ、なぜあなたは天から落ちたのか」という記述があり、これは新バビロニア王国:ネブカドネザル2世の傲慢を非難する比喩として用いられている(Hebrew Bible, Isaiah 14:12)。この「明けの明星、暁の子」はヘブライ語で「ヘイレル・ベン・シャハル(Helel ben Shahar)」と書かれており、「シャハルの子、輝ける者」を意味する。ラテン語訳聖書(ウルガタ版)では「ヘイレル・ベン・シャハル」を「ルシファー」と訳しており、後にキリスト教の伝統において堕天使の名前として定着した。この節は後にルシファーの堕天伝説と関連付けられたが、カナン神話のシャヘルと直接結びつける明確な証拠はない。
したがって、上記文章の一部は史実に基づいているが、いくつかの点で異なる神話や伝承が混同されている可能性がある。
ルシファー=サタンではない
オリゲネスという古代キリスト教の大神学者は、ルシファーを悪魔の堕天の物語として捉え、さらにルシファーとサタンを同一視する誤りを犯した。キリスト教の世界観ではルシファーとサタンが同一視されているが、事実としては別の存在だ。ルシファーとサタンはどちらも実在するが、別の存在である。しかし、オリゲネスの誤解によって、ルシファー=サタンという考えが広まり、それが現在でも続いている。
この誤解の原因は、キリスト教の教父や神父たちが、神々の世界についての深い知識を持っていないことにある。彼らは自分たちの狭い世界観に閉じこもってしまい、異なる存在を正確に区別できなかったため、ルシファーとサタンを混同してしまった。
オリゲネス自身は偉大な神学者であり、ルシファーという存在がかつて堕天したことを直感的に理解していた。しかし、彼が誤って同一視したルシファーは、カナン神話のシャヘルとは全く異なる存在であり、別の悪の根源だった。オリゲネスの直感自体は鋭く、彼がルシファーという存在に目を向けたことは正しかったが、ルシファーとサタンを同一視した点で誤りを犯してしまった。
この誤解がキリスト教全体に広がり、ルシファー=サタンという考えが定着することになった。現在に至るまで、ルシファーやサタンがそれぞれどのような存在であるかを正確に理解している人はほとんどいない。多くの人々がこの二者を同じ悪魔だと誤解している。
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最高神エルは、アブラハムの時代以降に一族内でエリの複数形エロヒムとなったとも考えられてますが。アブラハムにあらわれた神は「エル・シャダイ」(全能の神)と記述されています。更にメルキゼデクが王であったサレムもシャレムから来ているようで、エル・シャレムがエルサレムの言葉になったのではないかとも。
サレムの王メルキゼデク=マイトレーヤ説(ベンジャミン・クレーム)
16 そして彼はすべての財産を取り返し、また身内の者ロトとその財産および女たちと民とを取り返した。
17 アブラムがケダラオメルとその連合の王たちを撃ち破って帰った時、ソドムの王はシャベの谷、すなわち王の谷に出て彼を迎えた。
18 その時、サレムの王メルキゼデクはパンとぶどう酒とを持ってきた。彼はいと高き神の祭司である。
19 彼はアブラムを祝福して言った、/「願わくは天地の主なるいと高き神が、/アブラムを祝福されるように。
20 願わくはあなたの敵をあなたの手に渡された/いと高き神があがめられるように」。アブラムは彼にすべての物の十分の一を贈った。
エルは妻のアシュラト(アシェラ)は70人の息子を生みます。最初に生まれたのはヤムで7つの頭をもつ竜、リバイアサンと同じ人格とも言われます。他の息子にモトとアトルがいます。モトは死神で、アトルは母のアシュラト同様南アラビア起源らしいのですが、メソポタミアではイシュタールと呼ばれます。イシュタールは本来男性だったらしいのですが、メソポタミアではシュメールの女神イナンナと混同されて女神になったと言われます。ウガリットでは女神アシュタルテとなります。
