#9 相性を育みたいふたりへ
僕たち夫婦はしょっちゅうお腹を下します。
ちょうど今朝のこと。起床後忙しなく朝の家事をこなす僕と妻の動きが、同時に鈍り始めました。腹痛が始まったのです。
僕たちの脳内では小さくオクラホマミキサーが流れ出し、目の前のタスクに気もそぞろ、トイレへの動線確保に意識を集中し始めました。
人類史上もっとも醜い椅子取りゲームの始まりです。
さりとて朝は忙しい。臨戦態勢の親を尻目に2歳と4歳の息子たちはやれパンをよこせYouTubeを見せろと要求の嵐です。次第に強くなる腹痛に比例して、脳内オクラホマミキサーの音量も大きくなっていきます。
前方では我が子の喚き声、後方ではテレビからピタゴラスイッチ、脳内ではオクラホマミキサー、やかましい朝です。
いよいよ脳内オクラホマの音量が後方ピタゴラをかき消した頃、次男が「うんちした」と妻にオムツ替えを要求してきました。その言葉を聞いた瞬間に爆音オクラホマの音はしんと消え、僕たちの理性はついに崩壊。
絶望の面持ちでオムツを替える妻を後にし、空いたお皿の片付けを口実にキッチンへと向かった僕は、そのままトイレへ直行し便器を勝ち取りました。
間もなく敗者が悲痛に扉を連打。
こんこん、とんとん、どんどん!ちょっと待ってね、すぐ終わるからああ。
そもそも、なぜ僕たち夫婦は揃ってお腹を下すのか。原因は毎晩のように激辛料理を食べるからです。罰ゲームのような激辛料理を嬉々として食らい、海賊のように酒をあおる夜を重ねながら、夫婦仲良く腸内環境を荒らしているのです。良い子は真似しないでください。
本稿の公開日となる12月9日は僕たちの結婚生活7年目を記念する日であり、妻の誕生日です。そんな大切な日に夫婦で便器を奪い合う話をしているわけですから、正気の沙汰ではないと思われることでしょう。
僕もそう思います。
ふたりの相性について
少々下品な前置きではありましたが、僕と妻との食事における相性の良さは理解していただけたのではないでしょうか。
辛くてニンニクの効いた料理とお酒さえあれば、僕たち夫婦はご機嫌なのです。
本稿ではふたりにおける「相性」について話してみたいと思います。食事に限らず、パートナーと共に生きるうえで相性はもっとも重要な指標だと考えます。
例えば共通の趣味を楽しむふたりは“趣向の相性”が良いのでしょうし、たまにしか会わなくてもそれが心地よいと感じるふたりは“パーソナルスペースの相性”が良いのでしょう。何かひとつでも相性の良さを認識し合えるだけで、パートナーとのつながりを強く感じられるものです。
相性を見るためのアレ
しかし相性は目に見えません。別に見る必要はないですが、仮にもしパートナーとの相性を目視できるとしたら、それを目にする度に「なぜこのパートナーを選んだのか」を思い出せるのではないでしょうか。
例えば、強く願をかけた“お守り”を目にする度に「志望校に受かるぞ!」と発奮したり「安全運転しなきゃ」と意識するように、パートナーとのつながりを視覚で思い出させてくれるようなものがあれば、ふたりが相性の良さを忘れることはないでしょう。そんなものがこの世にあればの話ですが…あるのですこれが。
それはずばり、指輪です。(今更ですが僕はジュエリーデザイナーです)
結婚指輪をはじめとして、指輪は古代から現代まで様々なふたりに愛され続けています。でもそれって何ででしょうか。
偶像的な逸話やスピリチュアル的なことはなしにして考えてみましょう。
なぜ指輪なのか
そもそもこんなにも物が溢れる時代に、指輪が選ばれ続けているのって変だなと思うんです。だって、人となりや関係性によって馴染み深いものは様々なはずですから。
例えば本がきっかけで出会ったふたりならば、証はおそろいの栞でもいいはずですし、筋トレがきっかけで出会ったふたりならばプロテインシェーカーでもいいはずです。
ほとんどの人が指輪と関係ない人生を生きているはずなのに、それでも指輪は選ばれ続けている。持論ですが、その理由は指輪の合理性にあると思っています。
ここでいう合理性とは、その状態が最も適しているということですが、パートナーとのつながりを感じるものを配置する場所として“手”に勝るものはありません。
僕たちは仕事をしていても家事をしていても、無意識に手を見続けています。当たり前ですが、指輪は手にくっついている。だから一日に何度も、無意識に指輪を見てしまいます。ゆえに指輪はもっとも合理的にパートナーを思い出せる証である。という理屈です。
実際に、結婚指輪をつけている既婚者の中にはパートナーに対してやましいことがあると指輪を外す人がいると聞きますが、それは無意識に指輪をパートナーに見立てているからなのでしょう。多くのふたりにとって、指輪が大きな意味を持つことを裏づける事例だと思います。
相性を育みたいふたりへ
話を相性に戻しますが、パートナーとの相性とは、ともすれば利害の一致を示す指標とも言えるでしょう。
「楽しいから一緒にいよう」「楽だから一緒にいよう」。
単純な言葉に言い換えると途端に脆く頼りないものに感じてしまいますが実のところ、パートナーとつながっていたいと願う心の中枢は、子供のように純粋な願望で満たされています。少なくとも僕はそうです。
単純で脆弱な願望だからこそ、美しく頑丈な形に想いを宿したい。そしてその形を目にする度に、脆弱な願望を強靭な信念へと変えていこうとするから、人は指輪を身につけるのだと思います。
ゆえに僕は(ふたりでつける)指輪の本質的な価値は「パートナーとの相性を育めること」だと考えます。そして、その価値だけを丁寧に抽出した指輪として、ふたり指輪『CONNECT』というブランドを立ち上げました。
そもそも指輪ってつける必要ある?と考えるふたりにこそ、ぜひ以下noteをご一読いただきたいです。
繰り返しますが、指輪とはパートナーとの相性を確認するためのものなのです。その証拠に今、指輪を目にした僕の脳内ではオクラホマミキサーが流れ始めています。もちろん腹痛も。
以上、パブロフの犬でした。
SWITCH DE SWITCH 代表 杉原賢さん
デザインチーム SWITCH DE SWITCH 代表。 ソウル生まれ山梨育ち、元軍人のジュエリーデザイナー。2児の父。主な受賞歴にグッドデザイン賞、JJA Jewelry Design Award 2011新人大賞、World Jewelry Design Award 2011 prizeなど。ふたり指輪『CONNECT』、Plant Origin Jewelry『90MM』のジュエリーデザインを担当。
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