見出し画像

もうひとつの三体問題【都市伝説】


「三体問題」――その言葉を聞くだけで、胸の奥にじわりと不安が広がる人もいるかもしれない。天文学や物理学に詳しい人なら、「三体問題」が「三つの天体が互いに重力の影響を受けて動くとき、その動きを正確に予測するのが極めて難しい」という理論だと説明できるだろう。だが、この「三体問題」が数式やシミュレーションを超え、現実世界の奇妙な出来事と絡んでいることを知る者は少ない。

すべての始まりは、ある地方の山奥にひっそりと建つ観測所での出来事だった。
その観測所は古びた設備ながら、独自の研究を進める小規模な施設で、研究員たちは夜ごと天体を追い続けていた。ある晩、観測機器が記録した天体の動きが、通常では考えられないパターンを示した。三つの天体が微妙な三角形を形成しながら、まるで生き物のように滑らかに軌道を変え合っていたというのだ。

「こんな動きは見たことがない……」
研究員たちはその動きに息を呑んだ。奇妙なのはそれだけではなかった。その夜を境に、観測所では不可解な現象が次々と起き始めた。望遠鏡やデータ保存装置が次々に故障し、修理をしてもすぐに同じ箇所が壊れる。観測所の責任者は「老朽化のせいだ」と初めは説明していたが、次第にその顔色は変わっていった。

「修理したはずの機器が壊れるたびに、どこか見えない何かに妨害されているような気がしてならなかったんだ」と後に語ったという。さらに、周囲の住民から「夜中に耳鳴りが止まらない」「動物たちが狂ったように暴れる」といった苦情が相次ぐようになった。観測所の周辺は異様な雰囲気に包まれていった。

だが、それらはまだ序章に過ぎなかった。
ある深夜、観測データを調べていた若手研究員が突如として姿を消したのだ。部屋には散らばった書類と、彼が残したと思われる走り書きだけが残されていた。その紙片には、ただ一言――「彼らは見ている」とだけ記されていた。

「彼ら」とは誰なのか?
それ以来、観測所の研究は急速に縮小され、ついには閉鎖に追い込まれた。地元紙は「財政難による閉鎖」と報じたが、内部の研究員たちは密かに「観測所の上空に三つの光が浮かんでいた」と語り合っていた。その光が、観測された天体と一致するのではないかという憶測が飛び交ったが、誰もその真相を明らかにしようとはしなかった。

この事件をきっかけに、「三体問題」は一部の研究者やオカルト愛好者の間で特別な意味を持つようになった。ただの数学的な問題ではなく、宇宙の「向こう側」に存在する未知の知的生命体やエネルギーの痕跡ではないかという議論が巻き起こったのだ。

不気味な一致もある。
例えば、過去に「三体問題」を研究していた物理学者たちの中には、不可解な失踪や突然死を遂げた者も少なくない。1970年代、ある大学の研究チームが三体問題の特異点を解析していた際、リーダーが忽然と姿を消した。その後、彼のノートからは、またしてもあの言葉が発見された――「彼らは見ている」。

こうした話の多くは都市伝説と片付けられることが多い。だが、興味深いのはこれらの事件の一部が実際に記録に残っている点だ。観測所の閉鎖や研究者の失踪については新聞記事や警察記録で確認されている。しかし、それ以上の詳細や「三体問題」との関連性については、確たる証拠は存在しない。

一つだけ確実なのは、「三体問題」は単なる数学の難問を超え、私たちの理解を超えた何か――深遠な謎を孕んでいる可能性があるということだ。そして、その謎が解かれる日はまだ遠いのかもしれない。

もしも夜空を見上げ、三つの光が互いに追いかけるように動く様子を見たなら――その光が消える前にじっと見つめるべきだ。それは、ただの天体現象ではないかもしれない。彼らが見ているのは、もしかしたらあなたの世界そのものかもしれないのだから。

豆知識:三体問題とは

三体問題とは、天文学や物理学で扱われる古典的な問題で、重力で相互に作用する3つの物体の運動を予測することの難しさを指す。この問題は、物理学のニュートン力学に基づいており、惑星や星、衛星などの運動を考えるときに重要になる。

基本的な背景

  • ニュートンの万有引力の法則によれば、2つの物体がある場合、それぞれが互いに引っ張り合う力(重力)を持っている。この2つの物体の運動(二体問題)は比較的簡単に計算できる。

  • しかし、3つ以上の物体が相互に引力で作用する場合、それぞれの物体が互いの重力の影響を受けて複雑に動く。このような状況では、物体の動きを正確に予測するための一般的な解法は存在しない。

なぜ難しいのか?