注:リバイアサン(レビヤタン):伝承では、イスラエル人の一部が信仰する蛇神・ネフシュタン(Nefushtan)に由来し、レビ記に登場する祭司民族レビ人もこの神の子孫であるとする仮説もあります。しかし、ヤハウェとの争いに敗北し、悪魔の地位に貶められ海に沈められたとか。キリスト教七大罪・嫉妬の対応悪魔。
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聖書には全く記述がないが、エルの玉座をシャヘルが狙い、息子であるシャヘルが落とされたという話がある。この「堕天」という概念は、天から落ちたという意味ではない。そもそも地獄であり、彼らは地獄の主たちだった。紀元前2000年以前、ハムはエルと呼ばれる神であり、彼がブラックロッジのトップに立っていた。ブラックロッジは一言でいえば無間地獄であり、その暗闇の組織の頂点にエルが君臨していた。しかし、シャヘルはそのトップの座を狙ったが、逆にやられてしまった。だから「堕天」とは言わず、むしろ地獄の支配を巡る争いであった。
つまり、彼らは天から堕ちたわけではなく、もともと天にいた存在ではなく、地獄にいた存在なのだ。それが理解されていない点だ。さらに、ここに登場する者たちは全て地獄の主たちである。たとえばイナンナ・イシュタルも地獄の主であり、聖書で「悪魔の頭」と言われている通り、悪魔である。彼らは全て悪魔であり、本質的には神ではない。
なぜ彼らが神として崇められているのかというと、ノアの息子たちのうち、セムは大祭祀であり神に仕える立場にあった。しかし、それ以外の者たちは地上で非常な権力を持ち、たとえばニムロデのように、非常に強力な力を持ち、自らを神だと宣言した。そして、自分たちを神として人々に崇拝させた。だからエル神やアシェラ神と名乗り、彼ら自身を神にしたわけだ。しかし実際には彼らは非常に邪悪であり、地獄に落ちていった存在であった。
彼らは地獄の中で派遣争いを繰り広げ、しばらくの間はエルがトップに立っていたが、紀元前2000年頃から状況が変わり、内部の争いによっていろいろと変化していった。
このように、彼らの一族、つまり闇の一族と呼ばれる者たちは、ヤハウェという存在と関係がある。ヤハウェはエノクとされており、エノクの戦いが背景にある。旧約聖書の構造はそういったものだ。
本来、ユダヤ人はセムの子孫であり、セムの子孫がアブラハム、イサク、ヤコブへと続き、ヤコブの子孫がイスラエルとなった。そして、イスラエルは北と南に分かれ、南のユダ王国が離散し、ユダヤ人と呼ばれるようになった。つまり、イスラエル人とユダヤ人はほぼ同じ存在だが、ユダヤ人は南王国から離散した者たちを指す。そして、そのレビ人は基本的にセムの家系に属している。
本来セムの家系であるはずが、カナンの子孫が混じっているということだ。レビ人とされる祭司の中にカナンの子孫が多く存在し、ヤハウェではなくリバイアサン、つまりカナンの蛇神を崇拝するようになった。リバイアサンは爬虫類人、いわゆるレプティリアンの象徴である。
聖娼(共有物としての女性)と呼ばれたアシェラ
注:アシェラ(アシラ、Asherah):カナン神話のエルの妻で前述のシャヘルとシャレムの母、天界の雌牛。シュメールではアシュナン(Ashnan、万物の力、心のやさしい寛大な乙女)。天地を生み出した母なる女神と考えられた母権制時代には、ヘブライ人は木立の下で女神を崇拝しました(列王紀上第1章23)。しかし後に、父なる神と言う父権制時代になると、改革者たちは女神像を切り倒し、アシェラに仕える聖職者たちの骨を彼らの祭壇の上で焼きます(歴代志下第34章4)。女神の木立(女陰)は「聖なる場所」(聖娼という意味も)で、アシェラは「神聖」とも呼ばれました。
神話の構造に大きな転換が起きたBC2000年
