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『旧市町村日誌』 55 再び旅の再開へ 文・写真 仁科勝介(かつお)

10月7日(月)

 週末まで能登半島を一週間訪れた。主には珠洲市の銭湯「海浜あみだ湯」に滞在させてもらい、土砂の泥かきから雑用まで、小さくできることをさせてもらった。水害後の能登半島は、ほんとうに良いとは言えない状況だった。ただ、一週間しか訪れていない自分が細かいことは言えないし、今回は旅の視点の方を書きたい。

 

能登半島へ訪れることも、旅を達成するという目標からすれば、合理的ではない選択かもしれない。と、訪れる前に考えた自分もいた。でも、そんな感情の種を心に持っている自分が嫌だったし、そもそも“合理的な基準”を決めているのが、結局は自分なのだから、自分にしばられてどうするんだ、と思った。

 

そして、一週間経って、珠洲での滞在は自分にとって大切な時間になった。旧市町村一周の旅のことを聞かれたら、旅ではないかもしれないけれど、と珠洲の話をする気がする。表面的に、被災地では、とか、水害が、とか、何かを訴えたり、嘆いたり、知ったようなことを言うつもりはまるでない。でも、「珠洲でね、いろんな人に出会ったんだ」という話は、いろんな人にしたい。

 もし、この一週間、合理的な基準を優先して、ごくふつうに旅を続けていたら、今の感情には辿り着かなかった。

 

だから、数週間前まで計算していた旅のプランは、今ほとんど白紙の状態だ。10月には予定も複数ある。いずれも旅先を離れるから、交通手段の計画も立てる必要がある。その中でも効率よく旅を進めるには、できるだけ早いタイミングで想定をつくることがコツだ。

 でも、能登半島を訪れるにあたって、それら先のことをすべて考えないことにしたので、またゼロから考えていくことになる。効率も悪くなったかもしれない。でも、それでいいんだ。そう思える自分がいる。

 

旅を始める前、もしかしたら、どこかで長く滞在することがあるかもしれないと思っていた。でも、いざ旅を進めていくと、この旅を達成するための唯一の方法が、コツコツと進んでいくことなので、休養以外で長く滞在する場所はほとんどなかった。それが今回、やっと、旅を頭から切り離して考えることができた。旅に限らず、生きることが選択を繰り返すことならば、今回の経験は、これからの自分にとっての羅針盤になってくれるのかもしれない。

 自分を大事にすることと、自分を優先させることは、同じように聞こえるけれど、ちょっと違うのかもしれないと思った。自分を大事にすべきだけれど、自分を優先することがすべてではない。もちろん、自分を優先することも悪いことではない。でも、その境界線ぐらいに立ったときに、目の前ではなくて、もっと先の目に見えないものを信じられる自分でありたい。

 

明日から旅を再開します。向き合う相手はひきつづき自分です。がんばりましょう。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。


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