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『もう一度旅に出る前に』20 noteのご縁 文・写真 仁科勝介(かつお)

最近、noteのイベント会場にちょっとだけ伺っている。場所は外苑前の青山だ。日没後で、煌びやかな夜の青山は景色がぜんぶ同じに見える。まちを知らなすぎて、ぜんぶ「高そう」とひと括りにしてしまうのが原因だと思う。

この二見書房さんの細々とした連載も、まさにnote上で続けさせてもらっている。ただ、旅に向けた準備のハウツーをまとめる計画が、ぼくの準備不足でだいぶ形骸化してしまって、いまでは私日記っぽさが滲み出てしまっている。

noteのイベント会場に伺うのは、総本山に乗り込むような気持ちだった。あの、あらゆる創作を支えるnoteさん。あなたがぼくが書いている、noteのお膝元。と、建物の前に立って深呼吸をし、左右を確認し、誰もいないことを確かめ、おにぎりをひとつ食べた。会場に入ると誰かの投稿で見たことのある、白くて巨大な本棚が聳え立っていた。圧巻だった。

社員さんとお話をする。みなさんおしなべて優しかった。「note読んだことありますよ!」と何人かの方が言ってくださった。ぼくのnoteはフォロワーさんが800人ぐらいで、おそらくピラミッドで言えば、中ぐらいである。うん万人のフォロワーさんがいらっしゃる人たちを知っているから、少し恥ずかしかったし、もちろん嬉しさもあった。でも、「二見書房さんの連載、読んでますよ!」とは、誰にも言われなかった。そうか、やっぱりそうだ。この連載は、さほど人に読まれていないのではないか‥‥。普段お世話になっている、二見書房の編集者さんの「がんばりましょう!」と鼓舞してくださる表情が目に浮かんだ。「いつか面白いこと書けるまで、待っていてくださいね」ぼくは総本山でひとり、謎に誓った。

いまnoteでは、クリエイターフェスという年に一度の創作の祭典をしている。ぼくはそのすべてではなく、何度かのイベントの撮影でお伺いしている形だ。撮影しながら、たまに耳に入ってくる登壇者さんの話を盗み聞きしていたのだが、それが毎回面白くて、ありがたい機会をいただいたなあと頭が上がらない。

ひとつの回では、発信の仕方について話題になった。ある方が仰った。

「人が知りたいことは、“情報”、“意見”、“日記”の順番です」

カメラが手ブレした。

この連載では、まだ旅の情報はほとんどなく、意見は弱火で、あとはふらふらした日記ばかりなのである。

もうひとつの回では、何を表現するのかについて話題になった。ある方が仰った。

「恥ずかしいことです」

連写した。何かを書きたいと思うとき、それは嬉しさですか、悲しみですか、それとも怒りですか。いいえ、恥である、と。もちろん、ほかの感情も理解している。でも、いちばん身近に扱うのは恥という感情だと。それが、芸人としての立場でもあると。又吉直樹さんの言葉である。最高だなと思った。そういえば村上春樹さんも同じことを言っていた気がして調べたら、まったく同じことを言っていた。

撮影させていただきつつ、創作の総本山でアドバイスを盗み聞きするぼくは、なんとも恥知らずな男である。でも、これも旅に出る前の、いましかできない仕事かもしれない。家に帰って隣人に、「恥をかくことが大事なんだ!」と力説したら、ならばと表情が不意に変わって「ちょっと匂うけど、かつおの靴下?」と言われた。時が一瞬止まった。撮影でいっぱい汗かいたからね。恥って大変だ。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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