BC2000年頃の西部セム族の神話で転機があったようです。エルを神々の王で若々しく力に溢れ、すべての他の神々は家族として彼の足下にひれ伏していました。そこへ、バールという若者がやって来ます。彼は妹と称するアナト(アシュタルテ)という女神を連れていました(夫婦と言う説も)。魅力的な美しいアナトはエルのお気に入りになり、おかげでバールはエルの息子たちを追い抜き、エルの第一の寵童になります。しかし、バールは仲間と共謀して突然エルを襲い、エルを去勢しますので、エルは全く無気力に陥ります。エルは息子たちに復讐を命じますが、長男のヤムはバールの返討ちに会い、次にモトが挑んでバールを殺害します。しかし、次にはそのモトをアナトが殺し……なんと後にバールもモトも復活してしまいます。
バアル=ニムロデ
カナン神話の中心的話がバール神で、一部地域ではエル神の孫でダゴン神(マリ王国で崇拝されていた豊饒の神、ペリシテでは海神)の息子ともされています。雷や雨の神で、雨を降らし植物に生命を与える豊穣の神とされました。神々への生贄には、牛・羊・鳩等の動物や鳥が捧げられたようですが、礼拝の終わりには宗教的売春行為があった事が指摘されてます。フェニキアでは、人間を生贄に捧げる風習もありました。ペリシテ人の都市エクロンでは、バールはバアル・ゼブル神として祀られていましたが、これは「気高き主」あるいは「高き館の主」を意味し、恐らく嵐と慈雨の神バールの尊称の一つと考えていたようです。
ペリシテ人の敵対者ヘブライ人はこれを邪教神とし(列王紀下第23章)、この異教の最高神を語呂の似たバアル・ゼブブ(蝿の王)と蔑みます。新約聖書では、ベルゼブル(ギリシャ語)と呼ばれ悪霊のかしらとされています。
セム=メルキゼデク(マイトレーヤ)
ノアの大洪水において、旧約聖書ではノアの家系のみが生き残ったことになっている。しかし、実際にはそうではないが、そう書かれている。ノアの息子たち、セム、ハム、ヤペテのうち、セムの家系はアブラハム、イサク、ヤコブへと続き、イスラエル人として選ばれた民となった。一方、ハムの系統は悪魔的な存在となり、地獄に落ち、ブラックロッジを支配する者たちとなる。この者たちも何百年に一度、転生して人間として地上に現れ、権力を握って悪事を働く。
セムの子孫として「メルキゼデク」という存在が登場するが、実はこのメルキゼデクはマイトレーヤと同一人物であり、セムの転生である。つまり、セムがメルキゼデクとして生まれ変わり、さらにメルキゼデクがマイトレーヤとして存在している。セムはアブラハムの時代にメルキゼデクとしてエルサレムのシャレムの王かつ大祭司として活動していた。
このように、メルキゼデクの背後にはハイアラーキーが霊導しているが、同時に地獄の支配者たちも地上に転生し、激しい戦いが繰り広げられていた。その最大の戦いが起こったのは紀元前2000年頃であるとされる。
なぜその時期に大きな戦いがあったかがわかるかというと、シュメール文明やメソポタミア文明の記録に基づいている。例えば、紀元前2100年頃にウル第3王朝が興り、5人の王が統治したが、最後の王が紀元前2029年から2006年まで在位し、その後滅びる。次にバビロニア王国が成立するまでの約100年の間は大混乱が続いた。この紀元前2000年頃に、ハイアラーキーと闇の勢力が地上での勢力争いをしていたと考えられる。
最終的にどちらが勝ったかと言えば、闇が勝利したと見られる。バビロニア王国が確立したのは、闇が勝利した証拠であり、バビロニアの神々や彫像が不気味であることもそのためである。
旧約聖書では一度敗北し撤退するが、新バビロニア王国が倒れた際、大いなるバビロンが滅びるという記述がある。これが聖書の流れである。
このバアル神やその神話は、紀元前2000年頃に大きな変換が起こっている。それは、かつての最高神エルが転落し、別の神がその地位を奪ったことによる。このように、神話の構造が大きく変わった時代であった。
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