サッポロビール都市伝説【セイスケくんのエッセイ】
こんな話をきいた。
昭和の終わり頃、バブル経済の真っ只中、日本では数々の都市伝説が飛び交っていた。その中でも特に異彩を放つのが「男は黙ってサッポロビール」というフレーズを巡る都市伝説。
果たして、この伝説は本当にあったことなのか?
それとも単なる噂話なのか?
まず、このフレーズ自体はサッポロビールの有名なキャッチコピーとして知られている。俳優の三船敏郎が無言でビールを飲む姿とともに、「男は黙ってサッポロビール」という力強い言葉が日本中に浸透した。
しかし、このキャッチコピーが企業の面接に絡む都市伝説として語られることとなったのは、実に興味深い。
サッポロビールの広報によれば、「男は黙ってサッポロビール」と面接で言って合格したという話は否定されている。
それでも、都市伝説は根強く残っている。
「実際に『男は黙ってサッポロビール』と言った知り合いがいる」と語る人までいる。
この人の話によれば、内定はもらったものの、入社はしていないとのこと。
この逸話がさらに伝説に拍車をかけたのかもしれない。
都市伝説が広まる中、面接でこのフレーズを真似する学生が続出した。
しかし、彼らは即座に不採用になったという話もある。
これは、ナントカのひとつおぼえ、同じネタが繰り返されるうちに、その効果も薄れたからだろう。
では、なぜ最初にこのフレーズを面接で言った学生は合格できたのか?
その背景には、バブル時代の独特な就職活動の風潮がある。
当時は超売り手市場であり、学生たちは企業に対して自らの印象を強く残すことが求められた。まさにインパクトが重視された時代だった。
この学生は、「男は黙ってサッポロビール」というフレーズを使うことで、他の応募者と差別化し、強い印象を残すことに成功したのだろう。
バブル経済の華やかな時代と共に語り継がれるこの都市伝説は、単なる就職活動の逸話ではなく、日本の経済と文化の一端を垣間見ることができる興味深い話である。
ポストZ世代の語り草で終わらせることなく、未来の世代にも語り継がれていってほしいと願う。
追記:記憶の捏造
ひとつカン違いしていたことがある。
当時のCMをリアルタイムで見ていた世代としては「男は黙ってサッポロビール」は「ニッサン……」といえば反射的に「ブルーバード!」と言ってしまうくら刷り込まれてしまったフレーズだが、久しぶりにYouTubeでこのCMを見るまで、三船敏郎がシブい声で「男は黙ってサッポロビール」と言っていたとばり思い込んでいた。
三船敏郎は文字通り、黙ってサッポロビールを飲んでいた。
だが、ときとともに、あの名コピーが三船敏郎の声に変換されていたことに気づいた。
自分で自分の記憶を捏造していたのだ。
これは心理学用語で虚偽記憶(false memory)または過誤記憶というらしい。
思い違いやカン違いと片付けてしまえば、些細なことかもしれない。
しかし、虚偽記憶は脳がいかにして情報を処理し、再構築するかを示す興味深い現象だ。
例えば、「あの映画、主演俳優がこう言ってたよね」と話すと、「いや、それは別の映画だよ」と返されることがある。自分の記憶が曖昧になり、他の情報とミックスされてしまうのだ。
虚偽記憶は単なる個人的な経験にとどまらない。歴史的な出来事や社会的な記憶においても、虚偽記憶が影響を与えることがある。
「マンデラ効果(マンデラエフェクト)」と呼ばれる現象がある。これは、多くの人々が同じ間違った記憶を共有する現象で、ネルソン・マンデラが1980年代に死んだと記憶している人が多いことから名付けられた。しかし、マンデラは2013年に亡くなった。
こうした虚偽記憶は、いかにして過去を再構築し、理解しようとするかを示す一方で、記憶の曖昧さと信頼性の限界を浮き彫りにする。
だからこそ、自分の記憶を過信せず、常に検証し、疑問を持つことが重要なのではないだろうか。