見出し画像

『もう一度旅に出る前に』08 鳥のさえずり 文・写真 仁科勝介(かつお)

結構前かな、ある思い立った日に、野鳥の本と、木の名前の本と、草花の名前の本を買った。ほかにも勢いで魚の図鑑とか、星座の本も買ったのだが、優先順位的に鳥、木、草花が、すごく気になっている。理由は単純で、まちを歩いていると日々、「君の名前は何なんや」状態になるのである。

最近のまち歩きは、東京23区内がほとんどだけれど、それでも耳をすませば、スズメやカラスだけではなくて、いろんな鳥のさえずえりが聞こえてくることに気づく。特に自然豊かな公園であれば、耳を野鳥モードにさえすれば、鳴き声で溢れかえっている。しかし、残念なことに、さえずりはたくさん聞こえてくるのだが、分からないのだ。君は一体、何という鳥ですかと。

目の前で起きている状況に対して、ぼくという受信機が物足りないということが、ものすごくストレスだ。ボイスメモにさえずりを録音して、家に帰って照合もしているけれど、案外見つからない。最初から分かった方がいいなと思う。ならば、もっと勉強しなきゃね。はーい。という流れを、最近は繰り返している。今まで鳥に詳しい人と出会ったときも、あるときは森の中で「静かに、コマドリの鳴き声がするよ」と言われて、とても美しい鳴き声が響いていたこともあったし、あるときは「夏鳥が来た、聞こえてくる」と言われて、そうして季節の機微を感じるのかと気づいた。

草花や木々も同じだ。歩いていると、面白い形、美しい色のそれらにたくさん出会うけれど、君の名前は何なのかというシーンが多くて、ストレスがすごい。撮りたい気持ちになることも多い中で、それらが在来種なのか、あまり芳しくない外来種なのか、どっちなんだいというためらいもある。それだけでも分かれば、楽しさがすごく増すだろうなあと。

まあ、「だったら勉強しよう」という話ばかりだ。結論は出ていて、その通りでしかない。浴びている情報に対して、自分の処理が足りていないと感じる場面が多くて、悔しいし、もったいないなあと思う。ただ、いちばんに「いい写真を撮りたい」という目標があったとして、鳥のさえずりや草花、木々の名前を覚えることに、果たして意味があるのだろうかという話になるかもしれないけれど、それは、大いにあると思う。写真はほとんど、少し前の準備や予測に、大切な要素がぎゅっと詰まっていて、実際、そこでほぼ勝負がついているはずだから。誰もがシャッターを切れるのだから、自分にはどう見えているのか、それをどのように感じていて、何を導き出したいのか、というのは、シャッターを切る前の準備に、原則尽きるはずで‥‥。

という意味でも、鳥のさえずりや、草花や木々の特徴が分かっていると、最終的に撮りたいと思う写真も、微細に変わるだろうし、その世界は、ほんの少しだけ広いだろうなあと思っている。だから、 旅に出る前にできるだけたくさん、鳥や植物のことを覚えておきたい。しかし、思っているばかりではいけないので、勉強しようね、と、書き残しておくことで、自分に対して、「サボったらあかんで」と言っている。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?