三体問題が難しい理由は、次のような点にある。

  1. 非線形性
    重力の影響はすべての物体間で相互に絡み合っており、一つの物体の動きが他のすべての物体に影響を及ぼす。このため、運動のパターンは単純ではなくなる。

  2. カオス的性質
    初期条件(物体の位置や速度)のわずかな違いが、長期的な運動に大きな影響を与える。これをカオスと呼ぶ。

  3. 解析的な解が存在しない
    数学的には、三体問題における物体の動きを完全に表す公式(解析解)は見つかっていない。そのため、数値計算や近似的な方法で解くしかない。

応用例

  • 天体力学
    太陽、地球、月の関係をモデル化するとき、三体問題の研究が必要になる。

  • 宇宙探査
    宇宙探査機の軌道を計算するとき、複数の天体の重力を考慮する必要がある。

  • 物理学や数学の研究
    カオス理論やダイナミクスの研究に関連して、三体問題の性質が探求されている。

簡単な例

太陽、地球、月を考えてみると、

  1. 太陽と地球の間には重力が働いている。

  2. 地球と月の間にも重力が働いている。

  3. 太陽と月の間にも重力が働いている。

これらの力の相互作用で、地球や月の運動が複雑に変化する。そのため、地球や月の正確な位置を長期的に予測するのは難しい。三体問題は、現代のコンピュータシミュレーション技術を使うことで、近似的に解を求められるようになっているが、それでも完全な解決には至っていない。

参考書籍紹介:三体問題/浅田秀樹

宇宙に浮かぶ3つの天体の運動――それが「三体問題」だ。17世紀初頭、ニュートンが万有引力の法則を明らかにし、「2つの天体」の運動を解き明かした。しかし、「3つの天体」の運動は、科学者たちを悩ませ続けてきた。
オイラー、ラグランジュ、ポアンカレ――歴史に名を残す天才たちも、「三体問題」の「一般解」を見つけることはできなかった。その理由は何なのか?「解ける」とはそもそも何を意味するのか?
400年にわたる挑戦を振り返ると、人類は驚くべき発見をしてきた。「オイラーの直線解」や「ラグランジュの正三角形解」といった特殊な軌道を持つ「特殊解」の存在。そして、万有引力の法則から始まり、アインシュタインの一般相対性理論や重力波へとつながる理論の進展。さらに、「カオス理論」やコンピュータを使った数値解析へと研究は進化を遂げた。
この問題は天文学にも多大な影響を与えた。星の位置を知る「位置天文学」や軌道計算などに応用され、20世紀初頭にはラグランジュが発見した特殊解を基に「トロヤ群」と呼ばれる小惑星群の存在も明らかになった。

400年にわたる科学者たちの努力が生み出した「三体問題」の歴史。その背後に広がる数学と科学の奥深い世界を探る、最高にスリリングな一冊。科学の冒険に触れる絶好の機会となるだろう。

SF作品:三体

『三体』は、中国の作家劉慈欣(リウ・ツーシン)によるSF小説で、三部作として構成されている。「三体問題」と物理学のテーマを軸にしながら、人類と未知の宇宙文明との遭遇を描いた壮大な物語だ。中国初のヒューゴー賞受賞作でもあり、現代SFの名作として世界的に評価されている。


物語の概要

第1作『三体』
中国の文化大革命時代から始まり、物語は現代まで進む。地球外文明「三体文明」との接触を巡るストーリーが展開される。

  1. 序盤
    中国の天文学者である葉文潔(イェ・ウェンジエ)は、文化大革命の中で家族を失い、政府の極秘プロジェクト「紅岸基地」に参加する。この基地は地球外生命体との通信を目的とした施設である。

  2. 三体文明の登場
    葉文潔は偶然、地球外文明に向けて信号を送ることに成功し、三体文明と接触する。三体文明は、三体問題に苦しむ恒星系に存在する高度な知的生命体だ。この星系では、恒星が予測不能に動くため、文明が何度も滅びと再生を繰り返している。

  3. 地球への脅威
    三体文明は地球を植民地化するために侵略を計画するが、光速通信による連絡で侵略艦隊が地球に向かうまで数百年かかることがわかる。この間、人類は三体文明にどう対応すべきか悩む。

  4. 三体ゲーム
    同時に、三体問題をテーマにしたVRゲームが物語の鍵を握る。プレイヤーたちは三体文明の歴史や環境を理解する手段としてこのゲームを通じて学び、謎解きに挑む。


主なテーマ

  1. 科学と哲学
    三体問題を背景に、科学的な問題や人間の知性の限界、宇宙における人類の立場が問われる。

  2. 人類の団結と分裂
    三体文明の存在を知った人々の中で、協力して防衛する派(地球派)と三体文明に協力して地球の未来を託そうとする派(三体派)に分かれる。

  3. 文明の衝突
    先進的な文明と、比較的未熟な地球文明の間で、知識・技術・倫理観の違いが問題となる。


続編

  1. 第2作『黒暗森林』(The Dark Forest)
    宇宙における「暗黒森林理論」が登場。これは、「宇宙は生存競争の場であり、他文明を見つけ次第、攻撃するしかない」という恐ろしい法則を描く。

  2. 第3作『死神永生』(Death’s End)
    物語はさらに壮大になり、宇宙の最終的な命運に関わる展開が描かれる。


評価

『三体』は、リアルな科学理論と哲学的な深みが融合した作品で、多くのSFファンを魅了した。物理学や天文学に興味がある人はもちろん、壮大なスケールの物語や人間の本質について考えたい人にもおすすめの一冊だ。


#掌編小説 #短編小説 #ショートショート #小説 #オマージュ #怖い話 #不思議な話 #怪談 #都市伝説

いいなと思ったら応援しよう!