テキ襲来
おかしい。
最近、居心地が悪い。
ずっと誰かに見られている。
こんなことは初めてだ。
これがモテ期なのか?
日陰の存在として生きてきた僕。
いつも食事は、
社員食堂の観葉植物裏の席。
そこで陰キャ同僚の武藤くんと、
アニメの話で盛り上がる。
それでも学生生活みたいで、
僕には充分楽しかった。
でも今日は違う。
観葉植物が萎れてしまうほどの熱視線。
この降り注ぐような視線は、
きっと紫外線より危険だ。
複数の女性社員が僕を見てる。
なんで、こうなった?
女性に興味がないわけではない。
実は僕。
誰にも言ってないけど、
マッチングアプリで恋人探しをしている。
お年頃です。
ニックネーム:アモーレ
男性。年収300万。
車なし。親と同居。
特技:ブレイクダンス(嘘)
趣味:内緒❤
マッチングはいまだ1件もない。
そんな僕にこの不可解な状況。
原因はなんだ?
思い出してみよう。
ザワザワし始めたのは月曜日。
その前の週末は会社の懇談会。
考えられるのはあれしかない。
まず僕は飲めない。
みんながビールで乾杯する中、
僕はいつも烏龍茶。
だからは僕はシラフだ。
乾杯が終わると、
徐々に会話は熱を帯び始め、
いつもその中心には係長がいた。
カッコいい…。
あのスーツいくらするんだろ?
僕が着ても同じにならないのはわかってる。
広告モデルと鏡の中の自分のギャップぐらいわかる。
でもそのネクタイはどこ産なんですか?
いいなあ~。
あんなに流暢に話せて。
しかもちょいちょい、
オシャレな冗談挟んで、
笑いもとってる。
どう生きれば、
あんな人間になれるんだろ?
いや、もう考えるな。
これ以上の比較は、
自分を傷つけるだけだ。
こんな時はいつもの武藤くんと、
楽しく新作アニメの話で盛り上が…
ガッ~デム!
武藤くんが女子3人と話してる。
しかも…めっちゃ楽しそうに…。
酔ってる…顔赤いな~…上機嫌だな~。
でも、あんな武藤くん初めて見た。
同じキャラだと思ってたのは僕だけ?
少し寂しい。
しょうがない。
最終手段だ。
部長の隣で無心になって、
自慢話を聞いてるふりをしよう。
……。
何もなかった。
何も起こってない!
モテる要素がひとつもない。
女子に注目される理由も見つからない。
その前なのか?
いや、その前は平日で仕事だけだし、
女性との接触すらない。
「資料お願いします」
「付箋もらいますね」
一週間で、
声をかけられたのはこれだけ。
待てよ!
飲み会の最後の…帰り際《ぎわ》!
「相田くんお疲れ様~」
珍しく同僚の持田さんに挨拶された…。
「相田くん飲んでないの~」
酔っ払った手塚さんにも絡まれた…。
「相田くんって長男なの?」
人気の木下さんにまで…。
あれ?
この3人って。
「武藤くん」
「なに?」
「聞きたいんだけど。
この前の懇談会で女性社員の人に、
何か僕のこと…話したりした?」
「……さあ?どうだったかなあ…」
明らかなフェイク(嘘)。
「もう一緒にアニメイト行ってあげないよ」
「ああ、ごめん!それだけは勘弁。
実は僕。前から女子社員の人と、
話してみたかったんだ」
「それで?」
「でも、僕ってアニメの話しかできないでしょ?
何か共通の話題はないかなあって考えてた時、
相田くんの顔が浮かんだんだ」
「……」
「それで思い切って、
相田くんのことを話題にしてたらさ。
めちゃくちゃ受けて!
本当、楽しかった!
係長っていつもあんな気分なんだね、きっと。
もう人生初の最高の夜だったぁ!」
「武藤くん」
「ごめん。ちょっと浮かれちゃって。
でも、そんな何でもは話してないよ。
アニメオタクのことも、
マッチングアプリの名前が、
相田の愛でアモーレって痛い名前なのも、
言ってないから」
「知ってたの?!」
「僕もやってるからね。
あんな登録の仕方するの、
相田くんぐらいでしょ?」
「色々ショック!」
「話したのは相田くんの良いところ」
「良いところ?」
「すごく優しくて、
人に気遣いができて、
家庭的な人なんだよって」
「武藤くん…」
「弁当は毎日、自分で作ってくるし、
実はあの弁当袋も自作だよって。
家ではゴミ出しもするし、
掃除・洗濯も得意だって話を…」
「まさか?!」
「みんなすごく興味持ってた。
あとお父さんが会社役員なのにも、
もっと食いついてた。
ワンちゃんあるかもだって。
何のことだろね?」
「武藤!!
きっさ~ま~!!!!」
お疲れ様でした。